「あ、ちゃんとツインだね」
部屋に着いた途端が放った一言に、八神は、意味がわからないと眉根を寄せた。
そんな八神の顔を見て、がクスクスと笑う。
「だって、間違えてダブルだったら困っちゃうなーと思って」
そう、ベッドを指差しながら言うを無視して、八神は冷蔵庫からビールを取り出した。
(む…無視された……)
としては、この無口なチームメイトと仲良くなろうという意図のある冗談だったのだが…。
(無視されると恥ずかしいというか、むしろ恥ずかしさのあまり引き下がれないというか…)
「ダッ、ダブルだったら二人で一緒に寝る事になっちゃうのかな?それともやっぱり、どっちかがソファーかな?そうなると身体の大きさから言って、八神君がベッドで僕がソファーかー。いやー、良かったツインで」
こんなに引っ張るつもりのなかった話題だが、八神のあまりの無反応ぶりに、半ばヤケになって言葉が溢れ出た。マヌケな自分に涙も溢れそうだ。
京の親戚という事で警戒されているのだろうかとあきらめかけた時、ベッドに腰掛けていた八神が立ち上がった。
「期待したのか…?」
「え?」
一瞬何を言われたのか意味がわからず聞き返すと、八神の手によっての、男にしては小ぶりなアゴがすくい取られた。
「別に、ツインだろうがダブルだろうが、抱いてほしいなら抱いてやるが?」
「八神君っ…」
至近距離で目を細められ、とんでもないセリフを言われているというのに
(ああ、やっぱり八神君ってものすごい美形だな…)などと思いドキドキしてしまう。
(って、誘惑されてどうする!)
は自分のアゴを捕らえている八神の手を外すと、いたずらっ子を叱るような目で軽く首を傾けた。
「八神君、そんなエロイ顔でエロイ事言っちゃダメだよ。それって立派な誘惑だよ?」
「エロイ…顔、だと…?」
困惑気味の八神を見て、の方が心底驚いた。
「八神君もしかして自覚無いの?君、すごくエロイよ?ついでに言うと声もエロイよ。なんか雰囲気もエロイ」
「なっ…」
「うわー、もう、信じられない。無自覚って一番危ないじゃない。気付かないうちに色んな人を誘惑しまくってるって事でしょ?」
「…そんな事はしていない」
眉間にシワを寄せて睨まれるが、今まさに誘惑されかかったには心配を深めるだけだった。
(この子アブナイなあ…)
ついさっきまでは、まさか彼に対して庇護欲を感じる事なんて考えられもしなかったが、今ではの中での八神は、着実に『何かほっとけない存在』になりつつあった。
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