「……宋(ソウ)が抱いているのは『コウ』ではなく
『紘一(コウイチ)』なのだとわからせてやる。
いつも宋の傍にいて、宋を愛していて、宋を求めて
いるのは『紘一』なのだとわからせてやる。
だから……俺を抱いてくれ……」
一度離した唇で囁きながらもう一度唇を重ねると、宋は
俺の口に舌を捻じ込んで来た。
舌を絡め合いながらお互いの体に手を這わせる。
宋は俺のネクタイを放り投げてYシャツのボタンをもどかしそうに
外し、俺は宋が着ていたスーツの上着を滑り落とした後、
スルッと宋のベルトを外した。
今すぐ宋が欲しかった。
『コウ』ではなく『紘一』と呼びながら俺を抱いてほしかった。
宋が求めているのは『コウスケ』でも『コウ』でもなく、
『紘一』なのだと感じさせてほしかった。
宋が俺のYシャツのボタンを外し終わりベルトに手を掛けた
所で、その手から逃れるように立っている宋の前に膝立ちに
なった。
そしてスーツのズボンと下着を一気に引き下げ、既に反応
しかかっているモノに舌を這わせた。
宋の熱い手が俺の頭を撫でるのを感じながら、裏筋を
舐め上げていく。
俺の舌先でどんどん硬度を増してくる事が嬉しく、ソレに
手を添えながら上目遣いで宋を見上げた。
俺を見下ろしていた宋は、決して俺の先にいる誰かを見ては
いなかった。
そしてしっかりと俺の目を見返して、涙を浮かべながら
『紘一……』と呟く。
俺はくぐもった声のまま『宋……』と呼び返す。
視線を絡ませたままゆっくりと舌を這わせ、優しく手で扱いてやる。
やがて口で咥えて舌を絡ませながら何度も上下に顔を動かすと、
宋は小さく身震いして俺の頭を両手で掴み、頬に一筋の涙を
零しながら『紘一!』と確かに俺の名を呼んで、欲望の証を
吐き出した。
ドクンドクンと脈打つそれに合わせながら、ほろ苦い
白濁液を飲み干していく。
最後まで飲み干した後、その鈴口にチュッと音を立てて
キスをした。
そして相変わらず視線を絡ませたまま、
「もう俺を見失わないでくれよ〜?」
と笑って見せた。
だが本当はまた宋が俺を見失っても、それはそれでいいと
思っている。
たとえ混乱している宋が多少の間俺を見失ったとしても、
宋が本来俺自身を求めてくれているのだとわかったから。
それさえわかっていれば、俺はまた宋を自分の懐に
抱き寄せる事が出来る。
そして俺は『紘一』なのだと言って、いつでも安心させて
キスしてやれる。
焦る必要など無い。
これからは二人一緒に傷を癒す努力をしていけばいい。
足首に引っ掛かったままになっていたズボンと下着を
脱ぎ去った宋は、俺の両腕を掴みながら立ち上がらせ、
もう一度抱き締めてきた。
「紘一、俺の名を沢山呼んでくれ……
俺が混乱しそうになったら、その声で俺を呼んでくれ……
そうすれば俺は紘一を見失わずに済むから……」
顔中にキスの雨を降らせながら囁く宋の背中を抱き締め返す。
「……いつも『紘一』と呼んでくれ。
俺はいつでも『宋』と呼び返すから。
宋が混乱しそうになったら、『紘一』である俺が必ず助けてやる。
宋……昔からずっと宋だけを愛している……」
宋の傷が癒えた時、その時俺が隣にいたいと祈って来た。
見惚れるほどのあの笑顔を取り戻してほしいと祈って来た。
その祈りが届くのは、そんなに先の話じゃないだろう。
宋は『紘一』と呼びながら、その熱い手で俺の体を
撫でまわしていく。
俺は少しざらつく舌が全身を這い回るのを感じながら
10年間も我慢し続けていた喘ぎ声をあげ続け、そしてそれと
共に『宋』と呼び続けた。
澄んだ光を湛え続ける月の明かりが
互いの名を呼び合いながら激しく交わる二人の男達を
優しく照らし出していた……