初めてソウに抱かれてから1週間後の夜中。
自分のマンションでそろそろ寝ようかと服を脱ぎ始めた矢先、
突然インターホンが鳴った。
こんな夜中に一体誰だろう?と思って、インターホンに映る
カメラの画像を覗くと、そこに映っていたのはソウだった。
慌ててロックをはずし、ソウが上に来るまでの間に脱ぎかけていた
シャツを羽織りなおす。
それと同時に玄関のチャイムが鳴り、扉を開けると同時にソウが
中に滑り込んで来た。

「こ、こんな夜中にどうしたんだよ?」

思わず上擦ってしまう声を必死で抑えながら聞くと、
ソウは玄関の脇にかけてあるこの家の鍵を取り、玄関の
扉を開けて俺が出るのを待っている。
外に出ろって事か?
一体何をしたいのか全くわからないまま取りあえず靴を
引っ掛けて履き、ソウが玄関の鍵をかけているのを確認した後
そのままソウの後に付いて行った。

マンションの玄関前にはソウの車が停めてあった。
助手席に乗せられた俺は、何がなんだかわからないまま
ソウが運転する車に揺られる。
何度か話しかけたのだが声の出ないソウからは当然
答えが返ってこないし、首を縦にも横にも振る事すらしない。
仕方がなく黙っていると、そのうち車はあの事件が起きた
教授宅の近くにある、寂れた一軒のホテルに着いた。

また身代わりとして抱くつもりか……?

俺の都合も気持ちも全く考えていない勝手な行動に、頭に
来ていないと言えば嘘になる。
だから、絶対車を降りてやるものか、と思っていた。
だがいつまでも降りようとしない俺の腕を、助手席側のドアを
開けながら力強く掴んだソウの手の熱さに、初めて抱かれた
夜を思い出した。

このまま又抱かれる事を許してしまえば、俺はもう二度と
ソウの手を拒む事が出来なくなるかもしれない。

けれど、ソウが俺自身を求めているわけじゃないと充分わかって
いるつもりなのに、それでもどこかソウに抱かれる事を望んでいる
自分がいる。
……俺はマゾか?
心の中で自分を嘲笑いながら、手を引くソウに黙って従った。

部屋に入るなり、ソウは掴んでいた手を引っ張って俺を抱き寄せた。
そして耳元に、かすれた小さな声ではあったけれど、はっきりと
『ごめん』と呟いた。
声が出なかった筈なのに……
体を引いてソウの顔を覗き込もうとしたが、更に力強く
抱き締められて、それはかなわない。
その謝罪は助けてやれなかった教授に対してなのか、それとも
教授の身代わりをつとめる俺に対してなのか。
結局俺にはわからなかった。


薄暗い部屋の中を、歯がぶつかり合う程のキスを交わし、
お互いの服を脱がし合いながら奥にあるベットまで進む。
そしてソウは前回同様俺の体を抱きながら、やっと取り戻し
かけている声で何度も『コウ』と囁き続けた。

俺を呼んでいるわけではないと思いながらも、その度に
かすれたその声が俺の興奮に拍車をかける。
悔しいから出来るだけ喘ぎ声を漏らさないよう気をつけ
ながらも、ソウの熱い手で与えられる快感に鳥肌を立てる。
身代わりは嫌だと、早く俺の中から出て行って欲しいと
心の中で泣き叫びながらも、もっともっととソウを求め続ける
あさましい自分。
心がバラバラになってしまいそうだった。

けれどソウは俺の体を貪りながら、かすれた声で何度も何度も
『ごめん』と繰り返し、そして俺を抱いている間中、前回と同じ様に
全身を震わせて泣き続けている。

『ソウはあの事件後、全く取り乱すことがないのですよ。
 ですが表情一つ変えずに淡々と過ごしている姿が余計
 痛々しくて……
 どこか思い切り泣ける場所でもあれば少しは楽になるの
 でしょうが、どうも私では力不足みたいですし……』
先日シュウが溜息を吐きながら言っていた台詞を思い出した。

今のソウにとって、俺は唯一泣ける場所なのかもしれない……

ソウの心に出来てしまった闇に、こういう形ででも俺が
光を与えてやれるのならば、闇の中でもがく手を少しでも
救い上げてやりたい。
あのICUにいた時のように、もうガラス窓越しは嫌だから……

もっと泣かせてやりたくて、ソウの汗ばんだ背中に
腕をまわして引き寄せた。

俺を愛して欲しいとまでは望まない。
ただ、俺が身代わりをつとめる事でいつの日かソウの傷が
癒えた時、どんな形ででもいいから隣にいたい。
そしてまたあの笑顔を見せてほしい……

ソウの熱い楔で貫かれ、夢中で背中に爪を立てながら、
薄っぺらいカーテン越しにぼんやりと見える月に
いつかその日が訪れますようにと祈り始めていた。