翌日電車で東京に戻った俺達3人は、会社の近くの駅構内で昼食を
食べ、その後小野さんの家に住んでいるユヅキ君が家に帰ると
いうので、またホームまで見送りに来た。

再度電車に乗るユヅキ君をシュウは愛しそうに見ている。
ユヅキ君は俺に、じゃあまた、と言った後シュウの方を見上げ
電話待ってます、と言った。
シュウは嬉しそうに頷きユヅキ君の耳元に口を寄せると
何事か囁いた後に一瞬だけ唇で耳に触れ、サッと身を引く。
するとユヅキ君は一気に耳まで真っ赤になって、
シュウを上目遣いで睨んだ。

ユヅキ君だってもう25才なのだが、いつまでも10代の様な初々しさが
残っていて、俺が見ていても可愛いと思う。

プシューッと音がして戸が閉まり、ユヅキ君を乗せた電車が
出て行った。
その電車が見えなくなるまで見送った後、ようやくシュウは俺の方を
向き、行きましょうか、と言った。


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俺達が向かったのは本社ビル。
30階建てのビルに入っているのは全てシュウの傘下の企業で
俺の会社はその内20階から26階を占める。
最上階は中華・イタリアン・フレンチの超高級料理店が3店舗
入っており、29階は応接ルームや会長室など、28階にシュウの
社長室とソウの副社長室や秘書室、27階にグループを統合する
総務や経理などの一般の部署が占め、会議室もその階にある。

ここまでの大会社の社長であるシュウが、黒塗りの高級車ではなく
電車と徒歩で出勤というのはものすごく不自然な感じがするが
本人は一向に構う事はない。
と言うより、シュウよりも上の会長でさえ、時々電車で現れては
俺達傘下の者の度肝を抜く。
本人達は、たまには電車もいいもんだ、と言うが、
周りで安全を守る部下の大変さも少しはわかってやって欲しい。
何にしろ変わった葛城一族だ。
まぁ俺も人の事は言えず、結構電車が好きだったりするが。


駅から本社ビルまでは歩いて7分ほど。
当然のごとく俺達に気付く者は多いが、俺達が親友同士というのは
どの社員も知っている事なので、誰も不思議に思うヤツはいない。

おはようございます、と次々と挨拶をしてくる部下達におはよう、と
返す。
隣ではシュウも同じ様に挨拶を返しているが、宿にいる時と違い
すっかり社長の顔になっている。
もちろん変装済みで、長い髪をその茶色くて短いカツラの中に隠し
銀縁眼鏡をかけていた。

……こんなに取り澄ました顔をしているクセに、ユヅキ君の前では
あんなにデレデレしてるんだよな〜。

部下達がユヅキ君と一緒にいるシュウの顔を見たら
多分腰が抜けるほど驚くだろう。

そんな事を思って一人でニヤッとしながら
俺達はそのまま本社ビルに入って行った。