銀さんに春が来た。
夏の終わりかけに、秋冬を通り越して春になってしまった。
まあ、僕が勝手に思っているだけだが、十中八九間違いないだろう。
そわそわ落ち着きがなかったり、時折ぼーっと遠くを見たまま動きを止めて
いたり、不意にどこかに消えて仕事をしなかったり、
…て、いつもとかわんねーじゃん!
想い人は多分あの女性。
初めて会ったのは祭りの夜。
何度か姉上に話を聞いた事はあったけど想像していたよりずっと素敵なヒト。
ちょっと結野アナに似てた。ってか、結野アナより美人だった。
しかもナースだし。アンタときめいちゃったのかアアア!?
でも、
銀さん無理です。諦めて下さい。
この前なんか下のお登勢さんからお裾分けでもらったおはぎを一口も食べず
ふらりとどこかへ出かけてしまった。
完全に異常事態だ。
あの糖尿寸前の砂糖菓子侍が進んで糖分を取らないなんて!
だけど、
銀さん無理です。諦めて下さい。
だって、あんな普通の女性が好んで不幸を背負うわけないじゃないですか!
雲は白リンゴは赤 4
「聞こえてるっつーの」
「…え?」
勢い余ってソファの上に立ち上がる新八の後ろに、頭が春になった侍が殺気
をまとい立っていた。
「ジジイの股間並みに駄々漏れだっつーの」
その声と銀時の拳が新八の頭上に落されたのは同時の事だった。
「ったく、酷いですよ!」
虐待だDVだと喚く新八は「AV?」と聞き返す神楽に取り合えず突っ込みを
入れて、再び銀時を睨んだ。
「だいたい失礼ですよ!青少年の頭の中をのぞき見るなんて!」
「しょうがねえだろうが、活字になって打ち出されてたんだからよう」
言うな坂田。
「いいじゃねえか」
よくない。
「銀ちゃん気をつけるヨロシ。 年頃の少年の脳内は腐女子と同じくらい
クールアルヨ」
いや、腐女子の方がより凄まじい気がする。
「皮も剥けてないガキなんて足下にも及ばねーな」
「…誰と話してんスか」
呆れたように突っ込む新八にとりあえず感謝して、ただいま三人は依頼人の
元へと向かっていた。
ちなみに依頼内容は事故にあって入院している少年の話し相手やリハビリの
付き添い。と、簡単なもの。
彼の両親が共稼ぎで手術代を工面している間代わりに面倒を見て欲しいとの
事だった。しかも場所がの勤めている病院とくれば不満などあるわけがない。
といえば、と新八は思った。
あれだけやきもきしていたのに、神楽のあっけない一言で先日カタが着いた。
自分が感じていた疑問に神楽も同じように気付いていたらしく、何の脈絡も
なく話の途中で切り出したのだ。
「は銀ちゃんの事前から知ってたアルか?」
「神楽ちゃ…」
「うん。実はね。ゴメンナサイ。言い出す機会を逃しちゃって。早く言った
方が良いとは思ってたんだけど…」
「気にする事ないアルヨ。あんなダメ侍と知り合いだなんて、恥ずかしくて
口に出すのもためらわれる気持ちはよくわかるアル」
「ハハ…」
いつ頃知り合ったのかとか、どんな関係だったのかとか、詳しい事は教えて
もらえなかったが、二人の、隠してはいるが親密な様子にやっと納得がいった。
「神楽ちゃん!新八にいちゃん!…銀時おじさんも」
「…俺もおにいちゃんに入れてくれや」
ここ数日で銀時らに懐いた少年は神楽とほぼ同じくらいの歳の頃で、病室に
入ってきた三人に嬉しそうに笑った。
そしてげんなりしながら言い返す銀時に続ける。
「だって、銀さん近藤くんと杉様と同じくらいの歳でしょ?」
先日聞いて驚いたのだが、彼の隣には数日前までアノ真選組の局長の近藤が
入院していたそうだ。
「人間とゴリラを同じにしちゃいかんよ」
ビシッと人差し指を立てて言い含める銀時の後ろで新八が小さく呟いた。
「近藤くんて。…同等かそれ以下に見られてるんですね…一応大人なのに」
しかもその怪我の原因が自分の姉とあっては、いたたまれなさも倍増する。
少年はそんな新八を気にした様子もなく、近藤くんは枕はお父さんの臭いが
するけどいろんな話をしてくれたんだよー。と楽しそうに話す。
「ところで、杉様って誰アルか?」
「反対側の隣にいた人。看護婦さんとかは「ミステリアスー」ってキャー
キャー言ってたけど、起き上がるときとか「よっこいせ」って小さく言ってた
んだよ」
ちょっと親父クサイでしょ?と少年は笑う。
