見上げた夜空には、様々な光度で光りを放つ、無数の星々。
涙の代わりに一つ、また一つ、夜空を飾る氷が、流れては溶けて消えた。


―― カカシ・・・。
    大好きだよ・・・。


同じ空を仰いで、呼び合っているとも知らずに・・・。





涙の数だけ ACT4





ベットに入っても居場所が定まらない。
何度も寝返りを打って、結局身体を起こした。


―― 今なら、急な呼び出しだろうと、暗部の助っ人だろうと喜んで受けるのに。


自分勝手な思考回路に悲しい笑みを浮かべて。






静かな夜を一睡も出来ぬまま過ごしたは、朝早くアカデミーへと向かった。

受付に入ると、人懐っこい笑顔が出迎える。

「おはよう御座います。さん。」
「あ・・・おはようございます。イルカさん・・・。」
「どうしたんですか?こんなに早く。」
「・・・任務表、届いてますか?」
「来てますよ。まだオレも全部には目を通していないんですが。」
「ごめんなさい・・・早く来ちゃって。」
「あ、あの、そういう意味で言ったんじゃなくてですね・・・。」

慌てるイルカを見て、は笑顔を溢して。

「私もそんな風に取ってないですよ。只、受付時間前で申し訳ないなと思って。」
「それは構わないんですが・・・。どうかされましたか?」
「いいえ、何も。」
「そうですか、ならいいんです。今なら特別選び放題ですよ。」

イルカが仕切り直した様に明るく答えて、AランクとBランクの任務表を広げた見せた。

「選んでいいの?」
「ええ、どうぞ。A、B、Cランクはオレも火影様も確認済みです。今日は一任されてますから。」
「じゃあ・・・これ。」
さん、結構ハードなの選びますね。」
「そうですか?」

が選んだのは、ランクAの諜報活動。

「短期の単独潜入ですが、暗部のサポートが付きます。」
「はい。」

暗部の護衛が付いているとはいえ単独任務。
今の自分に丁度良いと選んだ。

詳細の書かれた紙を受け取ったは軽く頭を下げると、踵を返して歩き出す。

「気をつけて、行ってらっしゃい。」

イルカの声に振り返り、「行ってきます。」と手を振って部屋を後にした。

「・・・いつもは、もっと元気なんだけどな。」

いつになく細い声のに心掛かりを残し、イルカはAランクの任務表に一つ×印を付けた。







幾つかの昼と夜が過ぎ去って。

「あいつらの言い合いが見れねえと、なんかアレだな・・・。」
「そうね・・・。二人共、此処には全然顔を出さないで、任務に出ずっぱりなんだから・・・。」

アスマと紅は目の前のソファーを眺めて、ある日の二人を思い起こす。




『ねぇ、カカシ。イチャパラってそんなに面白いの?』
『まあね〜。』
『私も今度、読もうかな。』
『お子様にこの本の良さが分かるかね〜。』
『ひどっ!!誰がお子様なのよ!四つしか変わらないじゃない!!』
『それだけ変われば十分なんでしょ?』
『うっ・・・・・・。』
『ウソ、ウソ。今度子守唄代わりに聞かせてあげるよ。』
『なによ・・・この肩に回した手は!それに子守唄って・・・。』
『えっ?コ・ウ・ギ。』
『・・・エロカカシー!!』
『何が?講義って内容や性質を説き聞かせるって意味だよ?
って寝そうじゃない?だから子守唄。ちゃん、何か間違ってな〜い?』
『があ〜!もう!!紅〜〜〜アスマ〜〜〜。』
『お前の負けだ、。この際全部ひっくるめて、カカシに仕込んでもらえばいいだろうが。』
『結構です。』





「結局まだ読んでないのよね。」
「二人であの本広げてたら変だぞ。」
「それもそうだけど・・・。カカシの事は任せたわよ。」
「ああ・・・。」

視線を絡めず、真っ直ぐに前を見つめた二人は静かに言葉を交わした。





数日後。

柔らかな朝の光りが目に染みる。
前回の報告書を提出してから、僅か四時間。
仮眠を取ったが、任務を請け負う為にアカデミーにやって来ると、
腕を組んで立つ紅の姿が目に留まった。

「・・・紅。」
、いい加減休みなさい。」
「大丈夫・・・。」
「大丈夫じゃないわよ。それに今日から二日間、休暇のはずでしょう。」
「だって・・・疲れないと寝れないんだもん。今日も寝れそうにないし。」
「じゃ、お手合わせ願える?場所は演習場でいいわね。」
「え・・・紅と?」
「あら?不満?」
「・・・不満なんじゃなくて・・・。私、幻術系に弱いし。」
「だからいいんじゃない。良い修行相手でしょう。」
「・・・うん。」
「じゃ、行くわよ。」

飛び上がった紅に続き、も太陽の光りに吸い込まれるように、空高く舞い上がった。





―― あ・・・あの木だ。


演習場に降り立つと、視線が勝手にカカシとの思い出の場所を探す。


―― 今度会ったら普通に話そう。
    いつもみたいに、なかった事にしてもいいよね・・・。


「さすがね。の瞬身は・・・。」

若干遅れて着いた紅は、ぼんやりと一本の木を見つめるに、もう一度声を掛けた。

?どうかした?」
「・・・ううん。なんでもない。」
「始めるわよ。」
「了解!!」

拳を固めた紅がに襲い掛かると、は得意の速さで難なくそれをかわした。







「紅、あんまり幻術使わなかったね。」
「こういう時には、体術の方がいいかと思って。でも危なくなった時には使わせてもらったわよ。」

紅は肩をすぼめてクスリと笑った。

「私も久々、大技繰り出したよ。」
「スッキリした?」
「うん。」
「じゃあ帰りましょう。」

家で飲もうと誘う紅に、二つ返事で返すと並んで歩いた。

太陽が残した光の粒子たちが、少しづつ夜の波に溶けて、辺りが淡い闇に包まれる。
ふわりと流れた温かい風が、自分に巻き付いて流れて行った。
風の辿り着く先を目で追いかければ。


―― カカシ?


木々の隙間にカカシの後ろ姿が見えた。
その腕が、誰かを優しく包んで。
心が凍りついた。


―― 嫌っ!!


真っ先に心が叫んだ言葉。
その声がカカシに届く筈もなく。
カカシは震える誰かの身体を抱きしめて。

カカシの想いにも、自分の想いにも、応えないで来たのだから、こういう日が来てもおかしくない。
寧ろ遅いくらい。


―― 嫌だと思うのは我侭だよね。
    だけど・・・。


「どうしたの??」
「ううん。」

が目を背けた方向を見て、紅はその人物の名前を口に出した。

「ほら、ヤツにもやっと春が来たって事で。今度会ったら奢ってもらおう。
あ・・・彼女が出来たらまずいか・・・。でも皆でご馳走になればいいじゃん。我ながら良い考え。」
「・・・。」

凍りついてた心が砕けた。
涙も出てこない。
冷たくなった心を、凍った涙を、溶かしてくれる相手は、もういないから・・・。



  

  



BGM 風の街