ふわりと花びらが散った。
あたたかな陽気に誘われて、お弁当を作って縁側でお昼を食べた。
銀時と晋さんと小太郎さんと辰っちゃんと私。
歳が近かった事もあって、いつも一緒にいた。
そう言えばあの時もお昼を外で食べたいと駄々を捏ねたのは私で、お弁当を
勝手に作って四人を無理矢理付き合わせたんだった。
遠出を出来るはずもなく敷地内のしかも縁側だったけど私には十分で、幸せ
だった。
のに、
…いつの間にか、目の端にきらりと鈍い光が映る。
獲物を仕留めようと振り下ろされる刃。
鼻を突く硝煙の臭い。
辺りは戦場と化していた。
「きゃー!!!」
「…っに、してるんだ貴様ら!!」
「るせえ! テメエ なに人のウインナー食ってんだっ!!」
「もがっ ちげえ、コイツが先に俺の春巻きに手を出したんだ!!!!」
「アッハッハッハー!!!長閑じゃのおー」
「「「お前が原因だー!!!!!」」」
「フゴッ」
「辰っちゃん!」
雲は白リンゴは赤 3
「そういや、唐揚げ食べ損ねたっけ…」
起きて、いの一番にの頭に浮かんだのは懐かしい夢の結末だった。
アレはちょっとした大惨事で、晋さんのウインナー(タコさん)を、食べて
しまった銀時がいけなかったのか、銀時の春巻きを食べてしまった辰っちゃん
がいけなかったのか、はたまた実はその辰っちゃんのミートボールをこっそり
くすねていた小太郎さんがいけなかったのか。
暴れまくった四人のおかげで良純先生や他の攘夷志士にこってりしぼられた
五人だった。
「……起きなきゃ…」
窓からは朝日が注いで今日も良く晴れている。
急がないと仕事に間に合わなくなるというのに、の身体はなかなか起き上
がろうとしなかった。
考えるまでもなく、思考が現実逃避をしている。
それもこれもあの夜の出来事のせいだ。
ここ、かぶき町に落ち着いて数ヶ月。
祭りの夜に偶然の再会をした。
心の底に沈めて忘れた振りをしていた人。
今思えば、みんながここに住むことを反対していた。彼がいると知っていた
からだろう。
もう、昔のように恋人に戻れるわけないのに、銀時が今誰を想っているのか
が気になって馬鹿なことを聞いてしまった。
そんな自分が恥ずかしくて、誤魔化し顔を見ないようにと逃げた。
けれど、そんなの身体に回された温かな両腕。
耳元で囁かれた言葉は、今も鮮明に残っている。
「俺が心底惚れたのは、後にも先にも 、お前一人だ」
「あんなこと言われたら、誰だって誤解するわよ…」
困惑する頭の中は、日が経つにつれ整理が難しくなる。
もう一度、愛してもらえるのではないかと思ってしまう。
都合の良い期待ばかりが膨らんでゆく。
今すぐにでも顔を見たくなる。
あの夜これ以上余計なことを言ってしまわぬよう、逃げるように抱きしめら
れた腕から離れてしまったに銀時は何も言わなかった。
そして、も何も聞けぬまま。
ピチャリ。
水槽で金魚が跳ねる。
現実に戻ったは慌てて起きて支度を始めた。
病室から戻ったが休憩室をのぞくと、そこにいる数人が皆おはぎを食べて
いた。
「あれ?どうしたんですか、それ」
「寺田さんが持ってきてくれたのよーなんだか知り合いからたくさん頂いた
らしくって、お裾分けだって!」
その名前を聞き、ここに通院している患者で一見怖いオバさんだが、話すと
気さくでとても優しい女性の顔を思い出した。
「へえ、やっぱりあの方優しいですねえ」
にこりと笑いながらおはぎを頬張るその看護士は満足げだ。
しかし、次の仕事が残っているは食べることが出来ない。
「ちょ、私の分も残しておいてくださいねー!!」
そう言って走り去るに彼女は手を振ってハイハイと答えた。
コツンと、かすかな物音に顔を上げた松本良純は窓の外に知った顔を見つけ
小さく笑った。
「これはこれは、珍しい」
「よお、ジイさん」
外から声をかけてきたのは、昔 戦場で鬼神と恐れられた男。