「ああ、確かに。銀ちゃんも同じネ」
ふんふんと頷く神楽。
「なに!?お前、あんときのアレ聞いてたんか!」
「てか言いまくりでしょうが。アンタは」
話を逸らしていく二人を止める事なく、ぞんざいな突っ込みを入れる新八と
少年の会話は続いた。
「すごく無口な人なんだけど、よくねえちゃんをからかってて…。でも、
顔が見えないから芸能人がお忍びで入院しているんじゃないかって噂になっ
ちゃってね!」
「見えない?」
「ミイラだったから」
「ミイラ?」
「ああ、あいつまだヘタクソなんか。…て、はねえちゃんなのかよ!」
ミイラといわれても実際見ていない二人が首を傾げるなか、銀時はミイラが
どのようなもので、しかも製作者がだとすぐにわかったようだった。
「あいつも歳かわんねーだろうが」
「おねえちゃんはかわいいから許す」
「ッ!?…それは否定しないが! しないが…しないが、しないな…」
「銀ちゃんいい加減諦めるヨロシ。男が小さい事でみっともないネ」
「……」
を出されて黙らざるを得なくなった銀時を三人の子供がケケッと笑った。
「あら、いらっしゃい」
病室に入るなり銀時らを見つけ、にこりと微笑むに子供三人が笑い返す。
しかしその姿を見つめる銀時はなぜか不機嫌そうだ。
「どうしたの?銀時」
話を続ける三人からを連れて少し離れ、銀時は言い辛そうに口を開いた。
「…杉様とよろしくやってたんだって?」
どうやら、銀時は杉様が誰なのか気付いているようだった。
やきもちを焼かれているような、くすぐったい気持ちを隠しながら、わざと
困ったような表情を作っては更に笑う。
「保護者健在なんデス」
「良く来るのか?」
「…たまに。でも、今回はほんとに怪我してたのよ」
おかげで真選組の局長と同室になったのに、何事もなく過ごせた。
大方、寝ぼけてどこかにぶつけたに違いない。思い出しは微笑む。
じっと見つめられると嬉しいと思う。
こうして、いつも銀時は自分を見てくれていた。
どうして愛してもらっていたその時に気付かなかったんだろう。
思えば思うほど銀時の顔を見ていられなくなり、は視線を少し下げる。
だからその笑顔を見て銀時の眉間に寄ったしわが増えるのをは見落として
しまった。
「入院するまでもなかったんだけど、お願いしたら暫く居てくれたの。でも
用事があるって、二三日で帰っちゃった」
世界広しと言えどあの男に我が侭を言って更に聞き入れさせるのはくらい
のものだ。
ふくれあがる後悔が怒りに変わる。
「悪巧みか…」
「違うみたい。なんか、楽しそうじゃなかった」
戦いに行くなら、これ以上ないくらいイキイキとした顔で行く筈だ。けれど
今回は何かにすごく怒っていたようだった。
「そうか」
「それに、私わかるの。悪い事とか後ろめたい事があるときはみんな黙って
いっちゃうんだもん」
戦いの時もそう。 本当はやめて欲しいと願う私をみんな知っていたから、
出陣の前にはけして姿を見せなかった。
銀時だけだった。
心の奥底では戦いに矛盾を感じていた私に真っ直ぐ向き合ってくれたのは。
不意に蘇る記憶に、はそっと眼を伏せた。
「…」
その悲しげな表情を見ていると身勝手な怒りが凋んでしまう。
誰にも渡したくないくせに、寂しがりな彼女の手を離してしまったのは自分
だと嫌でも思い出す。
昔、戦場に出る前にの顔を見ると死ぬのが怖くなった。
残されたこいつが泣くんじゃないかと、そんな事ばかりが頭をよぎる。
だから戦の前にはなるべく逢いたくなかった。それを彼女に言う事はきっと
これからもないだろうが、多分四人全員がそう思っていただろう。
でも、銀時は敢えての前に立った。
必ず戻る為に。わざと自分に枷をつけた。
それが何よりを救っていた事に気付かぬまま。
彷徨う男の手が、躊躇いがちにの頬を撫でた。
いったい何時になったら、後ろめたさを感じる事無く、彼女の前に立つ事が
出来るだろう。
謝る事が出来ない代わりに。
「今晩、飯食いに来るか?」
戸惑いを浮かべた瞳が真っ直ぐ見上げて来る。
「良いの?」
「あと一人くらい増えたって大丈夫だって言っただろうが」
「…そうだったね」
その顔に笑顔を浮かばせる為なら何でも出来る。…そう思っていたのに。
ここのところ比較的真面目に働いている為、ほんの少し財布が潤ってきた。
