Frozen time &Hot heart 中編
上忍待機所に、忍にあるまじき足音をドカドカと立てながら入ってくる一人の男。
永遠のライバルに熱い勝負を挑み続けるマイト・ガイだ。
長椅子に腰掛けてお決まりの18禁本を読んでいるカカシを見つけると、ビシッと指を
立ててポーズを決めた。
「ここにいたのか。カカシ!勝負だ!!」
「先週やったばかりでしょーが」
カカシの顔には、面倒くさい奴につかまったという表情がありありと出ている
(と言うかわざと出している)が、ガイは全く気にしない。
「だから、その屈辱を晴らすために、オレは猛特訓を重ねて新しい技を編み出したのだ。
今日こそはお前に負けんぞ」
「じゃ、オレが新しい技を習得するまで勝負はお預けだな。お前ばっかり新技じゃずるいし」
「む……それもそうか」
簡単に言いくるめられて、目的の勝負を延期されてしまったガイは、暇を持て余して
カカシの隣りに腰を降ろした。
「そう言えば、昔のお前の家の隣にちゃんと言う子がいただろう。
ほら、お前にいつもくっついてた、目の大きな泣き虫の……」
記憶力というものが欠如しているこの男にしてはよく覚えているものだ、とカカシが
感心するほど、ガイはの子供の頃の様子を並べ立てた。
それが少々苦々しくて、
「ああ、はいはい」
と、気のない返事ばかりを返す。
ガイは得意そうに胸を張りながら言った。
「このオレが教えてやろう。あの子が最近上忍になったんだぞ」
カカシがやれやれと言った風情でぺらりと次のページを繰った。
「それ、最新情報のつもり?上忍試験合格者なら、この待機所の壁にも貼ってあるけど」
上忍待機所のボードには、当然のことながら様々な告知や情報が貼られている。
と直接交流のないカカシが、今回の試験に合格したことを知ったのも
実はその公示のおかげだった。
むむむ……と難しい顔で黙り込んだガイは、奥の手を出した。
「それなら、これは知らないだろう。ちゃんは今、ゲンマとつきあっているんだぞ」
それまでのんびりとページを繰っていた手が、不意に本をぱたんと閉じた。
「ガイ。お前に二つ忠告してやる」
「お?何だ?」
忠告だなんて、まるで永遠の親友のようではないか!とほくほくしているガイに、
カカシは冷たく言った。
「一つ。を、ちゃんづけで呼ぶな。気持ちワルイ」
ガーンと口を開けっ放しで白目になったガイに、更に追い討ちをかける。
「二つ。ガセネタを吹聴する時は、自分の身に気をつけろ」
「うおっ!」
いきなり伸びてきた長い脚に足元をすくわれて引っくり返ったガイが、後頭部を床に
打ち付ける音が派手に響いた。
しかし、頑丈な木の葉の珍獣は、それくらいのダメージは平気なようだ。
すぐにシャキッと起き上がる。
「嘘ではないぞ。今朝、日課のランニングをしている時に、ちゃんがゲンマの
家から出てくるのを目撃したのだ。
あの二人は熱い青春の夜を過ごすナイスな恋人に違いな……ぐほっ!!」
「三つ。オレの前で二度とその話をするな」
底冷えのするようなカカシの声に、忠告は二つだったじゃないか……と薄れ行く意識の
中で抗議しても遅かった。
木の葉の気高き蒼い猛獣は泡を吹いて大の字に倒れた。
その十数分後、アスマが足早に待機所内に入って来た。
「おい、カカシ。外でちょっとした騒ぎになってるぞ。どうやら里に曲者が入ったらしい。
あのガイがやられて道端に倒れ伏していたそうだ」
体術だけは里随一の上忍を倒すなんて只者じゃねえな、と続けるアスマにカカシが
悪びれる風もなく言った。
「ああ。それ、オレ」
「は?」
「だから、やったのオレだって。さっきガイを窓から捨てたから」
さらりと言ってのけるカカシに、アスマの額からだらだらと汗が伝う。
(ガイの奴、何をしたのか知らねえが、カカシを本気で怒らせやがったな)
