にぎやかな祭り囃子。
戦いの合間に小さな村の祭りに連れて行ってもらった。
手をつないで歩くのは初めてだった。
村の女の人たちに浴衣を借りて、少しでも可愛く見てもらいたくて一生懸命
背伸びをした。薄く塗った紅もきっと似合っていなかっただろうに。その姿を
見て少しだけ驚いた顔をしたが何も言わず笑ってくれた。
ほとんど会話もなく手をとられて引かれる。普段あまり隣に立つ事がない私
たちは上手く沈黙を埋める事も出来ぬまま人の流れの中を歩き続けた。
あまりこちらを向いてくれない横顔を少し残念に思いながらもこっそりと見
つめているとすぐに見つかってしまって、からかうような笑いが寄越される。
それでも二人きりでいられる時間なんてあの頃は全然なくて握った手の温か
さが、あなたを独り占めできる一時が何より大切に思えた。
白い雲が夕日で紅く染まって、それよりも紅いリンゴ飴をぺろりと舐めた唇
が私の名を呼んだ。
「」
それだけで胸の奥がじわりと暖まる。
「…離れるんじゃねェぞ?」
雲が白いように。リンゴが赤いように。それは必然の如く沸き上がる感情。
ただ当たり前にあなたが好きだった。
しかし、その後戦いが終わって私たちは離れ離れになった。
いや、正しくは私が勝手に離れていったのだ。 優しいあなたを信じられな
かったのは弱い私のせい。あの時はいつ死んでもおかしくない戦いの日々で、
未来なんて少しも見えなかった。明日さえ知れない生活の中、唯その日その日
を生き抜くのが精一杯だった。
ただ、私はあなたの足枷にはなりたくなくて、逃げるように去る事しか出来
なかった。
『離れるんじゃねえぞ』
…今ならわかる。
何一つ言葉はくれなかったけれど、それでもあなたはこれ以上なく私を大切
にしてくれていたのに。
あの大きな暖かい手を離してしまった愚かな自分をまだ許せない。
低くて心地良いあなたの声はいまだこの胸の中で鮮明に残っているのに。
たとえ、もう一度逢えたとしても許してはもらえないだろう。
それから、いろいろな所を巡りこの街にたどり着いた。
戦場では救護班として働いていた為、医療の知識をずいぶん実践で覚えたが、
ちゃんとした資格はないので医者としてではなく看護婦として小さい病院で働
かせてもらっている。
今いる混沌としたこの街は、黒くも白くもなく灰色で昔好きだった男をなん
となしに思い出させる。
しばらくは落ち着いて暮らすのもいいかもしれない。と、珍しく思った。
雲は白リンゴは赤
「さん!」
「っひゃっ!」
がほんのわずか昔の記憶に想いを馳せていると後ろから覆いかぶさるよう
に抱きついてきたのはこの街でホステスをしているお妙という女性。
「お妙ちゃんっ? おどろかさないでよー」
前に回された細い腕をが軽くたたくと、楽しそうに笑う声が続いた。
「だってさん、ぼーっとしてるから。一休みしていっても良いですか?」
眠らないこの街では夜にも開いている薬局や病院も多い。たいていが酒に関
する事だが、この小さな病院も真っ当な(?)病人よりも酔っぱらいの看護や
喧嘩の手当で生計を立てていると言っても過言ではないだろう。
夜のシフトの時間に出会って仲良くなった人たちのには、お妙のようにを
姉のように慕ってくれたり、友達のように話をしに訪れる女性も最近は少なく
ない。
忙しくない時間帯の待合室に関係のない人がいても気にもとめないおおらか
な院長のおかげで時より彼女のように夜の仕事に就く女性たちの悩みを聴いた
りもしているせいもあるのかもしれないが。
そう言えば、最近彼女は酷いストーカー被害にあっていたみたいだが、と
は思い出した。
「どうぞ。冷たい麦茶でも飲んでく?」
「やった!ありがとうございます」
「それで? 例のストーカーの方は?」
「…ああ。ダメっちゃあ ダメなんですけど」
にこりと笑いながら拳を握るお妙の後ろに殺気と言う名の蜃気楼が見えた。
「はは…。大変みたいね」
でも、そう言えば…。
「ほら、お妙ちゃんの為に決闘してくれたお侍さんがいたって聴いたわよ?