ただ、それでパチンコへと足を運んでしまっていては本末転倒なのだが…、
とりあえず今月の家賃は払ったし、ガキどもにも飯を食わせた。
それに今日でここ暫く続いていた依頼が終了する。
少年は手術代の目処が立った為、大きな病院に移る事になったそうだ。
きっと近いうち、元のように元気になるだろう。
先に行かせた神楽と新八が別れを惜しんでいるだろうから少し時間を置いて
から行ってやろうと道草の理由を付けた。
ここの処の機嫌も良いことだし今後も騙し騙し頑張って何とか再度好意を
抱いてもらえるよう仕向けていくしかない。
だから今はパチンコだ。と、銀時が歩いている時だった。
「旦那!」
呼ばれて振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
諂うような笑いはあまり好ましくない。
知り合いにはいない筈だが、もしかしたら呑んでいる時にあったのかもしれ
ないと銀時は一応聞いてみる事にした。
「誰だ?」
「へ、へえ。この間旦那にコテンパンにやられた者です」
「…そうだったか?」
若造に絡まれても最近は上手く流して喧嘩をする事もないからおかしいと
思っていると、ふと先日呉服屋の女将に頼まれた件を思い出した。
近頃この辺りで悪さをしている厄介者の集団にお灸を据えた事があった。
「ああ。…オメエら、まだこの辺うろついてんのか?」
ぎらりと鋭くなる眼光に男が慌てて首を横に振る。
「や、違います!旦那の腕を見込んでお願いがあってきました!」
とはいえ、ろくな事ではないのは眼に見えている。
ここでもう一度お仕置き決行を考えた銀時だったが、
「もちろん謝礼もはずみます!」
「…まあ、話だけは聞いてやらァ」
乗るか逸るか見極めてからでも遅くはないだろう。
「親父!お連れしました!!」
「おお、そこに待っていてもらえ!」
銀時が組の事務所に連れられてくると、組長と思しき男はちょうど電話中
だったらしくそう言って奥へと入っていってしまった。
待っている間その場にいた男の話によると、ドラッグを売りこの街を拠点に
稼ぎたいが、今このかぶき町で幅を利かせている溝鼠組が邪魔だとの事。
「そこで、旦那のお力をお借りしたいって訳でさァ」
キラキラと羨望の眼差しで見つめられ銀時はげんなりと言い返した。
「…あいつらとは関わり合いになりたくないんだがなあ」
「そこをなんとか!」
「にしても…薬か」
ドラッグが絡んできたとなると思ったより大事のようだ。
これは適当に誤魔化して帰るわけにはいかない。完全に片付けておかないと
厄介な事になるだろう。
お仕置き決定。と、判決を出し銀時の手が木刀にかかった時だった。
「ああ。 近くの星から買っているんだが、一定量を超える輸入には薬品を
扱える期間の協力が必要でな。近くの病院に仲間になってもらおうと思ってる」
ドラッグに興味があるとでも勘違いしたのか、話に割って入った別の男が、
新たに話し始めた内容に嫌な予感が頭をよぎる。
「だが、そこのジジイが頑固で仕方がなくて些か困っているんだ」
「…」
「あまり派手な事はしたくはねえんだが、ちょうど愛娘がいるらしいから、
そいつを攫って条件を飲んでもらおうと思ってるってわけよ」
そう言って、薄汚い笑いを卑劣な面に貼付けた男は、はらりと一枚の写真を
机の上に放った。
「…お仕置き如きじゃ、済ませられねェな」
そこに写っていたのは銀時の思った通りの人物。
その写真を手に取り呟かれた声は小さすぎて、周りの男たちは残念ながら聞
き取る事が出来なかった。
万が一聞こえていたとしたら、そして瞬時に張りつめた殺気に気付いていた
としたら、もしかしたら彼らの未来は変わっていたかもしれないのだが…
その奇跡は、起きる事はなかった。
「なにい!? そりゃどういう事だ!?」
その頃、別室で電話をしていた組長は受話器から聞こえて来る狼狽した声に
思わず怒鳴っていた。
「全部買い占められたってのか?」
ドラッグの精製に必要な薬品がすべて他人手に渡ってしまったらしい。
有り得ない事ではない。が、しかし今地球でこの商売に関しては一番進んで
いると言っても過言ではないうちを出し抜く組織があるなど考えられない。
全く関係ない処が偶然必要になって購入に走りでもしたのだろうか?
