カツラを付け直し、再度別人に変装したシュウさんと僕は
駅に向かって歩き始めた。

……それにしても。

僕は横を歩くシュウさんをチラチラ覗き見ながら思う。
変装するって聞いてたけど、まさかここまで違う人に見えるなんて
思わなかった。
これじゃあバレないはずだよな。
でも、どっちにしろカッコいいのは変わんないし、女性にだって
モテモテだろう。

それに比べて僕なんて……

ふぅ、と小さく溜め息をつく。
背はちっちゃいし、女顔だし、口下手だし。
その上いかにも大人な格好のシュウさんに比べて、普通のTシャツと
ハーフパンツに黒のキャップを被って、肌身離さず持っている
画材道具を入れたリュックを背負ってる。
これじゃあまるで大人と子供だ。
はぁ、と又溜め息をついた。


「さっきから何故溜め息ばかりついてるんですか?」

ふと気付くと、シュウさんが立ち止まって僕の顔を覗き込んでいた。
見慣れぬ茶色の目に見詰められて、僕は恥ずかしくなって
下を向いてしまう。

「……僕もシュウさんみたいに大人の男だったら良かったなって。」

シュウさんは目を丸くした。

「…あ、あの、僕がもうちょっと大人っぽかったら、
 少しはシュウさんと釣り合いがとれるのかな、とか」

僕がモゴモゴ言うと、まったく、と言いながらふわっと僕を抱きしめた。

「……何を考えてるのかと思えば。
 私の方こそユヅキさんに釣り合う男になれるよう、必死なんですよ?
 様々な事に触れて日々視野を広げていく貴方に、
 やっぱりこんな男は嫌だと思われたらどうしよう、とか
 こんなに才能があって可愛くて素直な貴方を誰かに取られたら
 どうしよう、とか不安だらけなんですから。」


……嘘?シュウさんが不安?

「僕はシュウさんと出会った瞬間からシュウさんだけが好きだし、
 これからもシュウさんだけですよ?
 なのに何で不安なんですか?」

僕が首を傾げて見上げると、シュウさんは苦笑しながら
僕の耳元で言った。

「……それだけユヅキに夢中って事です。
 それにしても、そんなに熱烈な告白をされたら
 この場で押し倒したくなっちゃいますよ?」

自分で自覚していなかった事を言われ、その上呼び捨てで呼ばれて、
僕は一気に耳まで赤くなってしまった。
そんな僕の頭を優しく撫でながら、まったく可愛いんだから、と
一瞬触れ合うだけのキスを落した。


個展初日。
見に来てくれる人がいるのかどうか、不安と緊張でいっぱいだった
僕の心配をよそに、10時の開館と同時に人が雪崩込んできた。

そう言えば宣伝やら何やらで小野さんが奔走してくれてたもんな。

そんな事を思いながら、小野さんに連れられて挨拶に周る。
さすがに今日ばかりは会話が苦手、とも言っていられず、
一生懸命聞かれた事に答えようと努力した。


昼過ぎ、昼食のコンビニ弁当を食べ終わって控え室でお茶を
飲んでいると、小野さんが入ってきた。

「ご苦労様。どう?疲れたかい?」

優しくそう聞く小野さんの分のお茶を入れながら

「大丈夫ですよ。僕の絵を見にわざわざ足を運んでくださっている
 方々ですし、色々質問とかしていただけると、
 逆にとても嬉しいです。」

と笑いながら答えた。実際僕はすごく充実している。
言われた言葉は誉め言葉だけではなかったが、
その分勉強になる事も沢山あった。
個展を開催している十日間、出来るだけ素直に批判も受け入れて
これからの為に役立てたいと思っている。
それをそのまま小野さんに話すと

「そこがユヅキ君の良い所だね。
 これからもその姿勢を忘れなければ、もっともっと良い絵を
 描いていけると思うよ。」

と笑って言ってくれた後、あの子もユヅキ君のそういう所に
惚れたのかな?と呟いた。

何の事だかわからずに首を傾げていたが、小野さんはそんな僕に
見てみぬ振りをして、さぁそろそろいこうか、と僕を促した。