後に残された僕とシュウさん。
僕が流れていた涙を袖で拭い、いつまでも出しておくには恥ずかしい
その絵をしまおうと立ち上がった時。

同じくソファから立ち上がったシュウさんが僕に近付いてきて
目の前に立ち塞がった。
驚いた僕がシュウさんの顔を見上げると
ものすごく澄んだ目で僕を見詰めている。


「……私は月下美人を育て、貴方は絵を描いてくれていた。
 お互いに同じ未来を夢見ながら……」

そう言って僕の頬につと右手で触れる。
一瞬ピクッとしたが、僕は触れられるままシュウさんの目を
見返した。

「6年前、貴方が私を描いてくださったスケッチを全て
 置いていった時、もう二度と私の絵を描いてくれる事は
 ないのだろうと諦めていました。」

両手で優しく僕の肩を掴み、体が僅かに触れる位置まで少しずつ
引き寄せた後、唇がくっ付きそうな位まで顔を近付ける。

「……こんなに感動したのは生まれて初めてです。
 ずっと一緒に前を向いて歩いていきましょうね。
 絵を描いてくれてありがとう……ユヅキ……」

唇が触れた瞬間、上を向いて目を閉じた僕の顔に温かいものが
ポトッと落ちる。
それがシュウさんの初めて見せる涙だと、
目を開かなくてもわかった。
この人と出会えて良かった。
今度こそ、この人とずっと一緒にいよう。
一旦止まっていたはずの涙が僕の閉じた瞼から再び零れ落ちた。

どこまでもこの人と歩いていこう。
これから先、僕達の前にどんな事が起こったとしても、
二人でいればきっと大丈夫。

……貴方が流してくれた涙に
僕、木下柚月は
葛城宗を心から愛し続ける事を誓います……


− 完 −



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