…彼氏?」
にやりと笑って、つん。と肘で突っつくと、違いますよー!と背中を叩かれ
た。彼女的には加減して…軽くのつもりなんだろうが。
痛いよ。お妙ちゃん。とは声にならずは小さく息を詰まらせた。
「アレはそんなんじゃなくて。社会のゴミって言うか…まあ、それは置いと
いてですね」
ぱちりと胸の前で手のひらを合わせ、今日はデートのお誘いにきたんです。
と続けるお妙にはこくりと首を傾げた。
「ん?」
「明日、さんお休みでしたよね?」
「うん。そうだけど?」
は今日このまま夜のシフトで、朝方から次の日の朝までは空いている。
帰って睡眠をとっても昼過ぎからは動けるだろう。もちろん、それはこれか
ら仕事のお妙も同じ事だろうが、デートとはいかに?と聞く前にお妙が口を開
いた。
「お祭りがあるんです。ここいらでは結構大きくて。それでさんも一緒に
どうかな?って」
「お祭り!」
「ここに来てから初めての夏でしょ?花火もあがるし、それに弟たちも連れ
て行くんで、ぜひ会ってほしいんです」
にこりと笑う彼女。まだここいらで知り合いの少ない自分を気遣ってくれて
いるのだとわかると、ありがたくて、嬉しくてつられて笑ってしまう。
「それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな」
「はい!」
多分楽しみで仕方がなかったのだろう。と、は目の前の買い物袋を見つめ
他人事のように分析してみる。
「だからって。衝動買いはよくないわ」
言いながらも手は休めない。早めに起きて買いに走ってしまった新しい浴衣
を着付けながら小さく呟く。
黒地に控えめにピンクの朝顔が咲いたもの。大人しめではあるが、若い時の
ような可愛らしいものはもう着れないしなあ と、思いつつ、髪の毛を簡単に
結い上げて仕上げに髪留めを二つ付けた。
いつも肌身離さず付けているシンプルな銀の簪と、先に花がついた 浴衣の
ピンクに合わせたもの。
化粧までし終わるといつもよりも幾分女性らしい姿が出来上がる。
「たまにはおしゃれも必要よね?」
あの頃より髪の毛も伸びて大人になった鏡の中の女が、言い訳がましい自分
にため息をついた。
これからお妙たちと回るのだから楽しみはとっておきたいとにぎやかな出店
をなるべく見ないようは足早に待ち合わせ場所へと向かっていた。
だが、ふと視界の隅に映る色に思わず足が止まる。
真っ赤なリンゴ飴はあの時とちっとも変わらない。
思い出すのは、人ごみの中優しく引いてくれるあの手。
「おう別嬪さん!ひとつどうだい?って松本病院の看護婦さんじゃねェか」
「こんばんは…」
あまりにじっと見ていたせいか、出店の男に声をかけられてしまい、しかも
それが知った顔だったので余計恥ずかしくなる。
しかし、声をかけた当人はいっこうに気にした様子もなく、更にを手招き
した。
「この間は本当に助かったっス! そうだ!一つ持っていってくだせェよ。
看護婦さんのおかげでウチのメルちゃんは大事に至らずにすんだんだ」
溝鼠組の人々は怖い顔に反して動物好きで、ついこの前も飼い犬が風邪を引
いたと慌てての病院に駆け込んできた事があった。 しかし、当たり前だが
人間専門の松本病院では治療は出来ず動物病院に回す事になり、せめても。
と、その時とりあえずの応急処置を施したのがだった。
「え…でも、」
「良いから良いから。手ぶらで帰したとあっちゃあ、アニキにどつかれます
から!」
