仔猫、拾われる

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(じょ…じょ…冗談じゃない………)
 は背中を伝う冷や汗を感じながら、正面の市丸から目を逸らさずに後ずさった。
 市丸は、何を考えているのかわからない笑顔でじりじりと間合いをつめて来る。
 がようやく辿りついた玄関の戸に後ろ手で手をかけると、市丸の目からすぅっと笑顔が消えた。
「あかんよ。一人で外に出たら、怖い人がぎょうさんおんねんで」
「あんたが言うな!」
 は捨て台詞を決めると、慌てて外へと飛び出した。

「あらら、人の忠告はキチンと聞かな、まともに生きていかれへんで?…まあ、ああいう悪い子はちょっとくらい怖い目ぇにおうた方が、考えも改まるかも知れへんな」





 ハアッ ハアッ ハアッ
 市丸の家を飛び出したは、後ろから市丸が笑顔で追いかけて来ているような気がして、全力で走り続けた。
 そんなの姿を物珍しげに見る周りの視線が、妙に痛い。
(て…てゆーか、ここどこ?何でこんなに死神が多いの!?)
「ぎゃふん!!」
 周りに気をとられた瞬間、は何者かに激しくぶつかった。
「うわ、珍しっ!俺、現実で『ぎゃふん』って言う奴、初めて見た…」
 は派手にすっ転んだが、同じ衝撃を受けたはずの相手は、体勢を崩す事もなく、そんな事を言った。
「おい、大丈夫か?」
 手を差し出され、相手を見上げると、まぶしいばかりに光り輝く頭部に目がくらんだ。
(あ…、この人まだ若いのにハゲてる)
 だが、ハゲてる人に「あなたハゲてますね」と言ってはいけない事くらいはも知っていたので、何も言わなかった。
「お前どうしたんだ?死神…じゃあねえよな。こんなとこで何してんだ」
「え…、あ………」
 まさかとは思っていたが、今の一言で確信に変わった。
(ここって…、瀞霊廷なんだ)
 それなら周りを行く人々が死装束や死神統学院の着物を着ているのも、自分が物珍しげに見られていたのも頷ける。
(ど…どうしよう)
 市丸との出来事を素直に白状すれば良いような気もするが、風呂場での一件の手前、言ってはいけない事のような気がして、は答えに詰まった。
「どうしたんすか、斑目さん」
「ああ、オメーらか…。それがよ、怪しい奴がいたんで尋問してんだけど、コイツが何にも言わねぇんだ」
 目の前のハゲだけでも十分怖いのに、更にガラの悪そうな死神が3人も増えてしまい、は小さな身体をより一層小さく縮めた。
「へー…」
 ガラの悪そうな死神達はをまじまじと見ると、そのうちの一人がハゲた死神に向き直った。
「コイツの事は俺達に任せて下さい。こんなガキに斑目さんの手を煩わせる事ないっすよ」
「そうか?わりーな。まだガキみたいだからよ、あんまり手荒な事すんじゃねーぞ」
 後から来た3人にを任せて斑目が背を向けると、斑目と話していた一人がに視線を向けた。
 そしてニヤリと口元を歪めると、いやらしい顔で舌なめずりをした。


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