とばっちりを喰らってはたまらない。
必死に話題の方向転換を図る。
「あー、その、何だ。もう待機も終わりだろ。これから飲みに行かねえか。どうせ暇だろ」
「今日は先約済み」
「珍しいな。女でもできたか」
「ま、そんなとこ」
カカシが答えるとほぼ同時だった。
待機所のドアに控えめにノックがされて、女性の声が響いた。
「あのぅ……カカシさんはいらっしゃいますか?」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、アスマも顔見知りの中忍のくノ一だった。
『お前にしちゃ、随分といいコを捕まえたもんだ』
ニヤリと笑って小声でそう言いながら肘で脇腹を小突いてくるアスマに、
カカシはわずかに顔をしかめた。
「今日は木の葉通りのケーキ店で、新作ケーキでも買って帰ろっかな」
夕暮れを通り越して既に暗くなり、華やかなネオンが目立つ通りを、任務帰りのは
一人のんびりと歩いていた。
が、突如その歩みがぴたりと止まった。
どうして、2日も続けて出会ってしまうのだろう。
しかも、よりによって偶然告白を聞いてしまったあの女の子を連れているカカシに。
嬉しそうにカカシの腕に腕を絡ませる彼女の姿にいたたまれなくて、方向を変えたかったが
Uターンはわざとらしすぎるし、立ち並ぶ店に阻まれて脇道も無い。
は急いで目の前の宝石店へ飛び込むように入った。
「いらっしゃいませ」
綺麗な店員ににこやかに出迎えられ、仕方なく店内を見て回る。
(たまには自分へのご褒美に何か買ってもいいかなぁ)
そんな風に思いながら眺めていると、ふと真珠の指輪に目が行った。
海から遠い木の葉の里では真珠はなかなかの貴重品で、昔、無理矢理買い物につきあわせた
カカシに、ふざけて買ってくれとねだったこともあった。
(やだ。この頃、カカシのことばかり思い出しちゃう。もう、遠い人なのに……)
思い出を振り切るように宝石店を後にしたは、もうケーキ店へ行く元気も失せて
とぼとぼと足取りも重く家路に着いた。
任務に便利なようにと一人暮らしを始めたアパートは、こんな夜には寂しさを助長するばかりで。
は沈み込みながら、玄関のキーを回してドアを開けた。
すると、暗がりの中を灯りをつけたばかりでまだ靴も脱がない内にチャイムが鳴った。
それまで人の気配は無かったから少し驚いたが、心当たりがない訳でもない。
(もしかして、もしかしたら……ゲンマ?)
「はーい」
返事をしながら急いで玄関のドアを開ける。
が、目の前に立つ人物を見た途端に固まった。
「何の御用ですか、はたけさん」
自分でも驚くほど冷ややかな声が、口から滑り出た。
「少し――話してもいいかな」
控えめにそう切り出すカカシに、無意識にの視線が彼の周りを探った。
カカシは何故か、一人でそこに立っていたのだから。
「何でしょうか?」
ドアを即座に閉めることが躊躇われ、は、あの彼女はどうしたんだろう?と訝しく
思いながら一応話を聞く態度を見せた。
「さん、ゲンマとつきあってるんだって?」
「だったら、どうだって言うんですか!」
唐突で無遠慮なその一言に、はつい語気を荒げた。
しかし、それとは対照的に、カカシの態度は平静なままだ。
「ずっと、言おうと思っていた」
の心臓が、期待に似た感情に満たされてドクンと一際高く鳴り響く。が。
「あの時は、すまなかった」
「なにを……」
言いかけて、やめた。
問い正すまでもなくわかっている。
カカシが何に対して謝罪をしているのか。
「今更、昔の事を蒸し返さないで」
そう言うのが精一杯。
思い出すほどに、胸が苦しくなってしまうから。
「じゃ、これだけでも受け取ってくれないか」
カカシは腰のポーチから取り出した小箱を差し出した。
が、は受け取ることを拒んだ。
