■Scene/Three■
――――全てはとっさの事だった。 体が動いたと気づいたのは、風が頬の横をすり抜けた後。 朱音は、本能で少女の手を引き、自分の元へと倒れこませた。 膝の上に倒れた少女は、呆然と眼を見開いている。撃った相手も固まっていた。 朱音は、存外に強く握り締めていた手を放し、舌を打つ。 「無茶やんないでよね」 「は……あっ?」 少女の張り付いていた視線が、今度は朱音に向けられる。 見上げる顔のあまりの間抜けさに、悪化したかもしれない状況も忘れ、口元を緩めた。 「テ、テメェ!」 「……うるっさいなぁ」 飛び込む上ずった声に、朱音は思わず眇めた視線を送る。 気色悪いぐらい笑顔を張り付かせた虎が、挙動不審な様子で拳銃を向け、それに倣ったかのように銃を持った動物がいっせいにこちらへ狙いをあわせた。 「あのねぇ。アンタ達、今の状況分かってんの?」 ふつ……と、沸騰する寸前の湯のように、小さく怒りが浮かび上がってくる。 朱音は勢いよく立ち上がると、犯人たちに向ってまくし立てた。 「今この子に当たって、死んだらどーする気だったのよ!強盗の上に殺人なんて、自分で自分の首絞めてるだけじゃない。いい。強盗だけだったらまだいいわよ。大人しく捕まりゃあ、死刑までいかない。でも拳銃なんて使ったら、音で気づかれるは、弾痕残るは、硝煙残るはで証拠残しまくりじゃない!挙句に人殺しだぁ!?ふっざけんな!曲がりなりにも計画立ててたんだとしたらもっとよく考えな、この単細胞!外見だけじゃなくって頭ン中までドーブツな訳!?」 しーぃんと、またしても空間に静寂が満ちる。 もういい。 もう、大人しくしてるのなんて止めだ。 元々性に合わなかったんだ、誰かの助けを待っているだけだなんて。 (やれるもんならやってみろ!全員ミンチにしてやるぅっ!) 「わ、分った!!」 突然、慌てたようにウサギが言った。 「ケガの手当てだろうがなんだろうが、勝手にやれ!!」 「はっ?」 まるで手のひらを返したような対応の変化に、朱音の怒りが削がれた。 見れば犯人側のみならず、行員、はては後ろの少女に至るまで全員やや及び腰となっているようだ。 しかも視線はこっちに集中。 (何、何よぉ……) 燃え滾っていた怒りが、徐々に下火になってゆく。 いまじゃ多少不機嫌な程度だ。 (よくわかんないけど) 「ちょっと、アンタ」 「あい!な、何でしょうか!?」 振り向き、声をかけると、少女に椅子に寝転がったままびくりと震えた。 「お許しがでたわよ。とっとと行って、治療してきたら」 「あ、はい。う……あ、あれ?」 「……何やってんのよ」 少女は椅子に転がったままワタワタと両手を動かしている。 そのまま、まるで雨の中捨てられたイヌのような目で、 「か、体が動きません~」 (アタシ……何やってんだろ……) 一瞬ここが何処かも忘れて朱音は、ふっ、とたそがれた。 |