気まずい雰囲気の中黙々と歩いているうちに
美術館の少し奥まった所にあるトイレに着いた。

「あの、ここがお手洗いです。」

横にいたシュウさんに手で示すと、その手を途端に強い力で掴まれ
中に引っ張り込まれる。
いきなりの事に抵抗できないまま、僕は一番奥の個室に
押し込まれた。
何が何だかわからずに振り返ると、鍵を閉めたシュウさんが
乱暴に僕を引き寄せ、そのまま貪るように口付ける。
突然の事に驚きながらも、5日振りのその感触に僕の頭は甘く痺れ、
背伸びしながらシュウさんの首に抱きついた。


激しいキスから次第に甘く蕩ける様なキスに移り変わっていく。

「…ん……ふ……ん」

唇を優しく噛まれ、舌先で歯列をなぞられ、口中を思う存分に
嬲られる。
僕の下腹に押し付けられたシュウさんのモノが、その形が
わかる程度に存在を示していた。
その感触を感じると同時に僕の腰にも甘い痺れが走る。

「……ユヅキは誰のモノ?」

「……シュ、シュウさん…の…」

「コウなんかに触らせないで。
 コウだけじゃなく、他の誰にも触らせないで。
 ユヅキは私のだ……」

そう言って再び口付ける。
やっぱり嫉妬……してくれたんだよね?
不謹慎だけど、ちょっと嬉しい……
でも僕はシュウさんのですからね?
僕は精一杯の好きだという気持ちを込めて、キスを返した。


さすがにそんな所でそれ以上する事は出来ず、
僕達は黙って抱き合ったままお互いの体の熱が醒めるのを待ち
中山さんの待つロビーに戻った。

遅かったなぁ〜、と言いながらあまり気にしていない様子の
中山さんにホッとしながら、僕は二人を連れて、絵の説明をしながら
展示場を周った。

一つ一つの絵を大事そうに眺めるシュウさんに、何だか少し
照れ臭かったけど……

出口に着いた時には既に閉館時間を迎えており、
他のお客さんはほとんどいなくなっていた。
僕達がロビーに向かうと、そこには小野さんが待っていた。

「やあ、シュウ君、コウイチ君。」

そう笑顔で声をかける小野さんに、お久しぶりです、と二人とも
答えている。

「ユヅキ君の絵はどうだった?」

と小野さんが聞く。

「最初の頃の荒削りな感じも良かったけど、
 最近になってどんどん独自の世界を切り開いている感じがする。
 やっぱりユヅキ君の絵はいいね〜。」

と言ってくれる中山さん。
いつも率直に意見を述べてくれるので、
本当に気に入ってもらえた事がわかってありがたかった。
だから、僕は素直にありがとうございます、と答えた。

「シュウ君は?」

小野さんがシュウさんに話を振ると、少し考えた後

「まさかここまでとは……正直驚きましたね。
 大自然の雄大さとそれを支える小さい変化の数々を、
 1枚の絵にとてもうまく調和させていると思います。
 ここまでの絵をこの若さで描けるというのは他にはないでしょう。
 それだけ木下柚月という人物自体が素晴らしい人だと
 いう事なのでしょうね。」

と僕を見て微笑みながら答える。
中山さんには申し訳ないけど、他の誰に誉めてもらうよりシュウさんに
誉めてもらった事が何よりも嬉しくて、僕は満面の笑みを
シュウさんに返す。
これでやっと6年前の別れが正しかったのだと、心底納得する事が
出来た。


「ねぇシュウ君、実はとっておきの1枚があるんだけど、
 ユヅキ君がどうしても門外不出だって言い張るんだよ。
 でも実はユヅキ君に内緒で控え室に持ってきてあるんだ。
 良かったら見てみないかい?」

小野さんのその台詞に僕は一瞬固まった。

「ちょ、ちょっと小野さん!なんで持ってきてるんですかっ?
 あれは絶対ダメだって……」

「どう?」

僕の抗議には一切耳を貸さず、小野さんは更にシュウさんに尋ねた。
こういう時の小野さんてとっても強引で、
僕が何を言っても絶対聞いてくれないんだから……

「……是非」

「あ、俺も俺も〜♪ユヅキ君の新作なのかな?」

何か考えるように少し首を傾げて答えるシュウさんと
相変わらず陽気な中山さん。
でもどちらの答えも小野さんの台詞を肯定していて、僕は
がっくりしてしまった。

でも、あれだけはどこにも出すつもりがなかったのに……

そう思いながら、小野さんを睨む。
そんな僕に、まあまあ、と苦笑しながら僕の肩をポンと叩き、
さっさと控え室に向かってしまった。