下邳で孤立した陸遜に、遠呂智軍が迫っている。
その情報がに伝わったのは、劉備が匿われているとの情報を得て成都へとたどり着いたその日だった。
「どうする?」
孫市が真直ぐにの目を見つめてくる。
すぐそこに迫った劉備玄徳が居るという成都城は、遠呂智軍の嘘に惑わされた真田幸村軍による攻撃に晒されている。一刻も早く救援が必要だ。
しかし、が居るべき場所はここではないと、孫市の目は語っていた。
「陸遜の元に…行く」
孫市の目をしっかりと見返して言うと、孫市は軽く頷いて自分が引いていた馬の手綱をに差し出した。
「信長の軍も陸遜の救出に向かっているらしい。秀吉は知ってるな?あいつは女癖は悪いが腕は立つ。秀吉を頼るんだ、わかったな?」
はしっかりと頷いた。秀吉は孫市の一番のダチで、も何度か顔を合わせていた。
「さあ、早く行くんだ」
孫市は素早い動作でを馬上へと押し上げ、の細い手を自分の手で包み込み、しっかりと手綱を握らせた。
「ありがとう、孫市…」
「おう、行ってこい!」
孫市はニヤリと笑うと、パンッと馬の尻を叩き、走り去る後姿を見送った。
現実の成都と下邳は、馬で走ったとしても何日かかるかわからない程の距離だったが、ここは遠呂智の作り出しためちゃくちゃな世界だ。休まず馬を走らせれば、明日の朝方には辿り着くことが出来るだろう。
「孫市殿!!」
を乗せた馬が走り去った直後、姜維が血相を変えて孫市の元へ走りよって来た。
「今、殿がどこかへ行かれたようですが、何かあったのですか!?」
「ああ、下邳で孤立している陸遜の救援に向かった」
「陸遜殿の…?」
「はここに来る前、陸遜軍で随分世話になったんだ。こんな時に悪いが、許してやってくれ」
姜維は「そうでしたか…」と言ったまま、少しの間考えを廻らせる様に斜め下を見た後、わずかに顔を上げて不安そうな表情を孫市に向けた。
「………あの、もうここには戻られないのでしょうか…?」
「ん?ああ…。多分な」
「そう…ですか」
姜維の酷く落胆した表情に、孫市は、彼もまたに惹かれていた一人であった事を知った。
「劉備を助けたら、一杯やろうぜ」
おどけた顔で片目をつぶった孫市に、姜維は力なく笑った。
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