近くに住んでいるのは知ってはいるが、お互い用もないのに会うようなこと
はしない。
今も変わらず、何を考えているのかわからない顔をして軽く手を挙げた。
「そんな所で何をしておる。中へ入ってきなさい」
「…ああ」
裏口を指差せば素直にそちらに歩き出す姿を見て、自分が本当の子供のよう
に可愛がっているあの娘も最近様子がおかしかったことに気づく。
それから、そういえば甘いものが好きだった。と、思い出した松本は中へと
入って来た銀時に座って待つように言いおき、お茶菓子を探すため隣の休憩室
に向かった。中を覗けば机の上に小皿にわけられていたおはぎを見つけ、それ
と急須を持って部屋に戻る。
「で、どうした?白鬼がこんな所に来るとは、何ぞ病にでも掛かったか?」
「いや、違エ。 …てか、鬼はヤメロ」
「何を言うか、夜叉よりずっと可愛らしかろうて」
向かいに座って松本がお茶を入れながらそう言うと、銀時はほんの少し眼を
細め困ったように頭をかいた。
「や、可愛らしくなくていいから」
「ホッホッホ。変わらんのう」
それから、二人して黙り込んで暫く経った。
しかし、一向に皿の上のおはぎに手をつけようとしない銀時を不思議に思い
声をかける。
「甘いものは嫌いじゃったか?」
「や 死ぬほど好きです」
「食べんのか?」
「……いい」
ふと、拗ねたような顔で首を振るその意味に気づき、笑いが漏れる。
「そうだったな。あの子の作ったものしか食べないと約束しとったな」
「うるせー」
仲間と食べ物を取り合い騒ぐ目の前の男の、若き日の姿を思い出す。
子供を早くになくした松本は、だけでなくあそこにいた若者たちすべてを
自分の子供のように愛しんでいた。
もちろんこの男と良くつるんでいた他の3人も例外ではなく。
どうか、この者たちが平和になった世で幸せに暮らしてくれるようにと、
願った。
『おいしい?』
『ああ!めちゃくちゃウメエ!!』
『じゃあ、また作る』
『じゃあ、俺ァ金輪際おはぎはの作ったモンしか食わねえ!』
『ッ…うん!』
惚れた女の作ったおはぎを喜んで頬張るこの男と、その隣にはそれを嬉しそ
うに見つめる一人の娘。
微笑ましいその二人を邪魔しようと暴れる他の若い武士たちを宥め、そっと
影から見守っていたのに。
時は無惨にも、彼らを引き離してしまった。
「今日はどうした?…昔話をしにきたのか?」
束の間、蘇った記憶に思いを馳せた松本は話を促そうと銀時を見据えた。
「世間話をしにきた」
「ほう」
しかし、そう言った銀時の顔はいつになく深刻で、やはりあの娘のことだと
確信をする。
「…あいつを、をもらって良いか?」
そして、呟くように言われたのは思った通りの内容。
「何を今更」
「まあ、ダメだっつっても、もう遅ェーけどな」
一言で笑い飛ばした松本に安心したのか、開き直ったように銀時はにやりと
笑い返した。
「あの子がそれを望むのなら、ワシは何にも言わんよ」
「…じゃあ、望んでもらうか」
激しい戦いの後、ふらりと何処ぞへ消えてしまった鬼と呼ばれた者と、獣と
化して破壊の道へ踏み込んだ者と、志を折らず攘夷を続ける者と、新たな道を
探し空へと飛び出した者。
身も心も傷ついた彼らの傷は未だ癒えずにいる。
願わくば、彼らに心の安らぎを。
入ってきた時と同じくふらりと出て行った男の背に呟く。
「何じゃ、やはり病か」
しかし、それはワシでは直す事は出来ぬ。
しかも、お前のような馬鹿に付ける薬はないのお。
聞こえたかのように、男は軽く手を挙げた。
がその白い大きな犬に気づいたのは終業時間に近づきナースステーション
に戻る途中だった。
病院の前の通りがのぞける窓に思わず寄っていく。
普通のサイズではない大きさに驚きながらも、興味をそそられて見ていると
その背に乗っていた少女はを見つけ、ぱっと顔を輝かせた。
「!」
「神楽ちゃん!どうしたの?一人?」
その背に乗った少女に声をかけられ、それがこの間知り合ったばかりの神楽
