始まりも終わりも、そして災厄も幸運も、起こる事はすべて唐突に起こるものだとは思った。
いつも通りの日常から突如としてこの異世界へと迷い込み、友とはぐれ、多くの仲間を失った。そして新しい仲間達との出会い、友との再会…。
孫市との再会は心の底から望んでいた事で、喜ぶべき事だ。
なのになぜ、こんなにも絶望が胸をしめつけるのか…。
「」
陸遜への報告を終え、建物を一歩出たところで孫市が後ろのを振り返った。
「…え?」
ぼんやりとしていたは、一瞬の間の後、生返事を返した。
そんなに孫市は、困ったような笑顔で肩をすくめる。
「俺達はちょっと情報収集してから出る。お前はその間に、ここの連中と別れの挨拶でもしてこいよ。…再会は保証できないんだ、後悔の無いようにな」
「う…、うんっ」
再び建物の中へと消えていくの背中を見送って、孫市は小さな溜息をついた。
「な〜んか、娘をもつ父親の気分だな………」
「は?」
「何でもねえ」
「陸遜………」
陸遜の自室として使用している部屋に着くと、先程までいた凌統の姿はなく、室内に居るのは陸遜一人だった。
「っ…、どうしたんですか…?」
「あ、挨拶…ちゃんと、したくて…」
「挨拶………」
陸遜の顔が曇る。
「…あ、ごめん。忙しいのに…」
遠呂智軍の手が迫っているとわかった今、陸遜はこれからの戦の計画を立てなければならない。
わかっていた筈なのに…。
が自分の浅はかさに俯くと、陸遜の腕に強く抱きしめられた。
「せっかく、あなたに取り乱す姿を見せずに済んだと思ったのに…。二人きりで改まって挨拶なんてされたら、離したくなくなります…」
「え………」
「本当は、あなたを行かせたくなんてありません。…でも、仲間が見つかった以上、彼らの元へ返すのがあなたにとっても最善なんです」
は本当はまだ迷っている。陸遜が引き止めればここに残る道を選ぶだろう…。しかし、陸遜の決意は固いようだった。
「今だから言いますが、…私は最初に出会った時からあなたに強く惹かれていました」
「え…、嘘………」
思いがけない言葉に、が驚いて顔を上げると、陸遜の真摯な瞳に見つめられた。
「本当です。…たとえ、あなたの心にあの孫市という人以外はいないと知っても、あなたへの思いを断ち切る事はできませんでした…」
「え?孫市?…まっ、孫市に対する感情はそんなんじゃないよ!」
「………そうなんですか?…本当に?」
「僕にとって孫市は…、歳の離れた友人で…そうだな、兄弟みたいなものだから、孫市をそんなふうに思った事は一度もないよ?」
困ったように見上げると、大きな溜息とともに再び強く抱きしめられる。
「陸…遜………」
この胸の高鳴りは何なのだろう。なぜ、抱きしめられただけで泣きたくなるんだろう…。
抱きしめる力を緩められ、ほんの一瞬無言のまま見詰め合う。
「また…会えるよね?」
陸遜を見上げるの瞳がみるみる潤んでいく。その瞳に吸い寄せられるように、陸遜は顔を寄せた。
「ん……」
深くゆっくりと温めるように唇を合わせられる。最初の口付けとは違い、官能を煽るような動きに、の身体が震えた。
しばらくの唇を味わった陸遜の舌と唇は、最後にの唇の割れ目をぺろりと舐めると、名残惜しげに離れた。
「続きは、再会の後に…」
「…うん………」
完全に放心状態のは、陸遜の言葉に意味もわからず頷いた。
「そんな顔をされると、このまま最後までしたくなりますが…、今は色々無理ですね。…必ず、生きて再会しましょう。…その時は、覚悟して下さい?」
陸遜は離しがたい誘惑を振り切り、腕を解いた。
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