ひ………、酷い目にあったー…――
結局、はあのまま市丸の手でイかされてしまった。
その後、あんな所からこんな所まで、いやに念入りに洗われたが、意識が朦朧として、抵抗する事もできなかった。
「お腹すいたやろー、ご飯にしよなー?」
(あんなイんヤラシイ事しておいて、何その爽やかな笑顔っ!)
逃げ出したい!
きっとこの男は、狐のお面を被った狼だ!
と、の中の理性がワンワンと警告を鳴らしているのに、目の前のちゃぶ台に次々に置かれていくご馳走を見ていると、思わずゴクリと喉が鳴った。
「お刺身好き?」
ギンに笑顔で問いかけられ、素直に頷いてしまう。その目は最早、眼前の豪華な刺身盛り合わせの虜だった。
(はぁ〜、いい匂い…。お腹鳴りそー)
鼻をクンクンさせながらウットリと目を細めるに、市丸はプッと吹き出した。
「かわいな〜。食べてええよ」
の前にご飯とお箸を置いてやりながら言うと、は何故か困った顔で躊躇している。
「食べへんの?」
「だ、だって…、こんな豪華な物………」
いざ、食べてもいいと言われてしまうと、普段食べている物とのあまりの差に尻込みしてしまったらしい。
「ええんよ、こんなに僕一人じゃ食べられへんし。一緒に食べよ」
そう言って、隣に座った市丸が先に食べ始めると、もおずおずと箸を取った。
「い、頂きます」
左手で、ほかほかのご飯が乗った茶碗を持つと、その温もりに胸が熱くなる。
震える箸で一口ふくむと、の頬に涙が一筋こぼれた。
「どないしたん」
「だって…、あったかい………っ」
土で汚れた木の実、腐りかけの残飯…。そんな物でも、口に入れる物がある日は、まだマシだった。
そんな生活をしてきたにとって、温度のある食べ物を口するなど、夢のまた夢。
温かいご飯が、こんなにも胸を熱くするものだなんて、知らなかった…。
「そうやなぁ………」
白米を噛みしめながらしゃくりあげるの頭を撫ぜながら、市丸もかつての自分を思い出していた。
「あったかいオマンマが食べれるゆうのは、幸せな事やな…」
「…っ、…ぅ…」
「その幸せを知っとるっちゅうのは、知らんもんより一個お得や」
「………うん……っ…」
最初っから当たり前やと思うとったら、幸せも何もわからへん。
はこれから、一個一個幸せを見つけてったらええねん…。
(あかん、思った以上に可愛いわ…。…ハマッてまうかも)
その後市丸とは、夕飯を食べ終えると、二人並んで洗い物を片付けた。
の手を手ぬぐいで拭いてやりながら、市丸は斜め上を見つめる。
「えー…、と。子猫拾うてきたら、あとは………」
(まだ言ってる…)
少々呆れながら、が次の言葉を待っていると…。
「あ、せや。厠(トイレ)の躾がまだやった」
(…………………は!?)
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