だとわかると、は慌てて外へと出た。
出てきたに神楽はぎゅっと抱きつき、白い犬 定春はワンと一声鳴く。
「ああ、ごめん一人と一匹だね? はじめまして、…なにちゃん?」
「定春いうアルネ!」
「そう、はじめまして定春くん」
その可愛らしい仕草に微笑みながら、同じくらいの背丈のそれぞれの頭を撫
でてやる。
しかし、その一方で一瞬あの男を思い浮かべてしまい、その姿がなかった事
に落胆する自分に気づいた。
ここ何日もその存在に悩まされていたというのに。
心の底ではやはり逢いたいと思っていたのだろうか。
「お散歩してたら急に定春がいつもと違う道に進みだしたアルヨ」
そしたらがいたネ。そう言って笑う神楽に同じように笑顔を返すと遠くで
彼女を呼ぶ声がした。
「神楽ちゃーん!」
二人が振り返ると、同じくこの間知り合った少年が走ってこちらに向かって
くる。お妙の弟 新八だ。
「新八。こっちアル!」
「早いって!…あ、さんッ?」
息を切らした新八はハアハアと、荒い呼吸を整え、そして神楽の隣にいるの
がだとわかると驚いたように顔を上げた。
「こんにちは。新八くん」
「こんにちは!」
「二人で定春くんのお散歩?」
この大きな身体ではさぞかし大変だろうと思う。
「と、夕食の買い物です」
しかし、そんな事はかまわずにいる姿がとても可愛らしくて、はこの二人
とも、もっと仲良くなりたいと思った。
「そう、今夜のメニューは?」
「ご飯です!!」
「エ?」
「しかも今日はキュウリのキュウちゃんくらいは買えるので!」
そう自慢げに言う新八と、その横で喜びにテンションをあげる神楽には、
目眩を覚える。
「…いつも、そんなの食べてるの?」
「いえ、おかずを食べれるのは久しぶりですよ!!」
倒れそうになりながらも聞くと、またもやとんでもない答えが返ってきた。
「…そう」
何とかそう言いながらも、あまりの事に暫くは固まった。
「さん?」
「ねえ、今日の夕食私もお呼ばれさせてもらえない?」
「え?もちろんかまいませんが」
「ヤタ!、一緒にご飯食べるネ!!」
おかずにも困っているというのに、を夕食に呼ぶ事を嫌がりもしない。
こんなに素直な子たちにせめてなにかしてあげたい。
「そのかわり、おかずをごちそうさせてね」
そう言って、そこで少し待ってもらい帰り支度の為、は病院へと戻った。
「ああっ、さん!ごめんー」
戻ったを見つけた同僚が謝りながら走りよってくる。
「えっ、どうしたんですか?」
訳がわからないは彼女を宥めながらも話を聞く。
「休憩室に取っておいたおはぎがなくなってるの…。さん食べたがって
たでしょ?」
「なんだ、そんな事。良いんですよー きっと知らない誰かが食べちゃった
んでしょう?気にしないで下さい。…ッあ!」
どんなに深刻な事かと思えば、おはぎ。そう言えば銀時に作った事があった
と思い出し、もしかしたらこの後、逢えるかもしれないという事に、ようやく
気づいたは一人慌てた。
「さん?」
「な、なんでもないです!」
急に赤くなったを見る彼女をなんとか誤魔化し更衣室へと駆け込む。
着替え終わってもまだ幾らか頬が色付いていたらしく、二人に変に心配され
誤魔化すのにまた一苦労しながらも三人は大江戸マートに向かう事になった。
「なに食べたい?」
神楽のリクエストに応え、海老フライは決定したが出来ればバランスを考え
て野菜も取らせたい。
この年頃の子たちが嫌がらずに食べてくれるもので、なにかないかと探して
いたは、山のように積まれたそれに目をつけた。
「ジャガイモが安いって。コロッケとか、好き?」
「そんな!誕生日でもないのに!!」
「「大好きです!!!!!」」
拳を握って返す二人に、思わずはほろりと涙を零した。
厄介な一日だった。
昼間ジジイのところでガラにもなく、クソ恥ずかしい事を宣言してきた。
しかも、甘いものまで我慢して。
