世界が生まれ変わって新たな形になったあの日から、今度は自分たちのために旅をした。
かつて、灰色の霧が立ち込めた湿原は柔らかな緑が生い茂り、
かつて、どよりと淀んだ色を移した水面は空の青を映し出す。
かつて、不気味な影を生み出した松明は闇夜を照らし出す暖かな光を、
かつて、消え去りそうなほど儚げだった月は幻想的な夜の世界を作り出す。
世界は瑣末で、けれども多大なる変化を遂げていた。
そうして2人でこれまで旅してきた地が、全く違うものになったことに感動し、驚き、衝撃を受け。
これまでのように村の為という制限も無くなった気軽さからか、ふらりふらりと各地を巡った。
そうするうちに人々も瘴気の無くなった世界に慣れてゆき、またその美しさを知るようになっていく。
そんな頃、隣を歩く相棒もまた、新たな夢を追い始めていた。

「もっと広い世界を見てみたい」
その前だけを見つめる眼は彼女が、かつて新天地を求め旅立った民の子孫である証。
まだ世界が瘴気に覆われ、村のために命がけの旅をしなければならなかったあの頃と何ら変わりなく。
あのとき、あまりの重責に旅立つことを躊躇していたガーネットの眼を覚ましたヴィ・ワの強さそのもの。
まるで嵐にように、すべてを巻き込み吹き飛ばしてしまう前向きさ。
だから、いっしょに歩くことが出来た。
どちらかといえば、ガーネットは考え込んで立ち止まってしまう性質だから。
けれども今度のその旅を共に歩むことは出来ない。
だがそれは、あの頃にように不安に押しつぶされそうなわけでも、
見知らぬ地、それも存在しているかどうかすら分かぬ場所を求め旅することへの恐怖などでもない。
二人でならば、行って行けない道では無い。
それは確信している。
けれどヴィ・ワが広い世界を追い求めるように、ガーネットにも追いたい望みが固まっていた。
今まで見たもの、感じたこと。
それらを記し、残し、伝えること。
それが長い長いたびをして、かつての世界の終焉と、いまの世界の誕生を見取った自分の役目だと。
「だから、お別れ」
今の旅が終わったら。
次の春からは、私は村に残るから。
私の見たもの、感じたもの、受け取ったもの、なくしたもの。
すべてを記しながら、ヴィ・ワの帰りを待つ。
そう決めたから。

旅立ちの朝。
いってらっしゃいと手を振るガーネットに、澄んだ青空みたいな笑顔を向けてヴィ・ワが残していったもの。
ガーネットが長い長い記憶を記した後、
今度はヴィ・ワが見つけてきた新しい世界も伝えるために、
また二人で旅に出るという、遠くて近い未来の約束だった。
いつもガーネットの心を揺さぶり、眼を覚まさせる。
明日だけを見据えて、常に前を向いて。
そんな貴方は、どこまでも・・・・・・・・・・・・。

『風の民』
Gift from Aplayer = Ayasato sama.

管理人・田林から…

An even break」(ジャンルは違います)のあやさとさまから戴きました。

秋になるとあやさとさまにFFCCの神が降臨なさるようです。先だっていただいた「メッセージ」を夜中に何度も読み返していたら、同じく以前、秋の頃にいただいた「本当は麦の穂を読んだときに送ろうと思っていたネタより」と対になっているような気がして、そう感想メールにて送ったところ、お返事メールでさらに素敵な小話をいただいてしまいました。
時系列としては『本当は麦の穂を読んだときに送ろうと思っていたネタより』→『風の民』→『メッセージ』の感じだそうです。凄いですよ、三部作です!

あやさとさま、ありがとうございました。
2006年10月3日に頂戴しました。

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