「だから言うたやろ?外には怖い人がおるって」
「…だって、ギンが厠の躾とか言うから………」
「そんなん冗談に決まっとるやん」
「なっ………」
(冗談に聞こえないんだよー!!)
「とにかく、もういっぺんお風呂入ってきぃ。着物も着替えな」
「あ…、うん」
そう言うと、今回は自分も一緒に入る気はないらしく、そのままに背を向けた市丸は、どこか別の部屋へと消えてしまった。
なんとなく沈んだ気持ちで脱衣場へ入る。
(ギン、怒ってるのかな…?)
背を向けられた瞬間、言いようのない寂しさに襲われた。
ちゃんと助けに来てくれたし、こうして家に連れ帰ってもくれた。しかし…。
(呆れられたかも…。俺、嫌われちゃった…?)
ギンに嫌われた…。そう思うと無性に悲しくなった。なぜこんなに悲しいのか、自分でもよくわからない。初対面の人間に破廉恥極まりない行為をしてきたような男だ。変な奴、いや、変態だとすら思ったのに…。
「ギンっ…」
「また泣いとんの?」
突然の声に驚いて振り返ると、脱衣場の戸口に着物を持った市丸が立っていた。
「今日は僕のしかないけど、明日はの着物買いに行こな」
「お…れの、着物…?」
「せや。だけの着物や」
の頬を涙が伝い落ちた。
「は泣いてばっかりやな」
市丸は苦笑しての身体を包み込んだ。
「…っく、…ふ………」
市丸の大きな手で背中を撫でられると、の目から益々涙が止めどなくあふれた。
(まあ、泣き顔が可愛かったから連れて来たんやけど)
市丸はを宥めながら、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「あの…、お風呂………」
「ああ、上がったか。こっち来ぃ」
市丸に手を引かれて連れて行かれた部屋には…。
「お布団敷いたで」
一組の布団が敷かれていた。
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