それでこんなに恩を感じてもらうと、ちょっと申し訳ないがとても嬉しい。
照れながらはにかんだは細い腕をそっと伸ばし、差し出された赤いリンゴを
手に取る。
「ありがとうございます。じゃあ、一ついただきますね」
笑顔のまま礼を言ってぺこりと頭を下げると、強面の男は真っ赤になって、
ぎこちなく手を振った。
「せっかくの祭りだ。楽しんできなせぇ」
「はい」
「サーン」
「お妙ちゃん」
名前を呼ばれて顔を上げると前からお妙が歩いてくるのが見える。その隣に
おとなしそうな雰囲気の男の子と可愛らしい浴衣を着た少女。
そして、反対側の隣に、
「…ッ!」
…その男はいた。
見覚えのある銀髪。
あの頃よりも少年のあどけなさが薄れ、落ち着いた雰囲気になっていたが、
にはすぐわかった。ボケっとしてて、いつも何を考えてるのかわからないと
周りにいくら言われようとも、その瞳の奥にあったあの真っ直ぐな光は、少し
も変わっていない。
「ぎんとき…?」
思わず唇からこぼれ落ちた呟きは掠れていて殆ど声にならなかった。
誰よりも会いたくて、会いたくなかった人が、坂田銀時がいた。
「良かった。迷ってたらどうしようかと思ってたんですよ?」
銀時の腕に絡むように添えられているお妙の細い腕。
はただ黙って立ち尽くす。
「さん?」
「…ううん。大丈夫すぐわかったよ」
嫌な顔をされるのが恐くて目を合わせる事も出来きず、あわてて繕うように
笑った。
「この子が弟の新八です。…新ちゃん、いつも話してる松本病院のさんよ」
「こ、こんばんはっ」
ぺこりと行儀よく頭を下げる少年に、同じように返す。
「こんばんは。 です」
「…っ、いいい、いつも姉がお世話になってます!」
にこりと変にならないように微笑んだを見て真っ赤になった新八はしゃき
っと直立のままの姿勢でしかも敬礼までしている。
「ふ」
その姿がかわいらしくて思わず小さく笑うと、同じようにお妙もくすくすと
笑い始めた。
「やだわ、新ちゃんたら。いくらさんが美人だからって緊張しすぎよ?」
「すすすす すいませぇんっ」
「お妙ちゃんたら、変な事言わないでよ」
煽てても何もでないわよ。と笑い合っていると、そのままの流れで彼女が、
銀時を指差した。殺気をこれでもないくらいに放ちながら、はあ。と、小さく
ため息を付くお妙。
え?と不思議に思い、は首を傾げる。
彼女は銀時の恋人なのではないのだろうか?
「…このダメ侍の所で働いているの。今日も勝手について来たあげく一人で
フラフラするからちょっと半殺しにしといたんだけど…。万事屋をしている…
銀さん? 何かたまってるの?」
そこまで言ってから視界に入れた男が訳もなく固まって微動だにしない事に
気づいたお妙は不思議そうにしながらも攻撃を開始した。
腕に拳を入れられぐりぐりとねじられても痛がりもしなかった銀時はしばら
くしてからやっと返事を返す。
ほんの少しまるで動揺したかのように銀時の視線は彷徨っていた。
「…あ? ああ。 あー ども…銀さんでーす。あー 趣味は糖分摂…
ぐはっ」
「あーあーうるさいアルよ。この糖尿がっ」
しかしながらすべてを言い切る前に彼は砂利道へと沈む。
「神楽ちゃん。ダメよ。本当の事小声で言っちゃ。ちゃんと大きな声でわか
るように言ってあげないと」
そして、追い討ちをかけるお妙の声。
「あ…、っえ?」
はっと、我に返るに倒れた銀時の上に立った少女は平然と握手を求めてき
た。それはまるで、ちょうど良い足場を作ったくらいの感覚のようだ。
