■Scene/Six■

パラリ、と床に何本かの髪が落ちる。
頬の横では、硝煙の残り香が漂う。
驚愕する強盗の顔を見て、はさらに笑みを深くした。
「――――弾道なんざ肩と銃口の動き見てりゃ読めんのよ」
「あ、うぅ……」
「決めた」
が突然、銃の形を模した指を突きつけた。
「アンタ達――――霊柩車決定」













「う、うわあぁぁー！」
「乾風！」
めくらめっぽうに撃たれたウサギの弾は、噴出した灼熱の風の前に、成す術なく解け果てた。
「あ、うぅ……う……」
カチカチと聞こえるのは、一向に玉の出ない引き金を引く音か、それとも強盗の歯の根が合わない音か。
「ッ、りゃあァァ〜！！」
掛け声と共にが前に飛び出す。そのままの勢いで蹴りだされた足は、見事ウサギの股間へと命中した。
「……」
声も無く倒れる強盗。
反動でしりもちをついたは、ぽかんとした顔を惜しげもなく晒して、こちらを見つめている。
横では頭のずれたウサギが沈黙中だ。
「……さん」
はふっと、安堵して息を抜く。
しかし安堵の時は長く持たず。
「死ねっ！」
「くどい！」
飛んできた弾丸を、乾風で叩きつける。
「！死にたくなけりゃ、アタシの傍離れんじゃないわよ！」
「あなたの傍の方が全国津々浦々どこよりも危険な気がします！」
（それもそうか）
思ったが、それを言う間もなく今度はパンダが直接飛びついてくる。すんでで避けた次に、ゴリラの足が風切り音を連れ迫る。
「さん！」
「ッ！」
――――悲鳴と肉のぶつかる音が行内に響く。
「……そんな泣きそうな声出さないでよ」
風の力を使って天井近くまで飛び上がった体をゆっくり下ろす。
「危うく挟まれたかと思っちゃった」
相打ったゴリラとパンダの上に立つと、顔を輝かせるに対し、はウィンクして見せる余裕まであった。
（軽い）
無限城の連中に比べればなんと楽な相手か。
ジャンクキッズの雑魚ですら、もっと歯ごたえがあるというのに。
所詮ここまでの相手。
敵じゃあない。
（とっとと終わらせて帰る！！）













「小嵐！」
植物の葉を巻き込んで、荒れた風が銃を持ったくまの手を直撃する。返す仕草で、
「鎌鼬！」
「ぎゃ！」
無数の風の刃がパンダの体を襲う。
「舐めんなぁ！」
「春荒ェッ！」
狙う弾丸を暴風で叩き落す。そのままの勢いで
「竜巻！！」
逃げようとしていたコアラを、縦に出来た風の固まりが襲う。
「くっ、そお！」
やけ気味のゴリラが放つ正拳突きを紙一重でよけ、バックステップ。そのまま高く飛んで、
「銀次さん直伝！イナズマキーック！！」
「ぐあっ！！」
ちょうどみぞおち部分に入った蹴りに、ごりらはくぐもった悲鳴を上げ、その場に倒れこむ。
シン……とあたりは静かになった。
「――――っふぅ」
纏っていた緊張をゆっくり解く。
コレで全部。六匹全部やった。
（――――六匹？）
「ッそオォ――――！！」
（――――しまった、犬！！）
胴体だけイヌの形を残した茶髪の青年が、雄たけびを上げ銃を向ける。
その矛先は――――。
「！」
走り出した足は止まらない。一瞬でも早く彼女の傍に――――ッ。
「――――！！」
ダンッ、と体が床に叩きつけられる。
擦れた腕が熱を持つ傍から、冷たい床に吸い取られてゆく。抱き締めた腕が重い。腕の中には――――　一人の少女。
「セーフ」
歓喜の声を上げようとしたを、幼い声が割り込む。
起き上がったが見たのは、手を押さえて蹲る元イヌの青年と、床に落ちた拳銃と――――テニスボール。
「だ、」
「リョーマ君……」
誰。言いかけたの言葉を、が遮る。
「危なかったね、先輩」
にやりと笑う幼い少年を、はただ呆然と見つめるしかなかった。

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