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横っ面を張り倒された気分だった。 実際、手なんて上げられていない。 けれど。 それと同じような衝撃が、まだ脳の中をがんがんと揺さぶっていた。 「シグレさん、ひどい」 ハクウの肩に手を置いたナナミがもう見えなくなったシグレを非難する。 「あそこまで言わなくったって・・・・・・」 「でも一理あるでしょう?」 「ルック・・・・・・」 ハクウはのろのろと顔を上げた。 「ほら、いつまでもこんな所でぼさっとしてないで、行くよ」 「でも・・・・・・」 ナナミが気遣うような視線をハクウに送る。 「別に行きたくないならいいよ。でももう山賊もどっかに行っちゃってるしね」 ルックがさっさと歩き出す。 「でも本気で後悔したって知らないよ?」 振り返りもせず言われた言葉に、ハクウはびくりと震える。 「・・・・・・参りましょう。まだ間に合うかもしれません」 「可能性を簡単に捨ててはいけない!」 「間に合いますよ、きっと」 「――――行こう!じっとしてたって始まんない!!」 「・・・・・・うん」 それぞれ歩き出す仲間たちを見て、ハクウも後に続いた。 「シグレの事、冷たいと思う?」 急ぐ道すがら、ルックはハクウに問うた。 ハクウは顔を背け、答えようとしない。 「もしもあの時、君が山賊を痛めつけていたら気はすっきりしていたかも知れないけどね。間に合わなかったかもしれないよ」 「・・・・・・」 「シグレの言葉は酷かったかもしれないけれど、真実だった。彼はいつも真実を見通す。自分ではなく、誰かの為に」 「・・・・・・」 「彼は自分の感情を殺す事に慣れ過ぎている」 「何が言いたいの」 「・・・・・・一度、彼の従者が敵の手にかかって死んだ」 「っ!?」 ハクウは目を見張った。 「それって・・・?」 「さっきいた十字傷の人だよ。後でレックナート様が甦らせた」 「そんな事が・・・・・・」 「でも、誰よりも近くにいた人間が、自分のすぐ近くで死んだんだ。そのときも彼は泣かなかった。泣かなかったどころか、殺した相手を赦して、仲間にしたんだ」 「っ!?そんな、まさか」 「まさか、だよ。まぁ、殺した相手は敵に操られていたんだけどね。それでも殺した事には変わりない。でも彼は赦した。どうしてだと思う?」 「そんなの・・・・・・わかんないよ」 沈むハクウの声に、ルックは静かに続けた。 「自分の大事な人を殺した奴はね、とても優秀な兵だったんだよ。彼を得れば戦力は拡大する。だから殺さなかった」 「そんなっ、そんな事で!?」 「そんな事じゃない。兵の良し悪しは戦争に勝つにはとても重要な事なんだ。だから彼は敵を殺す代わりに感情を殺した」 「・・・・・・」 その話は、ハクウにとって信じられないものであった。 もしも自分がその立場に立たされたら? ナナミが目の前で死んだら・・・・・・ でもその兵が操られていたんだとしたら・・・・・・ それでもナナミの仇をとったろう。 自分の手で。きっと。 「・・・・・・僕はそんな事できない」 「できなくて当然だよ。君は軍人じゃないんだから」 ルックの声はあくまで平坦だった。 「でもシグレは違う」 ハクウがルックの方を向く。 語る少年の横顔は、まるで人形のように無機質だった。 「彼は生まれたときから軍人となるよう育てられた。だからどうすれば軍にプラスになるか、それを念頭に戦っている。個人の感情なんて戦場では邪魔なだけだからね」 「でも、だからって!!」 「・・・・・・つらくないわけないと思うけどね」 ルックが少し遠い目をした。 「いくら感情を殺したって、その残骸はいつまでたってもなくなりはしないだろう。だからこそ・・・・・・あいつは僕らの前から姿を消したんだ」 「・・・・・・ルックは、シグレさんをずっと探してたんだよね?」 「・・・・・・」 今度はルックが黙り込んだ。 けれど、却ってその沈黙が、ハクウの言葉を肯定していた。 「何で・・・・・・探してたの?探してどうする気だったの?」 「・・・・・・知らない。ただ逢いたかった」 「逢いたかった・・・・・・」 「逢いたくて、逢いたくて、どうしようもないから、探した。逢って・・・・・・それからどうするかは逢ってから決めようと思ってた」 「今は、逢ったよね。ねぇ、どうするの?」 「・・・・・・」 「ルック・・・・・・」 「あの時・・・・・・三年前、僕は護って貰う事しかできなかった。でも・・・・・・今は」 ルックの口元に浮かんだ、固い決意。 「護る。僕が、アイツを。傷つける全部から。そしていつか・・・・・・シグレがシグレ自身を取り戻させられるように・・・・・・」 「ルッ・・・・・・ク・・・・・・」 「もっとも、そう思っているのは僕だけじゃないと思うけど」 鼻を鳴らして見据える先には、最も先頭を行く若き竜騎士。 「・・・・・・」 「居たっ!」 フッチの声に、全員が注目する。
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あとがき
坊ちゃんに続いてルックも語る。
2主人公と坊ちゃんの決定的な差。
よく考えると坊ちゃんは軍人なのですよ。
きっと小さい頃から教え込まれていたんだろうなぁ。