途中、戸田重政、毛利秀元らを倒した光秀は、馬を止めると後ろに乗るを振り返った。
「あそこに見えるのが下邳城です。陸遜殿はそこにいます」
「あそこに陸遜が…」
「そこの橋を渡ればもうすぐですよ。頑張って下さい」
「はい!」
「頑張って下さい」とは言われたものの、こうして近くで光秀の戦いぶりを見る事で、彼が思っていた以上の兵(つわもの)であった事をは知った。
とにかく強い。
自分の援護など殆ど意味を成していないだろうが、あえて「頑張れ」と言う所に、光秀の武士としての優しさを感じた。
一方、光秀は内心驚いていた。
「援護射撃を」とは言ったものの、正直走る馬上でそんな事が出来るとは思っていなかった。言葉の上だけでも役割を与える事で、相手に余計な気遣いをさせない為のものだったのだが、身体の平衡感覚が良いのか、はしっかりとその役目を果たしていた。
初めは偶然かとも思ったが、三度、四度との放つ弾が敵を捉えるのを目の当たりにし、まぐれではない事がわかった。
(馬上で鉄砲を扱えるとは、思ってもいませんでした…)
さすがに、手綱を捌きながら…というのは無理であろうから、一人では出来ない技だろうが、前で刀を振るう光秀にも気を配っているのか、鉄砲の長い銃身を邪魔に感じる事もなかった。
(これは、とんだ拾い物をしたかもしれません…)
光秀は内心で微笑すると、下邳城への道を急いだ。
◇◆◇
(無謀に兵を挙げたのは間違いだったのでしょうか…)
遠呂智軍への抵抗を続けながらも、陸遜の中に惑いが生じ始めていた。
空からはいつの間にか小雪が舞い落ちている。
この寒さは、呉郡の暑いくらいの気候の中で育った陸遜の身体に深刻な疲労をもたらしていた。
(…。貴方の温もりが恋しいです………)
今は遠く離れた地にいるであろう愛しい人へ思いを馳せたその時、下邳城北部からけたたましく蹄の音を響かせた馬影が、遠呂智軍を蹴散らしながら通り過ぎた。
一瞬、の声が聞こえたような気がするが、彼がこんな所にいるはずがない。とうとう幻聴まで聞こえ出したかと苦笑した。
「援軍ですか!…勝機が見えてきました!」
まだ希望の灯は消えていない。陸遜は再び、群がる敵へと意識を集中させた。
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