「いりません。謝ってくれただけで充分だから、昔のことはもう忘れて?私も忘れたから」
できるだけ冷たく言いながらも心が乱れる。
嘘だ。
絶対に忘れる事などできない。
私の人生からカカシと言う色を消してしまうことなんて不可能だ。
だから、謝罪の品なんて受け取りたくない。
でも、カカシが今でも罪の意識を背負っているとしたら、消したふりをしなくちゃいけない。
「もう帰って」
昔より背が幾分か伸びた感のある彼の体を押し出すようにして、玄関のドアを閉めた。
鍵をかけるその手が、少しだけ震えた。
ゲンマは事務室で書き上げた作戦書類の巻物を閉じると、凝った首を動かしながら
小さく溜息を漏らした。
「たまんねーな……」
今までずっと、を見続けていたからこそわかる。
彼女の心は「誰か」にずっと囚われたまま。
以前、飲み会の席で、それまで浮いた噂のなかった彼女に探りを入れてみたことがある。
冗談交じりに「好きな男がいるのか」と。
の性格からして、好きな男がいなければはっきりと否定するはずだ。
結果的に、「さあ、どうかな」と悪戯っぽく笑ってはぐらかされたことで確信が強まった。
その琥珀色の瞳が誰を見ているのかまでは見極められなかったが、そこにどんな想いが
込められているのかはわかるつもりだ。
だから、敢えて自分の気持ちを伝えることなどしなかった。
けれど、昨日ばかりは、惚れた女が落ち込むのは見ていられなかった。
彼女の視線の行く先が誰であるかもわかってしまったから。
傷心につけ込むのが卑怯だとは思わない。
きっかけは何であれ、最終的にの笑顔を引き出すことができればそれでいい。
またとないチャンスが転がっているのに、指をくわえて我慢する必要など、どこにもない。
そう考えての行動だったはずなのに。
はゲンマを嫌いではない。
どちらかと言えば、好きな部類に入るのだろう。
それは十二分に伝わってくる。
けれど、好意は好意のまま、そこで停滞している。
カカシへの想いが閉ざされたところで、それがすぐさまゲンマの方へと方向転換されるほど、
人の心と言うものは単純な構造ではないのだ。
わかっていてもやるせなかった。
「なぁ、あいつのことなんか、早く忘れちまえ。こんなに近くにオレがいるんだぞ?」
ここにはいないに言い聞かせるように、己の掌を眺めた。
その手に、昨夜柔らかく巻きついてきた胡桃色の髪の感触を思い出しながら。
かりかりかり……
かりかりかり……
「んぁ?」
妙な物音と複数の気配に、は目を覚ました。
ベッドに突っ伏しているうちにどうやら転寝をしてしまったようだ。
冷えて強張った体をギクシャクと起こすと、物音のする玄関へ恐る恐る向かった。
かりかりかり……
物音はまだ止まない。
は念のためにクナイを構えると、思い切ってドアを開けた。
途端に黒っぽい小さな塊が部屋に飛び込んできて膝にぶつかった。
「ひゃっ!」
引っくり返りそうになったが、これでも忍者だ。
一瞬で体勢を立て直して飛び込んできた物体を確認……するまでもなかった。
「わんわんっ」
「キューン」
「ウォンッ」
形も大きさも様々な犬が、狭い玄関を占領していた。
「あんた達・・・カカシの忍犬?」
へのへのもへじのマントをつけた忍犬の飼い主なんて、一人しかいない。
犬達は、それぞれが口に咥えていた小箱をぽとりぽとりと床に落とすと、の前で
お座りをして尻尾を振った。
「んん?……これ何?」
「殿。おひさしぶり」
「えっと、パックンだよね」
は短い尻尾を振りまくるパグ犬を抱っこした。
カカシが育てていた忍犬の中で、子犬のくせに親父顔だったからよく覚えている。
「どうしたの?突然」
「使いだ」
「カカシに頼まれたの?」
「いや、拙者らが勝手に使いを買って出た。どうやら今年も渡せなかったようなので
