Crescent 2
はたけカカシ Happy Birthday 2006
「なんで海が青いか知ってる?」
「う〜ん・・空の青さが写ってるから?・・・なんて子供みたいな答えだよね。」
「それもね、まんざらではないのよ。
光は七色でしょ。
波長の短い赤い光は海水に吸収されて、波長の短い青い光だけが拡散して青く見えるんだよ。」
「そうなんだ〜。なんか、カカシ・・・先生みたい。」
「いや・・・一応俺、先生って呼ばれてるんだけど?」
「あっ、そうでした・・・。」
私が海を見たいと言ったら、
―― が海を見たいと言ったから、
カカシが話してくれた海の話。
―― 俺が話した海が青い理由。
は渡る海を、カカシは窓から見える遠くの海を見つめながら思い出していた。
順調な船旅を終え、は三日月島の港に降り立ち、王宮へと繋がる大通りを歩く。
石畳の道の左右には、活気に溢れる人々の笑顔と、様々な店舗が建ち並ぶ。
その中でも一際装飾の派手な店を眺めて、は小さく微笑んだ。
ほんと・・・綱手様が好きそうな街だなぁ・・・。
観光産業の盛んな月の国は、公営ギャンブルも盛んであり、綱手がこの街に滞在した訳もよく分かる。
世話になったって言ってたけど・・・これ絡みじゃないよ・・・ね?
でも、綱手様の事だからな・・・やっぱり・・・。
カジノを見上げたはポツリと心の中で呟いた。
一体綱手様は、いくら借金があるのだろう・・・
王宮に着くと、すぐに国王の間に通され、綱手からの書状を手渡した。
大抵の事ならば木の葉側の意見を呑む、と前置きされていた今回の同盟条約の申し入れ。
呆気なく話は進み、あとは調印式を待つばかり。
「なに、カカシ先生、外見ながら黄昏てるんですか?」
「いけな〜い?サクラ。」
不意に掛けられた声に、窓辺に佇んでいたカカシはくるりと向きを変えた。
「いけなくはないですけど・・・。」
「ホントだ、夕日背負ってるってばよ、カカシ先生。」
「ホントですね、ガイ先生が見たら喜びますよ。」
サクラの後ろから、顔を出すナルトとリー。
日中はカカシが寝込んでいるのをいい事に、遊び回っている彼等も、
この時刻になればカカシを見舞いにやって来る。
「入るなり、失礼だね〜君達。」
「それよりちゃんと休んで下さいよ。」
「はい、はい。」
カカシはサクラの言葉に生温い返事を返すと、ベットの淵に腰を落とした。
「そういえば、条約の為に、里から誰か来るのって今日辺りですよ。」
サクラはそう言いながらカカシの点滴の速度を確認する。
「ん〜、あっそう。どうせ特上の誰かでしょ。」
「そうだと思いますけど。もしかしたら、もう着いてるかもしれませんね。」
「興味ないから、俺。」
以外は・・・
だけど挨拶くらいはしとかないとねぇ。
でも、やだね〜。
ゲンマ辺りが来たら、何言われるか分かんないでしょ。
俺のこの状況。
大体言われる事は想像つくけどねぇ・・・。
はぁ・・・とカカシは小さく息を吐いた。
「カカシ先生、夜ちゃんと寝れてます?」
「ま、なんとか。」
チャクラ切れを起こした当初は、まさしく泥の様に眠るだった。
それでも、体が僅かに回復してくると、の事を思い出す。
きっと報告を聞いて心配しているだろうと。
そして、それよりもが傍にいない事への寂寞の想い。
誰かを抱き締めて眠るのは、カカシにとってが初めての事で、
最前線に立つその身は神経を研ぎ澄まされ、誰かを抱いて眠るなんて事を許してはくれなかった。
まどろみはするけれど、常に気を張った状態。
でもは違う。
自分の尖った部分を優しく包んでくれる休息の場。
一人よりも、二人。
剥き出しの刃物はいつか錆びるから、お互いが収める鞘になる。
の事を思い出すと、中々寝付けないとは、言えないでしょーよ。
「そうですか・・・。一応看護師さんに言っておきますね。
慣れないと二十四時間点滴は寝不足になる人もいますから。」
「ご親切に・・・ど〜も。」
