夜の森。
木々の隙間から零れ落ちる月の明かりが、辺りを照らす。
先ほどまで囁き合っていた、森の住人達の話し声が、ピタリと止んだ。
ENDLESS STORY
第九章
カキーンーーー
金属のぶつかり合う音が響く。
残像だけを残し、森の中を移動する。
一般人には枝だけが撓ったように写るだろう。
敵は三人。
数でならこちらの方が分が悪いが、三人の中の一番若い忍の動きが若干遅い。
は身を潜め、居場所を特定出来ないよう気を配りながら、クナイを投げる。
お互いの背中を預けながら、クナイをかわす三人。
守りが堅く無闇に近寄れない。
起爆札を付けたクナイを敵の足元に差し込むと、チリチリと火花を散らし、
敵が三方向に飛んだ後、爆発した。
一人は全く別の方向へ、一人はカカシの居る方へ、若い忍はの方へと飛ぶ。
は若い忍を木の上からやり過ごすしながら印を結んだ。
「魔幻・樹縛殺」
教え子達との修行や、任務の合間を縫って時間を作り、
修行に付き合ってくれた紅から教えてもらった幻術だ。
樹木に絡め取られた幻を見せられている若い忍の動きは、ピタリと止まった。
その隙に千本を取り出し投げつける。
の投げた千本は、四肢の動きを封じる箇所と、チャクラの流れる経絡系に、
寸分の狂いも無く突き刺さる。
四肢の動きを封じられた忍は、そのまま地面に倒れ込んだ。
あと二人。
少し離れた場所で、二つのチャクラがぶつかる気配がする。
一つはカカシのだ。
そうすると、もう一人の敵は何処?
は木の幹に背を預け、敵の気配を探す。
すると自分の横から一本のクナイが飛んで来た。
それを前方へ飛びかわす。
空中を飛んでいる合間にも飛んでくる無数のクナイ。
の体は森の中の、一部樹木の生い茂っていない場所を飛んでいた。
しまった・・・
此処に誘導されてたんだ・・・
気づいた時には既に遅く、の体には月明かりを浴びて、
銀糸の様にキラキラ光る糸が何重にも巻きつけられた。
何これ?
糸・・・。
普通の糸じゃない。
チャクラ糸だ。
チャクラ糸を使う忍の事は知っている。
その多くがチャクラによって強度を増していたり、特殊な忍具を用いなければ切れない様な物だ。
だけどこの糸は絹の様に細い。
望みを賭けはクナイを取り出し、その糸の切断を試みる。
が、やはりその糸は簡単には切れなかった。
一本、一本の強度は低い。
だが、その糸は幾重にも重なり、の体を締め付ける。
その間にも増え続ける糸。
こんなの一本、一本切っていられないじゃない!!
次第にの体は、糸で覆われ見えなくなって行く。
クナイを握り締めた手も、糸により拘束され殆ど動かす事が出来ない。
段々体にも力が入らなくなって来た。
拘束されているからではなく、チャクラが吸い取られて行くような感覚。
掌からクナイが零れ落ちると同時に、の体は完全に糸で覆われた。
形状は繭。
「また良いのが一つ出来た。」
どうやら敵が姿を表したようだ。
繭の中で敵の声に耳を傾ける。
「その繭はね、君のチャクラを吸い続けるんだ。
君のチャクラが強ければ、強いほど出てこれないよ。
その繭が破れる時はね、君のチャクラが完全に無くなって、意思を持たない人形の様になった時。
僕のコレクションに加えてあげるよ。
君は綺麗だから、最高傑作になるよ。嬉しいな〜」
クックックッと異様な笑い声を上げる忍。
悪趣味な奴・・・。
生憎、あなたのコレクションになるつもりはないんだけどね。
でも此処から出ないと本当にまずいな。
チャクラが吸い取られて行く・・・。
それに何だか変な気分・・・。
「ほらね。段々気持ち良くなってきたでしょ。
繭の色が変わってくるんだ。君のチャクラを吸収してね。
綺麗な色になってきたよ。もう君のチャクラ殆どないんじゃない?
