ENDLESS STORY
        第十一章




 ・・・?
 此処どうしたの?


 カカシはの唇にある、小さな傷にそっと触れる。


 戦う前は無かったよね。
 

 親指で唇をなぞると、の体がピクっと動いた。

 「ん〜・・・カカシ・・・。」
 「?起こしちゃった?ごめんね。」
 「ううん。平気。とっても良く寝た気がする・・・。どれ位寝てた?」
 「どれ位って、まだ三十分位だけど。」
 「気持ち良かったからかな?なんだかとってもすっきりしてるの。」
 「もういいの?」
 「うん。元気出た。ありがとう。」

 ん〜っと上体を起こし、は空に手を伸ばした。

 「なんだ・・・残念。」
 「何が?」

 カカシの方を振り返り、問い掛ける。

 「もう少し、の寝顔見てたかったんだけどね。」
 「真顔で言われると照れるんだけど。ねえ、涎垂らしてなかった?」
 「垂らしてた。」
 「嘘!!」

 は慌てて自分の顔を拭う。

 「嘘。」
 「もう!!」

 の振り下ろした拳を、カカシは笑いながら両手で受け止める。

 「単純。」
 「もう知らない。」

 顔を背けるが、その度にカカシはの顔を覗き込んで。
 何度目かに目が合って、そのまま微笑み合い、お互い吸い寄せられるように唇を重ねた。
 鳥達の囁く声をBGMにして・・・。
 



 「そろそろ行きますか?」
 「うん。あ・・・自分で行けるからね。」

 先に立ち上がったカカシの手を借り、も立ち上がると、忍服の汚れを払った。

 「それはまたまた残念。里まで抱えて帰ろうかと思ったのに。」
 「あのですね・・・はたけカカシさん。」
 「イヤ〜残念。」

 頭の後ろに手をやりながら、隠されていない片目が弓なりに曲がった。








 「でも凄いメンバーだったよね。今回の任務。」

 シュッ、シュッと空気を切り裂く様な音をたてながら、枝から枝へ二つの影が飛び移る。

 「ああ。待っている間にアスマも言ってたけどな。こんな任務なら二つ返事だって。」
 「そうだね。」
 「しかも特別ボーナス付き。」
 「特別ボーナス?」
 「ああ。身代金くれてやるくらいなら、特別依頼料払うから、選りすぐりの部隊でと、
  綱手様が泣つかれたそうだ。」
 「そうなんだ・・・。なんだか申し訳ないね。こんなに動きやすい部隊組んでもらえて、
  有難いのはこっちの方だよ。」
 「ま、たまにはいいんじゃないの。俺は毎回と任務に出たいけど。」
 「それは・・・出来るものなら私もね。」

 ニッコリ笑って視線を前に戻す。
 そろそろ里も近い。

 「・・・。」
 「何?」
 「これから何か予定は?」
 「ん?ないよ。休暇だってさっき知ったんだし。本当にあるのかな?休暇。」
 「なきゃ困るんですケド・・・。」

 カカシは独り言の様にぼっそっと呟いた。

 「なんか言った?」
 「イヤ・・・別に。」
 「里に帰ったら、カカシだけS級の依頼書、渡されたりして。」
 「それは困る。」

 在り得そうで怖いでしょーよっとカカシは困った様に笑った。

 「二人共お休みだと良いね。」
 「ああ。したら、俺の部屋で食事しない?良いでしょ?」
 「え・・・。あ・・・うん。いいよ。」
 「ちゃ〜ん、歯切れ悪ーい。何か心配?」
 「そ・・そんな事無いよ。」

 慌てては答えた。
  

 ま、当然の反応だよね。
 俺も今夜は帰すつもりないし。





 阿・吽と書かれた門を抜け、見慣れた街の屋根を飛ぶ。

 任務終了報告の為、綱手の部屋の扉を叩いた。

 「入れ。」

 凛とした女性の声が中から聞こえると、はその扉を開く。

 「ご苦労。任務成功だな。依頼者の娘も先ほど送り届けたと伝令があった。
  捕らえた奴らも今尋問中だ。」
 「そうですか。彩愛ちゃん、やっとお家に帰れたんですね。良かった。」
 「ああ、そうだな。でだ、今日、明日と休暇をやる。」
 「ありがとうございます!!」

