「な…んで、布団…一つ?」
目の前に現れた布団というアイテムに『就寝』とは別の意味合いを感じ取ったらしいが、怯えた目で市丸を見上げた。
「お布団、一つしかあらへんねん」
市丸が小首を傾げてニコリと笑うと、は「そうなんだ…」と、一応納得したように布団へと視線を戻した。
「あの、じゃあ俺は畳の上で寝るよ」
「あかん」
室内で、しかも畳があるだけで十分幸せだから…と、続けようとした所を、市丸に思いのほか強い語気で遮られる。
「あかんよ。一緒に寝な、意味ないやろ?」
低い声が耳朶をくすぐり、身体がゾクリと粟立った。
「ほら、布団に入り」
市丸に腰を抱かれて促されると、まるで催眠術にでもかかったように、自分の意思を離れて足が動いた。
そもそも自分の意思が今どこにあるのかも、最早にはわからなくなっていた。
「逃げ出さなければ」という危機感と「今逃げ出せば、今度こそ嫌われてしまう」という思いの間で揺れ動いている。…いや、実際に身体が市丸に従って動いているという時点で、既に「市丸に嫌われたくない」という思いの方が強いのかもしれない。
布団の上に横たえられ、その上から市丸に圧し掛かられると「ああ、やっぱり…」という絶望感と共にもどかしような、やるせないような気持ちが湧き上がり、市丸の目を見ることが出来ず顔を横に反らした。
「…」
名前を呼ばれ、渋々視線を合わせると、妙に優しげな笑顔の市丸に見つめられていた。
「好きやで」
ドクンと心臓が跳ねる。
「う…うそだ」
「嘘やないよ。僕がにそんな嘘つく意味がどこにあんの?」
市丸に苦笑され、混乱する頭で考えを廻らせて見るが、確かに既に圧倒的優位に居る市丸がそんな嘘をつく理由など、思いつかなかった。
「は、僕の事好きやないの?」
問いかけられ、心臓が早鐘を打つ。
「………わからない。…でも、………嫌われたくないっ」
そう、素直な思いを口にした途端、の瞳に大粒の涙が溢れた。
の涙をペロッと舐めた市丸は、優しく微笑んだ。
「ええよ、十分や」
目蓋を閉じて小さく震えているの唇に柔らかく口付けると、は涙で濡れた目を開き、熱く市丸を見つめた後、もう一度ギュッと目を閉じた。
市丸は小さく笑っての唇にもう一度自分の唇を重ねた。同時に指先で首筋をソロリと撫で上げると、の喉がヒクッと震え、その拍子に開いた柔らかな口腔内へと舌先を差し込んだ。
「ァッ………ふぅ…」
逃げ惑う舌を捕らえ、己の舌先で軽く撫で擦ると、の口から溜息のような喘ぎが漏れた。
「…、可愛えな」
市丸は、わざとの唇をちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い上げ、胸元から侵入させた手で脇腹をなぞりながらゆっくりと着物を脱がせた。
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