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       Q―うちの家では昔から猫を一匹飼っているのですが、今度新たに仔猫を迎えることになりました。 
      先住猫が後から来た猫を可愛がってくれるか心配です。 
二匹以上の猫を飼う上で、何か注意点などはありますか? 
 
A-お答えします……。 
       
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
スタンの家には、今現在猫が二匹住み着いている。 
一匹は三日前、旅行に出かけるというお隣から預けられた猫だ。 
飼い主の愛情をたっぷり注ぎ込まれたアメリカンショートヘアーは、活発な性格と人怖じしない態度で瞬く間にスタン宅に慣れた。 
スタンも、そんな彼女−預かった猫はメスだった−には早くから親しみを覚え、飼い主と同じくらいの愛情を注ぎ始めている。 
しかし――――問題はもう一匹の"猫"の方だ。 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
 
「ただいまー」 
スタンがドアを開くや否や、弾丸のごとく飛び込んでくる影があった。 
影の正体はお隣からのお預かり品だ。 
猫らしからぬ人なつっこさで、靴を脱ぐスタンの背中に、盛んに体を擦りつけている。 
遊べと誘う声はやたら甘ったるい。 
スタンはやに下がりそうな顔で振り返り、熱烈歓迎のお礼に頭でも撫でてやろうとした。 
しかし、背中にいたはずの猫の姿が消えている。 
代わりに、視界には二本の足が生えていた。 
足を上に辿っていくと、手に猫をぶら下げた不機嫌な顔の"猫"にぶつかる。 
「……スーツに毛がつくだろうが」 
忌々しげに舌打ちをする"猫"。 
その正体は、恩返しと称してスタンの家にちゃっかり住み着いたリオンという青年である。 
対するお隣の猫もその扱いに不満なのか、しきりにリオンの手をどかそうと暴れている。 
      リオンは暴れまくる猫の様子に一つ鼻を鳴らすと、あろう事か後ろ手に放り投げた。 
「ちょ、リオン!」 
慌てるスタン。仮にも相手は生き物で、しかも隣から預かった大事な猫だ。 
それをゴミか何かのように放り投げられ、スタンは顔を青くした。 
だが、放り投げられた方はと言うと華麗に着地を決め、残念そうな顔のリオンに向かって牙を剥く。 
リオンはうるさそうに眉をしかめた。 
「まったく……たかが畜生の分際で僕に楯突くとは生意気な。スタンも、こんな奴とっとと隣に返してこい」 
「何言ってんだ、お前」 
猫に視線を合わせたまま吐き捨てるリオンの頭を軽くこつづいて、スタンは家に上がる。 
そして、まだ尾を太くしたままの猫を片手で拾い上げると、大人げない同居人に向かって呆れ果てた視線を送った。 
「隣は旅行でまだ三日は帰ってこないんだって。それとも、おまえはコイツを誰もいない隣に返して、食べるものが無いまま餓死してもいいって言うのかよ」 
「僕は別に構わない」 
「馬鹿」 
何が構わない、だ。 
      にらみ合い、一歩も引かない青年と腕の中の猫を見比べながら、せっかく我が家に帰ってきたというのに、スタンは心が安らぐどころか大いに疲弊していた。
      
      
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