その後、街をぶらついていたら呉服屋の女将に捕まってしまった。
下のお登勢と仲の良いその女将の頼みを無下に断れば、家賃を滞納している
自分の身が危うい。
仕方なしに話を聞いて、最近この辺りででかい面しているとウワサの厄介者
たちをちっとばかし叩きのめしてきた。
しかも、帰った自分の家の玄関には女物の履物。
家に来る女物の履物を履くであろう人間は下の妖怪か、猫耳の性格破綻者
か、可哀想な卵しか作れないブラコン女か、…昔はともに戦い、今となっては
お尋ね者の元友達(と、認めたくないので)改め知り合いが女装をしている時
くらいしかない。
よって、今ココで静かにUターンをすれば二次災害は防げるのではないだろ
うか。と、銀時のちっさな脳みそは判断を下し、回れ右90度辺りのところで
台所の暖簾が上がった。
「おかえりなさい」
その上声が掛かる。
その声が耳に入った途端、銀時はそこから更に270度回って、元通り前に
向き直り現れた人物を凝視した。
そして一言。
「…ただいま帰りました」
多分夢だと思う。
だって今一番欲しいものが目の前に置かれたのだ。
それは、エプロンを付けて台所から出てきた。そう言えば辺りに良い臭いが
充満している。
「アア、夕飯か」
「ええ。もうすぐ出来ますよ」
微笑むに見とれつつ銀時は首を横に振った。
「や、もうこれで十分」
お前一人いれば何杯でもおかわり出来るって。
「?」
見上げて来る瞳に吸い込まれそうになる。いや、吸い込まれてもかまわない。
「じゃ、いただきます」
銀時は目の前に立つ小柄な女の両手を取り、無駄にきりっとした顔でそう
言った。
「ってナニしとんじゃ、ボケエエエエ!!」
「死にさらせ!!」
ゴッ。
「フガッ」
が、その直後、の後を追って現れた新八と神楽に総攻撃を受け、床に沈む
事になる。
「銀時さん。先にお話があるんです」
ようやく夕食も出来上がり、全員でテーブルに着こうとしたところでが、
銀時を呼んだ。
「そりゃーもう…て、アレ? … さん?」
またもやきりっとした顔で振り返った銀時だったが、すぐにのただならぬ
様子に気づいた。
「こっちの部屋で良いですか?」
昔もあった。こんな顔で笑う時の彼女は…もの凄く怒っている。
「ハ、 ハイ…」
顔面の色をなくし、に続く銀時。
そして、目の前にごちそうを置かれ、待てをさせられた残りの二人。
だらだらとよだれを垂らし、必死に欲望と戦う神楽を横目で見ながら、新八
は以前疑問に思ったことを思い出した。
あの日、と初めて会った祭りの夜。たしか銀時は自分を「銀さん」と名
乗った。けれど彼女は帰り際「銀時さん」と言ったのだ。
もしかして、二人は前から知り合いだったのだろうか。
しかし、新八の考えは神楽の細ーい理性が欲望に負けたことによる暴走に遮
られた。
一方ブリザード吹雪く和室では…。
「どういうことですか?」
笑顔のまま向かいに正座したの圧力に押されながらも、銀時は伺うように
彼女を見つめ返した。
「…えっと、話が見えないんですが…」
「どうしてあの子たちこんなに食べるものに不自由してるんです?」
「ああ。 …貧乏ーだから?」
しかし、それがあの二人についての事とわかると、途端にいつものふ抜けた
態度に戻る。
あの夜の後、確かに銀時は後悔していた。
このままもう一度彼女を見失うわけにはいかない。
出来れば、もう一度自分を見て欲しい。
……そう思っていたのに、この女はいつも誰か他のヤツばかり見ていて、
ちっともこちらを見てはくれない。
「そうじゃなくて!」
「仕事がないから」
一気に態度が変わってしまった銀時の気持ちがわからないは、いらだちを
募らせる。
「…してない。って聞きましたけど?」
買い物をしながら、そしてかえって料理をしながら二人に今の銀時の生活を
聞いて、更に頭を痛めたはじっと疑うように見つめた。
「してるっつーの! …しょうがねえだろ?」