「ワタシ神楽言うアルネ。万事屋を横で仕切ってる工場長アル」
「…です。よ、よろしくね…?」
とりあえず、友好な関係に必須と思われる握手を交わして、は、ハハ。と
何とか笑顔を作ってみた。
「…それを言うなら、裏だろうが…ぐっ」
かすかな呟きは、神楽の下駄の下に消えた。
カラコロと下駄をならし、出店を素見し歩く浴衣姿の美しい2人の女性と、
これまた浴衣の可愛らしい少女は会話さえ耳に入らなければ大変華やかで、道
行く人々の視線を集めている。
「えっ!?じゃあ、ここに来るまでにお好み焼き10個も食べてるのっ?」
「後、綿飴26個とたこ焼き3個と広島風お好み焼きが14個アル」
「…そう。た、たくさん食べるのねー」
「まだまだ行くアルヨー!!!!」
「…楽しそーですね。銀さん」
「そーだね。新八君」
引き換え男二人は心なしぐったりとしながらほんの少し後ろを歩いていた。
とお妙に挟まれ無邪気にはしゃぐ神楽はいつになく楽しげで、さらに両手
いっぱいの食料がテンションを最高潮にあげている。
「浴衣はお妙ちゃんに着せてもらったの?」
「ふぐ、ふぐぐぐふえっく」
の問いにはよくわからない言葉が返ってきた。
「私の小さい頃のなんですけど、せっかくのお祭りだし。髪の毛も浴衣に合
うように結ってみたの。 なかなか上手く出来てるでしょ?」
代わりに答えたお妙も両手にありとあらゆる食べ物を持っている。
「…その浴衣なら合うかな?」
そんな二人を見て小さく微笑んだは自分の挿していた簪を一本抜いて神楽
の髪の毛にそっと挿した。
「…ふむ?」
シャラリと小さなピンクの花が揺れる。
「フフ。カワイーよ?神楽ちゃん」
「あら、良かったわねえ」
「ッ! ふぁりがとう!」
「…あっちは満喫してるねえ。新八君」
「そーですね。銀さん」
げんなりした口調だが、銀時は歩調を緩める事なく3人の後を歩いている。
珍しいな。と、ようやく新八は気づいた。
こんな時はいの一番に姉であるお妙の隙をついて人ごみの中へ消えるのに。
ちょうど、空気を読めない馬鹿者が現れても難なく撃退できる範囲を保って
銀時は歩いている。
やはり美人が一人混じっているからだろうか?
…聞いても答えはしないだろうし、変に盛り上がられても困る。これには触
れずにいようと少年は視線を前に戻した。
「焼きそばアル!」
「神楽ちゃん。一人じゃ危ないわよ…さんっちょっと行ってきまぁす」
「いってらっしゃーい」
焼きそばにつられて屋台へと駆け寄って行く神楽とその後を追うお妙を見送
りながらすぐ側にあった金魚すくいに興味をそそらる。つい、ふらふらと寄っ
て行ってしまった。
「さん。やるんですか?」
腕まくりをして、早速臨戦態勢のを後ろから新八が楽しそうに覗き込む。
「うん!がんばるっ」
しかし、そう簡単に金魚はの持つお椀には入ってくれず。ポイに穴を開け
て逃げてゆく。
(※ポイ…うす紙とかウエハスで出来てるあの金魚をすくうやつです)
「〜おじサンッもう一回!」
「あいよ!!」
しゅっと投げられたポイを受け取って構える。
すぐムキになるところは昔からよくみんなにからかわれたが、負けず嫌いは
そう簡単に治るものでもなくて。
「さんがんばれ!」
新八の声援を背にポイを高く構えるの指に暖かい何かが添えられた。
「ッ?」
はっと顔を上げればいつの間にか銀時が横に同じようにしゃがんでいる。
「…貸せ」
静かな声で告げられてポイをとられる。
『だーっ。お前はっ ムキになってんじゃねェよ』
