ENDLESS STORY
        第十三章



 
 寝室のドアに凭れ掛かり、掌に握っていた鍵を見つめた。


 貰っちゃった・・・カカシの部屋の鍵。
 まだ此処で暮らす事の答えは出ていないけど、素直に嬉しい。


 は貰った鍵を自分のキーホルダーに付け、大切にポーチの中に仕舞った。


 後片付けを済ませて、ソファーに座り今回の任務に付いて話していると、
 お風呂の準備が出来た事を知らせるアラームが鳴る。

 「あっ!お風呂沸いたね。」
 「、先に入っておいで。」
 「いいの?ありがとう。」
 「ゆっくり疲れ取ってね。」
 「では、お言葉に甘えて・・・」

 寝室から着替えを取ると、そのまま浴室に向かった。





 「お先に〜気持ち良かった〜。」

 が浴室から戻ると、「じゃ、俺も。」とだけ言い残し、カカシは浴室に消えて行った。


 あれは反則でしょ。


 紅潮した肌に、纏う甘い香り。
 カカシの熱を上げるには、それだけで十分過ぎる位だった。


 水分補給を済ませ、は寝室の窓辺に佇んだ。
 窓を開けると、夜風が潤った肌を優しく撫でる。
 通り過ぎる風が、湯上りの熱を一緒に連れ去って行く感じが気持ち良い。

 灯る明かりと、消えていく明かり。
 あの大事件から里は完全に復興している。
 平和な里の夜景を眺めていると、春風の悪戯。
 突然の強風に舞い上がった髪を押さえると、それからを守るように巻かれた腕。
 背中に感じる暖かさ。

 「カカシ・・・。」
 「大丈夫?」
 「うん。」
 「湯冷めするよ。って言うか、冷えちゃって。」

 カカシは冷えたの腕を、自分の体温を分け与える様にそっと握り、少しづつ動かして行った。
 暖かいカカシの手になぞられたの腕は、少しづつ温度を上げていく。

 「何見てたの?」
 「ん・・・木の葉の夜景・・・。もうすっかり元に戻ったな…と思って。」

 一つ、一つの灯火。
 その下には、笑顔も、泣き顔もあるだろうけれど、皆の幸せを切に願う。

 「そうだな・・・。」

 カカシの腕に力がこもり、を強く抱き締め、扇形に伸びる夜景を眺めた。

 「でもね、・・・。」
 「ん?」
 「今は俺だけを見て。」

 の顎を持ち上げ、唇を落とす。

 「・・・うん。」

 僅かに唇を重ねながら、はゆっくりと向きを変え、カカシの首に手を回した。
 カカシはを片腕で支え、開いていた窓を静かに閉めると、深く深く口付けた。


 
 カカシと出会うまで動かなかった心。

 ずっと何かが足りなかった。
 ずっと何かが欠けていた。
 それを埋めるような事もしてみたけれど、私の心は弾き返す。
 『この人じゃない。』
 ってもう一人の自分が心の中で叫んでた。
 努力をする事ではないけれど、もう人を愛そうとする事は止めた。
 そんな時スッと私の心に入り込んだカカシ。
 ずっと探していた心の欠片。
 それは――
 カカシ、貴方。

 カカシと出会って、今まで静かだった私の心は躍動を始めた。
 本当に人を愛するという事が、どんなに素敵な事か分かった。
 
 


 
 重なり合う二つの影。 
 何度も、何度も唇を重ねる。
 それはまるで儀式のようで・・・。

 「・・・。」


 私の名前を呼ぶカカシの声が好き。
 私を抱き締めるカカシの腕が好き。
 甘く、優しく、時には激しく、私を酔わすカカシの口付けが好き。
 カカシの全てが好き。


 「カカシ・・・。」

 纏っていた服をゆっくりと剥がされ、素肌と素肌が重なり合う。
 カカシの体温が、僅かにかかるカカシの重みが、とても心地良くて。

 「・・・綺麗だよ。」

 耳元で囁いたカカシの唇は徐々に移動し、所有の印を落としていく。 
 の白い肌に散らばる赤い華。
 カカシの描く小さな華。
 それだけで溶けそうになる。
 全身が熱くて、鼓動が体中に響き渡る。
 
 
 感じた事の無い熱さと痛みに、の眉が動く。
 「っ・・・」
 「辛い?」
 「・・・大丈夫、平気。」
 「無理しなくてもいいからね。初めてでしょ。」
 「な・・・」
 「言わなくても、分かるよ。」

 これまで付き合った男性が居なかった訳ではないけれど、どうしても最後の一線は越えられなかった。
 体を繋げば、心もきっと繋がる。
 そう思ったけれど、受け入れる事が出来なかった。

 焦る自分に、
 『いいんじゃない?あんたらしいよ。ゆっくり探しな。』
 と笑って肩を抱いてくれた親友と、
 『早ければいいって物でもないわよ。でも何かあった時の為に覚えなさい。』
 そう言って幻術を教えてくれた親友。

 この人に逢う為に生まれてきた。
 そう思える程の相手に巡り逢えた。
 今までの自分がイヤだったけど、これで良かったんだと、自分さえも好きにさせてくれたカカシ。
 
 今、カカシと一つになりたいと心から思う。

 そして今夜、カカシによっては華、開いた。

 
 

 


 鳥達の歌声に、重たい瞼を開けると、目に映るの寝顔。
 人を抱き締めて眠るのが、これほど心地良いと今まで感じた事は無かった。
 堪らなく愛しい。

 頬に掛かる髪をかき上げ、しばらく寝顔を楽しんでいると、の瞳がカカシを映す。

 「おはよ、。」
 「・・・ん・・・カカシ・・おはよう。」

 カカシの姿を脳が認識した途端、昨夜の事を思い出し、急に恥ずかしくなった。
 肩から布団を引き上げは自分の顔を隠す。

 「な〜に、照れてるの?可愛い。」
 「だって・・・」
 「、今日の休暇、何したい?何処かに行く?それとも・・・。」
 「それとも?」

 は布団から顔を出しカカシを見つめた。
 「いや・・・。」

 その先を言えずにいるカカシは自分の後頭部に手を置いた。

 「それともの続きはカカシの部屋でゆっくり過ごす?
  カカシがいいのなら、私はそっちがいいな。」
 「ん〜半分正解。俺はと二人で過ごしたいんだけど、
  多分ゆっくりはさせてあげられないと思うんだよね。」
 「ん?」

 の問いかけと同時にカカシは口付け、すぐにその密度を上げた。
 最後に舌先で、の唇をペロリと舐め上げる。
 すると閉じられたの瞼はゆっくりと開く。

 「こういう事。の事離せないと思うんだよね。それでもいい?」
 「あ・・・うん。それがいい。」

 が照れくさそうに微笑むと、カカシは昨夜の情痕の残る肌に再び赤い華を散らせた。

 
 
 

  


BGM 水色の翼