「しょうがなくないでしょ!」
「元々そんなに儲かるもんでもねーのに、余計に二人と一匹抱え込んでんだ
からよォ」
「それでも…」
気のない返事を返していた銀時は何かを言いかけたのに口をつぐんでなにか
に気を取られたを不振に思い声をかける。
「ん? どうした?」
と、彼女が見ていたほうを振り返ると、そこには。
「ぎ、銀さん…ッ も、もう僕では神楽ちゃんを押さえられ…」
テーブルの上に、こんもりと載せられた海老フライ&コロッケに今にも飛び
掛からんとする神楽を必死で押さえる新八の震える声が、最後の抵抗とばかり
に足でふすまを開いた隙間から漏れていた。
「ほれ見ろ。こんな食うんだぞ?ふつーに稼いでも間に合わねえんだって」
まだ無駄に愚痴る銀時を無視しては横に座る神楽を見る。
「たくさん食べてね。神楽ちゃん」
「モガッ。うあい!」
必死に海老フライとコロッケを口に押し込みながらも、ビシッと手を挙げる
神楽に、は微笑んだ。
「新八くんもね」
「ハイィ!」
新八に至っては眼鏡を曇らせている。
「ち、なにオメーら猫被ってんだよっ」
早くも懐いてしまっている二人に毒づく銀時だったがいつもの勢いはない。
「じゃあ、もう一人も増やせませんね」
「や、そんな事ねーぞ!…あ、あと一人くらいなら何とかならァ!」
しかも、の一挙一動に動揺しているようだった。
「そうですか」
「そうですよ」
「じゃあ、がんばってください」
その一言で言葉を失い、ガリガリと頭をかきながらワザとしかめっ面を作り
そっぽを向く銀時。
そして、その姿を見ながらにこりと笑うは何もかもお見通しのようだった。
歩く二人に会話はなかった。
ただ黙って寄り添うその姿は逆に仲の良い恋人同士に見えなくもない。
そうしているうちに、家の前に着いてしまい、銀時は頭をかいて無駄に言葉
を探した。
「あー…、その、な。…この前の事なんだけどな」
言わなければいけない事があるのに、言いたくない事がある。
言ってはいけない事があるのに、言いたい事がある。
「謝りたくねえ。…悪い事したとは思ってるがな…」
「銀時」
「俺は、今でもお前を…」
そこで言葉が途切れた。
が銀時の胸に身体を寄せたからだ。
「…?」
「嬉しかった。私もあなたのこと…」
「ぎゃーーーーーーー!!!!!」
自分の絶叫で眼を覚ました新八は、がばりと身体を起こした。
「や、それは無理!無理無理無理無理!!絶対有り得ないですって銀さん!
………て、あれ?…夢?」
はっと、我に返って辺りを見回せば、そこは見慣れた事務所のソファ。
昨晩夕食を食べた後、銀時は新八と神楽に片付けを押し付けてを送って
いってしまった。
不満はバリバリあったが、あのことが気になっていた為、仕方なしに二人で
留守番をすることにしたのだが、どうやら久しぶりにおいしいご飯をたらふく
食べれたこともあって、そのままうっかり眠ってしまったらしい。
申し訳程度に、タオルケットがかけられている。
銀時あたりがかけたのだろう。しかし、久しぶりのまともな食事を女性が、
(しかも綺麗で優しい女だ)作ってくれて、この家で楽しい夕食を過ごせたの
は、本当に奇跡としか言いようがない。
ここで働くようになって、こんなことが起こるなんて夢にも思わなかった。
「そ、そうだよなー。ハ、ハハハ。有り得ないですよねー……
て、アレ?
………僕どんな夢見てたんだっけ…?」
たっぷり三分は固まる。
なにかとんでもない夢を見ていた気がするのだが、昨日のことをつらつらと
思い出すうち、新八の頭からその内容がすっかり消え去ってしまっていた。
真実は、闇の中か?新八の夢の中か?
2006.12.07 ECLIPSE

アトガキ
お待たせしました?
さて、何とか歩み寄りを見せる二人ですが、この後はいかに!?
どうかなー。銀さん頑張ってくれるかなー(笑)
さて、次はあの人たちが登場…の予定です。