見るに見かねてと言ったところだ」
「一体何の話をしているの?」
訳がわからず尋ねても、パックンはそれ以上説明せず小箱を開けるよう促すばかりで。
は手前にあったひとつを手に取った。
白い包装紙は、元は光沢のある綺麗なものだったらしいが、すっかり黄ばんでいる。
かけられた色褪せた赤いリボンを解いて包みを開けると、は思わず息を飲んだ。
「これって……」
古びてしまった包装紙と違い、輝きを失わないままそこにあったのは、真珠の指輪。
台が少し特殊なデザインだったから、ずっと以前見たものに間違いない。
背伸びしたい年頃のは欲しくて仕方がなかったのだが、高価でとても無理だった。
買い物につきあわせたカカシを宝石店の前に引っ張って行って、
「カカシって私より給料高いじゃない。あれ、買って」
とふざけ半分本気半分でねだったものだ。
は他の箱も次々と開けた。
その幾つかは、年数が経っているもののようで、やっぱり包装紙が古びている。
中から出てきたのは、同じように高価そうな宝石の装飾品類だった。
「これ全部カカシが買ったの?誰のために?今年もってどういうこと?」
矢継ぎ早に尋ねるに、パックンがすまして答える。
「そこまでは拙者の出しゃばる筋合いではない。知りたければ自分で尋ねればよかろう」
は大急ぎで全ての小箱を拾い集めてバッグに詰め込んだ。
行き先は一つしかない。
「お願い!カカシの家へ案内して」
頭から解いた額当てをテーブルの上に置くと、カツンと言う音がやけに耳障りに響く。
腰のポーチを外し、頑丈なベストも脱ぎ捨てくつろいだ姿になると、カカシは疲れたように
ベッドに寝転がった。
長年思い悩んでいた謝罪ができたのに気分が落ち込むばかりなのは、が「許す」
ではなく「忘れた」と言ったから。
カカシのことなど記憶にすら残してもらえない空虚な存在だと断言されたも同然。
笑って許してくれるなんて思っていない。思ってはいけない。
そう考えていたはずのに、心のどこかに淡い期待を抱いていた自分が滑稽だ。
それに、もうひとつ。
「やっぱり今年も渡せなかったか……」
本人につき返されて役目を果たすことができなくなってしまった品。
また、あの引き出しに一つ増えた。
カカシは小箱をしまおうと机の引き出しを開けて愕然とした。
「一個もない……?」
そこに幾つも収められていた小箱がひとつもない。
慌てて引き出しを全部開けて確認した。
次にクローゼットを、タンスを、食器棚までありとあらゆる場所を探し回った。
一人暮らしの狭い家など直に探すところもなくなって、カカシははぁ、と大きく溜息を吐きながら
床にしゃがみこんだ。
忍者が泥棒に入られるなんて、恥ずかしすぎる。
しかも、現金なら幾らでもくれてやるものを、よりにもよってあの品を取って行くとは。
忍犬を口寄せして盗人を追尾しようとしたその時だった。
激しいチャイムの音が鳴り響いて、カカシは印を組みかけていた手を解いた。
「はいはい。誰よ、もう夜だってのに」
独りごちながら玄関のドアを開けたカカシは、ノブを握り締めたまま体勢のまま目を見張った。
息を切らしたが、目の前に立っている。
その周りを、何故か忍犬たちが取り巻いて、カカシを見ると一斉に尻尾を振った。
まるで、「褒めて」とでも言うように。
「はっ……はたけさん!」
「はぁ」
彼女がそこにいることが信じられなくて、うっかり間の抜けた返事を返してしまったカカシは
次の瞬間、心臓が引っくり返りそうなほど驚いた。
「これ何ですか!?」
がバッグから鷲掴みにしたのは盗まれたと思った小箱の山。
「一体、これをどこで?」
「この子達が持って来てくれたんです」
成程ね、そう言う訳か。
とカカシを交互に見ながら尻尾を振っている忍犬たちを叱り付ける気にはなれなくて、
カカシは覚悟を決めた。
「中身、全部見た?」