 二人は満面の笑みで礼を述べる。

 「まあお前らも立て続けの任務だったし、丁度良い休暇だろう。
  の隊長ぶりも中々だったと聞いている。休暇明けからまた動いてもらうぞ。」
 「はい。勿論です。」
 「じゃ報告書出したら、しっかり休めよ。」

 さっさと行けと言わんばかりに、綱手は片手を振った。

 「はい。では失礼します。」

 二人は報告書を書き上げ、建物を出ると学校帰りの子供達がはしゃいでいた。


 「さてと、買出しに行きますか。今お腹は平気?」
 「うん。全然減ってないと言えば嘘だけど、平気。今食べたら折角のカカシの手料理がねえ・・・。
  ご招待して頂けるって事はご馳走してくれるんでしょ?」
 「ああ。勿論。」
 「嘘、嘘。一緒に作ろう。」
 「は何が食べたい?」
 「う〜ん。和食。」
 「それは偶然。俺も和食。」

 木の葉の商店街を歩きながらそんな会話をしていると、一軒の衣料店でカカシの足が止まった。

 「あれ?夕飯の買い物じゃないの?」
 「それもそうなんだけど、の服、買おうと思ってね。忍服じゃ窮屈でしょ。」
 「あっそうか。じゃあ家から取ってくるよ。」
 「そっ?じゃあすぐ着るやつは取ってきて。後のはここで買おう。」

 の返答も待たずにカカシは店へと入って行く。

 「そんなにいる?」

 慌ててカカシの後を追うと、

 「いる。俺の部屋に置いておく分だから。」

 と耳元で囁いた。

 「・・・あ・・なるほどね。」

 は頬を赤らめながら、照れくさそうに笑った。
 
 カカシと一緒に服を選ぶ。
 こんなデートは忙しい彼らにとって中々出来る事では無く、はその雰囲気を十分に楽しんだ。

 「外に出る時は忍服なんだから、いいよ。何なら持ってくるし。」

 が選んだのは、部屋着兼寝巻きにもなる、ワンピースが二着。

 「後は見てきて。」

 カカシは一番奥のスペースを親指で指した。

 「あはは・・・さすがのカカシもあそこには行けないか。」
 「あそこは男子禁制区域でしょ。」

 そこは色取り取りの生地で作られた物が並ぶ、女性用ランジェリー売り場。

 「だね。分かった。ちょっと待っててね。」

 は足早に急いだ。


 「お待たせ。」

 が選び終わって、レジに向かう。
 会計の為に財布を出すと、

 「御代は頂いていますので。」

 と店員がニッコリ笑いカカシに、

 「こちらがお釣です。」

 レシートと小銭を渡した。

 「え・・・もう払ったの?」
 「ん〜そっ。」

 カカシが店員から袋を受け取ると、「有難う御座いました。」という言葉を背に、二人は店を出た。

 「払うよ。」
 「い〜の。特別ボーナスも入る事だし、これは俺の部屋に置いておく分だしね。」
 「でも・・・悪いよ。」
 「い〜から、じゃ任務成功祝い?隊長ご苦労さん。
  素直に取ってくれた方が、俺としても嬉しいんだけどねぇ。」
 「そっか、なら、遠慮なく。カカシありがとう。」
 「い〜え、どう致しまして。」

 
 それから二人で食料品を見て回ると、街が少しオレンジに色付き始める。

 「買い物も終わったし、は家に取りに行ったら?俺は先に戻ってるよ。」
 「うん。分かった。荷物平気?」
 「平気。」
 「じゃ後でね。」

 手を振り、を見送ると、カカシは踵を返し、一軒の店に向かった。


 そろそろいいでしょ。


 その店では、キーンという金属を研磨する音が響いていた。

 
 


 
  

 

BGM いとしいひと