そのまま自分を手放しちゃいなよ。気持ち良いよ。」
よく喋る男だな・・・。
お陰で助かったけど・・・。
繭の中の、何とも云えぬ感覚に身を預けそうになったは、
自分の唇を噛み締める。
唇に別の紅が差し、口内に鉄の味が広がった。
あれ使うとかなり疲れるんだけど、仕方が無いな。
「火遁・降臨・朱雀!!」
切れぬのなら・・・。
破れぬのなら・・・。
焼けばいい・・・。
繭から薄紅色の光が漏れる。
のチャクラは朱に染まり、そのチャクラは炎となり、
にとって不要な物を全て焼き尽くす。
「あれ〜その中で忍術なんて使えるの?君ってすごいね。
でもその繭の中で焼け死んじゃうよ。」
朱雀に焼けない物は無い。
己の身を焦がし、再生を繰り返す、不死鳥。
四神の名の付く忍術を使えるのは、現在一人。
家一族の中でも直系のみ会得出来るが、難易度の高さと、相性の問題から、
会得出来た術者は過去数名。
昔から生物の字の付く忍術は、相性が良いのか、覚えも早く、チャクラ量も僅かで済んだ。
鍛錬をする度にその威力は増し、使用場所も限定されない。
水龍弾なら、水辺の無い山の頂きですら、威力を変えず放つ事が出来る。
この戦闘能力の高さから、上忍にとの呼び声の高いだったが、特別上忍の特殊な仕事柄、
後任が中々見つからず先送りになっていた。
「面白い忍術使うんだね。」
を取り巻く炎は、背後に朱雀を従え高々と燃え上がる。
「僕の繭から出て来れたのは君だけだよ。」
数本のクナイをに投げ付けた忍は、そんな言葉を残して又姿を隠した。
朱雀を従えている間は、完全なる防御体制。
どんな忍具も一瞬に溶けて消え去り、触れれば塵と化す。
消えた!?
辺りを見回すが、敵の姿はなく、気配も感じ取れない。
遠くではカカシのチャクラが大きさを増すと、敵のチャクラが弾け飛んだ。
カカシ、雷切使ったのかな。
こっちの敵さんは、かくれんぼが好きみたいだよ。
・・・流石に少しきつくなってきたな。
朱雀の炎は次第に弱まり、消えて行った。
何処に隠れてるのかな?
「火遁・鳳仙花、水遁・水龍弾。」
自分の周囲に術を放つ。
鳳仙花の術は、樹木を焼き、水龍弾の術はそれを消火し、薙ぎ倒す。
当初は僅かだった森の拓けた部分も、の術によりかなり大きくなった。
やっぱり居ないな。
時間にしたら極僅かだし、そんなに遠くには逃げられないはず。
やはり考えられるのは只一つ。
だったら・・・ね。
だってもうすぐ・・・。
ぽっかりと空いた平地の真ん中で佇むと、の栗色の髪は、
天から注ぐ月の光を浴びてキラキラと光る。
「玉切れ?じゃなくてチャクラ切れか。」
再び、クックックッと薄気味悪い笑い声が聞こえると、
背後にはの首にクナイを付き立てる先ほどの男。
「君ね〜良く頑張ったよ。でも僕が何処に居るか分からなかったんだね。」
「あなたの事だから、地面に潜っていたんじゃないの?」
「そうだよー。だったらあんな術の使い方しても無駄じゃん。
あ・・・僕の事が怖かったんだ。へえ〜そうか・・・」
「随分おしゃべりが好きなのね。」
「うん。だから、いっぱい話し相手が要るんだ。僕の所においでよ。」
すると地中からしなやかな手が男の両足を掴み、首だけを残して土中に引きずり込んだ。
「土遁・心中斬首の術」
すぐさまは男の首に千本を突き刺す。
暫く大人しくしててね。
繭使いの僕。
はカカシの方を見て、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとう。カカシ。」
「い〜え。それにしても何言うのかね〜この男は。
俺だってに、まだそんな台詞言った事ないのに。ダメでしょ。先言っちゃ・・・。
それにね、。」
「うん?なあに?」
「あんまり危ない事しないデヨ。ヒヤヒヤしたよ。俺が来なかったらどうすんの?」
「来てくれたじゃない。」
「あのね・・・」
「カカシの気配は分かるもん。」
「だからって・・・。」
言いかけてカカシは言葉を飲み込んだ。
が俺の気配を感じ、起こした行動だという事は理解している。
そして俺が何をするのかも、は分かっていた筈だ。
だからと言って、がクナイを突きつけられる姿は心臓に悪い。
これがアスマやガイなら、違う見方が出来るが、にはどうも小言を言いたくなる。
それは、俺の愛している人だからこそ・・・。
「どうしたの?カカシ。」
「兎に角、無理は禁物。寿命が縮まったよ。後で返してね。」
「なにそれ?」
夜明け前が一番暗いと言う。
見上げると星が瞬く夜空を、一羽の鳥が旋回していた。
ちょっと突飛過ぎましたかね?
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