「アレは薬以外に使うとすれば洋服の装飾ぐらいだが、そんなに必要なもん
でもないだろうが! ドコが買い占めたってんだ?」
迷惑な話だと思ったが、相手がわかれば奪いに行けば良い。
上手く行けばタダで手に入るし、かえって好都合だ。
「はあ?快援隊だと!?」
だが、聞かされた相手の名に愕然とする。
「なんでそんな大物が…」
地球で五本の指に入る大企業だとは、些か分が悪い。
「親父!」
「何だ!今取り込み中だぞ!」
とりあえず受話器の向こうの部下に奪還を命令して電話を切ると、目の前に
転がるように入ってきた男は酷く焦りながら口早に報告を始める。
「一大事です!薬の精製工場が爆破されました!」
「はあ!?」
あんぐりと口が開く。
今日は何だ?仏滅か?大殺界か?
悪い事は続くというが、今最悪な事を聞かされた気がするではないか。
「どうやら、運悪くどこかの攘夷派のテロに巻き込まれたらしく…しかも、
そのせいであの厄介な真選組が乗り込んできていて隠せそうにありません!」
全滅ですぅぅぅ!と、絶叫が部屋に響いた。
このままでは大魔王か鬼でも現れそうだ。
真っ白になる頭の片隅で、そんな事を考えていた時。
「親父ー」
その声は前二つと比べるとやけに軽い感じだった。
ともすれば、吉報が舞い込んできたのかと勘違いしてしまうかのように。
または、事態をまるでわかっていない能無しの部下のどうでも良い報告か。
「なんだアアア!?」
どちらにせよ増してきた怒りを抑える事もなく返事をすると、
「こっちも全滅でーす」
「ハア?」
思わず裏返った声が出てしまっても仕方がない。見ればいつの間にか組員が
すべて倒されている。
この本部にはかなりの人数を置いていた。しかもそれなりに腕に覚えのある
者もいるというのに。
一体この短時間の間に何があったというのか。訳が分からないままに辺りを
見回していると、
その、屍類類の中一人無傷で立っている男がこちらを見て、フ と、笑った。
驚くほど鋭い侍の眼だった。
それなりに死線をくぐり抜けてきたヤクザの親玉である自分でさえ恐怖を覚
えるほど。
鬼のような男が、迷いもなく、持っていた木刀を振り下ろす。
同じ頃、ある建物の前に男たちが集結していた。
溝鼠組の方々だった。
近頃縄張りを荒らしている輩が居ると聞いて、そいつらにお灸を据える為に
ここにやってきた。
男 黒駒勝男。ヤクザの筋を通さない奴には容赦ない。
「アニキ」
「おお。七割殺しで行ったれ」
「ヘイ!」
組員たちが超えたからかに気合いを入れた時だった。
ガラ。
勢い良く開いた扉から一人の男が出てきた。
「ん?…あー!!貴様はお登勢んとこの!!」
「テメエ、そっちに寝返ったのかっ!?」
その男には見覚えがある。返さねばならない借りがあった。
ここから出てきたという事はきっぱり敵に回ったという事だ。
しかし怒鳴り散らす子分達の声にも動じた様子はなく、男はいつもの無気力
な表情のまま頭を掻き室内を指差しながら欠伸をしている。
「アン?違ェ。…ああ、でもちょうど良かったわ。アレ、あんたらの仕業に
してくんねえ?」
「ハア?」
俺が来たときはもうみんなオネムだったのよ。
見れば部屋の中は地獄絵図のような惨状だった。
しかもなぜか男たちは一様に俯せで着物が捲れ尻が赤く腫れ上がっている。
「…なんでみんな尻出して倒れてんだ?」
「ああ。おイタが過ぎるから全員尻たたきの刑に処しといた」
悪い子にはお仕置きが必要だろ?