『もう一回だけ!』
『…貸せ』
『やっ』
『いいから貸せって。あんま無駄遣いするとヅラに怒られるぞ?』
『だって…』
『…どれが欲しいんだよ?』
『…? 銀が獲ってくれるの!?』
『…早く言わねえと、隣のスーパーボールすくうぞ?』
『じゃあ、あの白いの!』
『白ォー? 金魚は赤だろうが』
『じゃあ赤も。一匹じゃ寂しいでしょ?だから二匹とって?』
『…しょうがねえなあ』
ふと、過った会話。
顔を上げたと同じ目線になった銀時と眼があった。
「ムキになってんじゃねーデスよ?」
何も伺えなかった。…憎しみも、悲しみも。それは嬉しい事なのか切ない事
なのか判断がつかぬまま、または視線を落す。
「…じゃあ、あの白いの。…お願いします」
「と、赤いの二匹だろ?」
「ん。一匹じゃ寂しいから…」
小さく呟くは残酷なくらい優しい記憶と同じ、近くにいなければ聞こえな
いだろう位の囁きを返した。
その後は、あっと言う間だった。
銀時は昔のように簡単に白と赤の金魚をすくってしまい、まだ出来る。と、
言う出店の店主に黙って首を横に振ってポイを投げ返していた。
「ほれ」
「あ、ありがと」
こうして二人で並んで立つと昔に戻ったようだった。
幸せな気持ちのまま笑顔を浮かべたは金魚の入った袋を受け取ってお礼を
言いい、水の中の二匹を見る。
「もーすぐ花火が始まるらしいぞ?… 」
「え?」
何かを言われた気がした。思わず聞き返したに新八の声が重なる。
「ホント銀さんてば無駄な事は器用にこなしますよねェ」
「んだとコラッ!無駄じゃねえコトも器用だぞ?銀さんは! とくに夜のテ
…ぐはっ」
「!こんなムダばっかりの変態は置いといて、さっさと一等星探しに行く
アルね」
そして、またもや砂利道へ沈む銀時。
「っえ? わ、待って神楽ちゃんっ?」
結局聞き返せないまま、は神楽に手を引かれ小走りで河原へと向かう事に
なった。
「特等席だろうが…って、夜のテクは無駄じゃねーぞ!オイ!きーてんの
かー!!」
「相手がいないんだから無駄の極みでしょうが」
倒れたまま神楽に突っ込むの銀時を見下ろし、新八は呆れながらもその後頭
部に突っ込みを入れ二人の後を追って行く。
だから、その男の呟きは耳には入らなかった。
「…じゃあ、取り戻してやらァ」
河原の土手に着くとお妙がちょうど良い位置で待っていた。
言葉を交わす間もなく花火があがり始める。
ドン
大きな炎の花が空に咲く。
「わぁ きれい!」
ドン
「ほんとねえ」
ドン
「ぱっと咲いて、瞬く間に消えてゆく…粋な女の生き様のようアル」
「神楽ちゃん…ほんと、変なテレビ見過ぎだから…」
冷静に突っ込みを入れる新八の声を聞いて二人が逸れずに追いついたのだと
わかりが小さく息をついたその時。
ドン
「…!」
不意に手のひらに感じたぬくもり。
音も無く横に立った銀時の指が自分の指に絡んだからだとすぐに気づいた。
こちらに向くでもなく皆と同じように河原の方を向いて空を眺めているのに。
唯、手だけがに触れた。
身体が勝手に緊張するのを必死に押さえる。 反対側の手を握っている神楽
には気づかれたくない。
ドクリ
心臓が痛いくらい大きく鳴る。
の鼓動が紐から伝わったのかのように赤い金魚がピチャリと跳ねた。
ドン!
銀時 どうして?
あなたの手を離してしまったのは、他でもない私なのに…。
声に出せない問いに当然答えは返らぬまま。
隣の男は空を見上げている。
2006.10.19 ECLIPSE