「…………」
「…っ………」
と陸遜は、小田原城の一室で向かい合って座っていた。
ここまでは陸遜にとって辛い日々だった。目の前に愛する人が居て、相手も自分を好きだと言ってくれたのに、中々二人きりになれる機会がなかったのだ。
それが、現在二人が所属する織田軍が、ここ小田原城を落とした事で、やっと陸遜に軍師としての個室が与えられた。
陸遜の強い希望で、与えられた部屋をと二人で使う事になり、こうして初めて二人きりの夜を迎えた訳だが…。
ガチガチに緊張したは先程から一言も言葉を発しないし、その緊張が伝染したように、陸遜もまた動く事ができずにいた。
しかし、自分から動かなければ、このまま夜が明けてしまいそうだ。
陸遜は意を決して立ち上がった。
「っ…」
驚いて息を呑んだが可愛くて、少しだけ緊張が緩んだ。
布団をめくり、端に横たわると、空いた場所をポンと手で軽く叩いた。一応二人分の布団が用意されてはいるが、残った一組が使われる事はないだろう。
「…、こちらに…」
陸遜の呼びかけに、が益々身を硬くしたのがわかったが、嫌がる素振りは見せず、素直に陸遜の隣に身を横たえた。
抵抗する気はない。陸遜がこういう行為を望んでいる事は、彼の今までの言動から察していたし、彼がこの部屋を自分と二人で使いたいと言い出した時から覚悟はできていた。
そしてなにより、陸遜が好きだ。
女性との性行為も未経験なにとっては、期待よりも恐怖と羞恥の方が強かったが、陸遜が望む事ならば叶えたいと思った。
の唇が小刻みに震えている。きっと怖いのだろう。
ぎゅっと両手を握り緊張に耐える姿に、愛しさが込み上げる。
陸遜はを驚かせないように、出来るだけゆっくりと慎重にの上に覆いかぶさった。の手が思わず陸遜の腕を掴む。
「…、大丈夫ですよ。………極力優しくします」
「陸遜…っ」
涙目で見上げてくるに口付ける。最初は軽くついばむように、次第に深く。重なり合った唇から湿った音が響く。
「んんっ…、ぅ…」
陸遜が顔の角度を変えながら舌を深く絡ませるたび、の喉は切ない声を漏らした。
飲み込めずに口の端から溢れた唾液を、陸遜の唇が辿る。耳の裏側をゆるりと舐られ、は身を捩った。
「…ふっ………ハッ………」
陸遜は首筋、喉、鎖骨へと口付けを落としていく。はその度に小さく身体を震わせた。
鎖骨に軽く歯を当てながらの着物の合わせを開くと、の身体がびくりと震えた。
「陸遜っ…」
自分の名を呼ぶの上ずった声に誘われるように、陸遜は桜色の胸の突起を口に含んだ。
「ァッ………」
は小さく掠れた声を上げ、身体を強ばらせた。
その時、廊下から足音のようなものが聞こえた気がして、陸遜は動きを止めた。
「………」
陸遜の様子に、も廊下から響いてくる音に気付く。
足音は二人の部屋の前で止まった。
「殿、居られますか?」
声の感じから、訪ねて来たのが光秀だとわかったは、慌てて身なりを整え、襖を開けた。
「お休みでしたか、失礼しました」
の上気した頬を見て事情を察し、光秀は申し訳なく思ったが、今はそれどころではなかった。
「何かあったのですか?」
の後ろから陸遜が訊ねると、光秀は「ええ…」と答えて陸遜から視線を逸らした。
その様子に何か嫌なものを感じた陸遜だったが、黙って光秀の言葉を待っていると、光秀はに視線を合わせて言葉を続けた。
「…信長様が、貴方をお呼びです」
「え…、こんな時刻に…、一体なぜ………」
一瞬頭を過った考えに気付かぬ振りをして、は光秀を見上げた。
まさかそんな筈はない、別の用事であってほしい。
しかしその希望は、静かな光秀の声で打ち砕かれた。
「単刀直入に申しますと、…夜伽のお言いつけです」
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