猫の飼い方

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――――深夜の鬼ごっこの末。落ち着いたスタンは青年に話を聞いてみると、彼はなんと恩返しにやってきたのだという。
助けてもらってそれっきり。ハイありがとうさようなら。じゃあ、いくらなんでも無責任すぎると言うのが青年の主張だ。
家の中に増えていた小物は青年の私物らしい。
ベッドはどうしたと訊くと、あっさり「捨てた」と答えられた。
大学時代、バイト代を貯めて買った愛着のあるベッドの末路にスタンは思わず目頭を押さえた。
スタンが苦悩する様をどうとったのか、青年は平然と、
「食費なんかの諸々の雑費に関しては気にするな。自分の分は自分で支払う」
違う。そうじゃない。そこじゃない。それも問題だが、もっと根本的なところがオカシイ。
「恩返しなんか別にいい。それより、早く荷物まとめて家帰れ。いきなり一緒に住むとか……俺にだって都合はあるんだぞ」
「女がきたとき僕がいると困るのか?フン。前に見たときも今も、そんな風には見えなかったがな」
……大当たりだ。コンチクショウ。
スタンは頭を抱えた。
かなりお気楽にできている脳みそだが、見ず知らず――――ではないけれど、それでもよく知らない他人と同居するできるほど楽観的にできていない。
そう――――同居はできない。
「ウチのマンションの規約、見たことあるか?"同居を禁ず"って書いてあるんだぞ」
スタンが現在居住しているマンションは、元々独身男性用に造られたものだ。
二人以上で暮らすのに適した作りをしていないし、ルームシェアも認められていない。
スタンはそれを盾に説得を続けようとした。
しかし、スタンが何か言う前に、青年は一枚の紙切れを眼前につきだした。
紙切れは、このマンションのチラシだった。
顔がひっつかんばかりに近づけられ、目が寄る。
思わず体を引いたスタンに対し、青年はにやりと、なにやらよろしくない笑みを浮かべた。
「僕がそんな事に気づかないとでも思ったか。これを見ろ」
青年がチラシの一文を指さす。
指されたのはマンションの売り文句。
間取りの横に小さく書かれていた文字は、
"ペット可"
「……」
スタンは青年の言いたいことを察し、こめかみから一筋汗を流した。
ウソだろう。そんな冗談みたいな。こんな――――ドラマじゃあるまいし。
希望を込めて青年を見れば、彼は綺麗な紫紺の目を三日月のように細めて、笑った。
「そう言うわけで、今日から僕はオマエのペットになる。これなら問題ないだろう。よろしく、"ご主人サマ"」
詭弁だ――――という叫びが、実際声になったかどうかスタンは分からなかった。






















それから約二ヶ月。スタンは驚くべき適応力を持ってしてペット――彼はリオンと名乗った――との生活に慣れた。
入居当初こそいろいろ問題もあったが、すでに荷物を運び入れられていること、もしもばれた場合速やかに部屋を出ると言われたことも手伝って、しぶしぶながら同居生活はスタートした。
もともと順応性は高い方だ。思ったよりも生活自体はスムーズに送れた。
今まで衝突らしい衝突もない。
リオンの口調はだいぶ乱暴だったが、言っていることは正しいのであんまり腹は立たない。
それに何より、リオンは恩返しするといった言葉の通り、食事洗濯掃除の家事全般を、時にはスタンの持ち帰った仕事の手伝いをよくやってくれている。
スタンの生活はリオンの登場によって一気に楽になった。
むろん、おいしい話ばかりというわけではなく、そこには落とし穴も潜んではいたが……。
「あー。満腹」
リオンの作ってくれた軽い夕食で腹を満たし、さらに風呂まで入ったスタンは、勢いよくソファーに転がった。
手にした缶ビールを一気に呷り、また歓喜の声を上げる。
「うぁー、極楽ぅー」
「行儀の悪い……」
後片付けの終わったらしいリオンがリビングに入ってくる。
スタンの頭を軽くこつづくと、床に落ちたアタリメの袋をゴミ箱に投げ入れる。
放物線を描いてきれいにゴミ箱へ吸い込まれたゴミを目で追いながら、スタンは嘆息した。
「だってさぁー、やっとやっかいな仕事終わったんだぜ。来週から通常業務。もう残業しなくていいんだー」
子供のように足をばたばたさせながら喜ぶスタンに、リオンも嬉しそうな声を上げる。
「そうか。仕事は終わったのか」
「うん。終わり終わり――――って、リオン?」
急に伸し掛かってくる重みに、スタンは思わず頓狂な声を上げた。
拍子に、手にした缶ビールが転がり落ちフローリングに水跡をつけながら転がってゆく。
腹の上に馬乗りになったリオンは、きれいな顔を愉快そうに歪めていた。
ただごとならぬ気配に、スタンは小首を傾げる。できれば、いま心中にある予想が当たっていませんようにと祈りながら。
「えーと。リオン君?」
「厄介事が片付いたのならもう遠慮はいらないな。確か明日は休みだろう」
「うん。休み。休みだから、俺ゆっくり眠りたいんだけど……」
「眠ればいいじゃないか。僕の相手が済んでから、ゆっくりと」
「冗談!」
スタンは逃げ出そうとするが、細身の体のどこにこんな力があるのか。リオンは驚くべき力を持ってして窮屈なソファーにスタンを磔にする。
足掻くスタンを眼下に、リオンはさらに楽しげに頬を緩ませた。
「僕はこの一週間、ペットとしてご主人様のサポートに尽くしてきた。今度はオマエが飼い主としての義務を果たす番だ」
耳元で熱い吐息とともに囁かれた言葉に、スタンの顔からは一気に血の気がひく。
「ふざけんな!どこの飼い主がペットにSexの相手なんかさせる!」
「いるだろう。バター犬とか、そう言うの」
「アホー!!」
平然とのたまうリオンに、スタンは罵声を浴びせかける。
だが、
「うるさい」
まだわめき声を上げようとするスタンの口を、リオンは自分の口で塞いだ。
――――いったいどこでどう間違えたのか。
同居してからしばらくして、リオンは癒しもペットの大事な役割だとほざいて、スタンに襲いかかった。
さんざん泣かされ、喘がされ、最後には足腰立たなくしておいていったいこれのどこが癒しだというのか。
嗄れた声で問い詰めれば、けどすっきりしただろうと言われ、言葉に詰まった。
以来休みの前になると、スタンは必ずこのペットに襲われた。
ここ一週間ほどご無沙汰していたのは、彼なりの配慮だったらしい。
久しぶりの口づけの甘さと激しさに息も絶え絶えになりながら、それでもスタンはリオンを睨んだ。
「こ、こんなふざけたペット見たことねぇ……っ!」
「当たり前だろう。家事もやればSexの相手もする。こんな世界最高のペットが二匹といて堪るものか」
スタンはそれ以上戯れ言を聞きたくなくて、オマエは幸せ者だと嘯くペットの口を唇で塞いでやった。

あとがき

ラストにリオスタ要素をチラリズム(笑)
下手すりゃスタン×リオンに見えかねないこの話。
コレでも一応リオスタのつもりです。

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