「見ました。全部高そうな宝石ばっかり」
「こんな所で立ち話も寒いから、中へ入って」
は案内されるままに、奥へと上がりこんだ。
狭いアパートの室内は見回すまでもなく全貌が見渡せてしまう。
里随一の上忍にしては、驚くほど簡素な部屋だ。
忍として必需品の巻物や忍具を除いたら、娯楽や生活に必要な物の類がほとんど見当たらない。
はテーブルの上に小箱を全部置いた。
「パックン達が、これを持って来てくれて言ったの。今年も渡せなかったみたいだから、勝手に
お使いを引き受けたって。どういうことか、聞いてもいい?」
真剣な眼差しを前にして、カカシはそれぞれの箱の蓋を開けて中身を確認しながら
順番に並べ変えた。
そして、あの真珠の指輪を指して言った。
「これは、の17歳の誕生日おめでとうの品なんだよ」
「え……」
驚きに声も出ないを前に、次々にルビーのピアスやエメラルドのネックレスへ
指を動かしていく。
「これは18歳の誕生日おめでとう」
「これは19歳の誕生日おめでとう」
「これは20歳の誕生日おめでとう」
「これは……」
延々と続く説明に、は恐る恐る聞いてみた。
「まさか、これって毎年買ってたの?
「ああ、の誕生日が近くなると毎年あの店に選びに行ってた」
「どうして、こんな……」
「これくらいで許されるとは思ってないけど、せめてお祝いの品だけでも渡したくて。
本音を言えば、誕生日をきっかけに仲直りできるんじゃないかって、浅はかな考えを
持ったりしていたんだけどね。
顔を合わせた途端に泣かれたらとか、大嫌いな男にプレゼントもらっても嬉しくない
だろうなって考えたら、結局毎年渡せなかった」
カカシは最後に、がつき返したあの小箱を、机の引き出しから持ってきた。
「開けてみて」
ブルーのリボンを解いて真新しい包装紙を開くと、中から出てきたのは琥珀のネックレス。
「そして、これが今年の『誕生日おめでとう』。初めて、今日この日に言えた」
カカシに忘れられていたんじゃなかった。
それどころか、こんなに長いこと、自分の誕生日を覚え続けていてくれた。
目の中に、透明な水が溢れかえる。
止めようとギュッと目を閉じた途端、逆にボタボタと零れ落ちた。
「の泣き虫は変わってないね」
「誰のせいよ……」
恥ずかしいけれど、ぐすぐすと鼻をすするのを止められない。
「もう泣くな」
カカシのその一言が、唐突にを10年も前の少女の頃へと引き戻す。
泣き虫だった自分と、困ったように宥めるカカシと。
あの頃は、そんな光景が珍しくなかった。
『もう泣くなよ。お前は泣き顔ブスなんだからさ』
カカシはぶっきらぼうに言うと、照れたようにそっぽを向きながら後半のセリフを続けた。
『笑った方が可愛いし』
そんなことを思い出した矢先に。
「は泣き顔も可愛いけど、笑った方がずっと可愛いんだから」
昔の悪態交じりの慰めとは真逆の言い方に、びっくりして涙が止まってしまった。
「カカシが優しいコト言うなんて、変な感じ……」
昔の回想につられて、つい「はたけさん」という余所余所しい呼び方が吹っ飛んだ。
「後で捨ててもいいから、これだけはもらってくれないかな。やっと誕生日に渡せたし
の瞳の色だから。オレね、太陽の光のようなお前の目が本当に好きだったの。
昔は照れくさくて言えなかったけど」
私も、と。
叫びそうになったの脳裏に、ふとあの中忍のくノ一の顔が浮かんだ。
そうだった。カカシには、彼女がいる。
呼び名だけ戻っても、あの頃には戻れない。
絡んだ糸はもつれた挙句、もう他の人に繋がれてしまったから。
「どうして今更そんなこと言うのよ。もう遅いのに」
「ああ、そうだね」
寂しげに答えるカカシに、心が悲鳴を上げた。
← BACK NEXT →
BY 天道 ユエ
2007/12/31 サイトアップ