軽い口調でヘラリと笑うその男からはまだほんの僅か、殺気が零れていた。
『…てか、お仕置きの意味ねえじゃん』
とは、誰も声に出せなかった。
間違いなくあそこにいた全員を倒したのはこの男だろう。
だがしかし、理由を聞く事も出来ない。
だから、
『なんか、ものすごく…怒ってるんスか?』
とも、誰も声に出せなかった。
少年と両親を見送り彼らの乗った車が動き出したときだった。
「銀さん!」
ようやく現れた銀時は、すぐにそれに気付き車の中から身を乗り出す少年に
軽く手を挙げて返す。
ギリギリで間に合ったとはいえ、言葉の一つもかけてやれなかった銀時に、
新八が怒鳴った。
「遅いですよ!」
「待たせたなァ」
飄々とした様子の男は無表情のまま、それでも悪い悪いと新八の頭に軽く手
を置く。
「ナニしてたんですか!?」
「いや、ちょっとな。…野暮用がうっかり大事になっちまってよ」
治まりきらない新八の質問攻めにも曖昧な返事しか返ってこない。
いつもの事だが仕方がないと大きなため息を付くと、同じく少年の見送りに
出てきていたが少し怒ったように口を開いた。
「そんなに大切な用事だったの?」
「…」
「あの子との約束よりも?」
睨みつけるように下から見上げて来るを銀時はまっすぐ見つめ返しながら
ほんの少し間を開け困ったというように眉を寄せて。
「…ああ」
それから小さく何度か頷いた。
…。
お前とお前の大事なモノにちょっとでも手を出そうとする奴らを、
俺は、…俺たちは許すわけにはいかねえんだ。
声にならない言葉を込めて。
「坂本さん!追ってきていた敵の船が何者かに爆破されました!」
「…ありゃ、春雨じゃなか?」
スクリーンに映し出された船に描かれたマークに陸奥は覚えがあった。
かの有名な悪名高き宇宙海賊 春雨。
倒せぬ敵ではなかったが、武器の消費を節約出来て結果的には良かった。
しかも攻撃するだけしてさっさと春雨が帰ってしまった今の状況はなんだか
助けてもらったようではないか。
「何で宇宙一の札付きがわしらを助けたんじゃ?」
乗組員達が首を傾げるなか、坂本だけが訳知り顔で一人頷いていた。
「いや、助けた訳じゃなかんろー」
いつも何処か抜けたところがある自分らの頭の言葉は、いつもどおり簡単に
理解出来そうにはなかった。
「わしらの大切な姫に手を出す不届きものには相応の罰が当たるっちゅう事
じゃけん」
そして後に続いたその言葉で、陸奥はこの一連の流れを理解する。
「…が関わっとるのか?」
どおりで。買う必要のない商品を大量に買い占めたと思ったら、それが欲し
かったらしい危険そうな輩の船に追われる羽目になった。しかも、追ってきた
その船は今しがた宇宙でも名の知れた(それも最近ある男と手を組んだと噂の)
海賊にあっけなく撃沈されてしまったではないか。
この分では地球の方でもう一人、坂本の昔馴染みが動いている事だろう。
「だめじゃったか?」
「いや、はわしらの仲間じゃ」
短い間ではあったが、ここで救護室の天使をしていてくれたあの女性を睦奥
もとても好きだった。
彼女が危険に曝されてるのだとしたら、助けてやりたい。
だから今回は目をつぶると背を向けた睦奥の耳に、坂本の呟きが聞こえた。
「…本当はわしらがどーこうせんでも、に手を出せる輩なんぞ誰もいんの
じゃがな」
「そうなのか?」
思わぬ言葉に振り返る彼女の目に入ったのは大きな商談をまとめた後のよう
な晴やかな頭の顔だった。
「にはあの男がおるからのー」
そう言って、大きな口を開けて笑う坂本にその男が誰なのかを聞きそびれた
陸奥はこれ以上の会話を諦めて持ち場へと戻る事にした。
が、すぐに彼女はその時の行動を後悔する事となる。
「…じゃが、あいつに任せっきりは癪じゃけん」
やけに楽しげなその声に嫌な予感を感じた陸奥が慌ててもう一度振り返った
が、時既に遅し。
「久しぶりにわしらの姫ん顔を見に行くかー!!」
小型船の置いてある脱出ハッチへと走り去るもじゃもじゃ頭。
「さ、坂本さんッ!?」
「ッ! コラー!!!!!…仕事せい!!」
陸奥と他の仲間の罵声や悲鳴を浴び男は地球へと旅立っていった。
2007.01.26 ECLIPSE

アトガキ
大変長らくお待たせいたしました!?
お話の方も佳境に突入しまして…。ようやくもう一人出てきましたが、
後お二方いらっしゃるので(内一人はフライングで出没の形跡有/笑)
その方々も引っ張り出している所です。次には出て来れるかと。
で、次で決着を付けたい!…なあ。…出来ると良いな(でた!他人事)
ちなみに杉様ミイラ事件(笑)はお題の方でちょろっと書いております。
興味を持って頂けたらそちらも覗いて頂けると嬉しい限りでございます。
まあね。後は銀さんとさんが素直になってくれさえすれば、サクッと
終われるので!
…素直になってくださいよー!!二人とも!!
ほんとは今回で決着着く筈だったのに、余計な事詰め込んでしまって、
もう一回伸びた。ってのは大きな声では言えませんがね…。