カカシは後頭部に手を置き、そのまま少し頷いた。
「じゃあね〜カカシ先生。」
「しっかり休んでくれよな。」
「では!」
最後にリーが片手を上げ扉を閉めると、日課となった生徒達のお見舞いも終わり。
部屋の外から聞こえる生徒達の賑やかな声が遠くなると、カカシはベットに寝そべった。
は今頃、何してるかね・・・。
その頃は側近に案内され、王宮内の客室に来ていた。
「あれって、・・・さん?」
サクラがに気づき、ナルトとリーに話掛けた。
「そうだって!お〜いの姉ちゃん〜。」
ナルトが大声で叫び、振り返ったに手を振ると、三人はの傍に駆け寄った。
「あっ、ナルト!サクラ!リー!」
「どうしたんですか?あっ!条約の為に里から来る人って、もしかしてさん?」
「そうなの。大役を仰せ使っちゃってね。」
話し込むに『こちらです。』と耳打ちし側近は戻って行った。
「うわ〜カカシ先生喜びますよ。すぐに会いに行きますか?案内しますよ。」
自分の事の様に喜ぶサクラは早口で捲し上げる。
「カカシは何処にいるの?」
「王宮内の医務室です。来賓専用の個室ですよ〜。」
「そんなのまであるんだ。やっぱり凄いね、此処。」
「そうなんですよ、だから私の出る幕なんて殆どなくて、お医者様と看護師さんにお任せしています。
早く行きましょうよ〜。」
「それがね・・・すぐには行けないんだ。これから着替えて晩餐会なの。」
「晩餐会?」
三人は声を揃えて目を輝かせた。
「晩餐会っていったらさ、上手い飯がいっぱい食えるんだろ〜。いーなー俺も行きてぇ。」
「アンタが行くような所じゃないわよ。これも任務!すいませ〜ん、さん。」
サクラはナルトを小突くと苦笑いを浮かべた。
「ハハ。まあ確かにね〜。美味しいお料理も食べられるかもしれないけど、
味なんて分からないかも、緊張しちゃって。お偉いさんが集まるからね。」
「そうですよね〜・・・馬鹿ナルト!
ところで、さんの部屋ってここなんですか?」
「うん、そうみたい。サクラ達は?」
「私達もここの階ですよ。あそこが私で、その向かいの二部屋がナルトとリーさんです。」
サクラはここから二部屋離れた自分の部屋を指し、その前の扉に指先を移動させた。
「そっか、じゃ、全部終わったら、街案内してね。綱手様に休暇も頂いたから。」
「勿論です。任務頑張って下さい。」
「ありがとう。じゃあね。」
は三人に手を振ると、部屋の中に入って行った。
「この事、カカシ先生に教えてやろうぜ、絶対喜ぶってばよ。」
「それは良いアイディアですね、ナルト君。」
「ちょっと待った〜!!」
走って行こうとするナルトとリーの襟足を掴んで、サクラが叫ぶ。
「だめ、この事は秘密。」
「なんで〜『なんでですか?』」
「ムードないわね・・・二人共・・・。
離れていた恋人同士が異国の地で再会するのよ。ロマンティックじゃな〜い。」
「離れてたってもな〜何年も会えなかったってわけ・・でも・・」
頭の後ろで手を組んで話すナルトを鋭い目つきで睨みながら、サクラは指を鳴らした。
「何か言った〜ナルト!」
「ひ〜サクラちゃん・・・。なんでもないってばよ・・・。」
「私達が教えちゃったら、感動が薄くなるでしょ。
いい〜い?アンタ、この事絶対カカシ先生に言うんじゃないわよ!
さんとカカシ先生が会うまで、医務室には出入り禁止!
アンタが一番危ないんだから!」
「分かったよ・・・。俺は何にも言わねぇって。」
「分かれば宜しい。・・・でも、さんどんな服着るんだろうな〜。」
晩餐会と聞いてナルトは料理でも、サクラは着飾る服に興味を示す辺りがやはり乙女。
「それより、俺達も飯食いに行こうぜ。腹減ったってば・・・よ・・。」
「そうね。」
「行きましょう。」
こうして三人は赤い絨毯のひかれた階段を駆け下りた。
そして王宮内の医務室に一人横たわるカカシは、ポタリ、ポタリとゆっくり落ちる輸液を眺め、再び呟く。
は今頃、何処で何をしてるのかねぇ・・・と。