玄関の鍵をしめてから寝室に行き、週末の泊まり用で置いてある
スウェットの上下に着替えてから雅史(マサシ)の着替えも
用意する。
それから居間に戻ると、案の定雅史はソファの背にもたれて
居眠りしていた。
まったく酒が弱い上に酒癖悪いんだからどうにもならないよな〜。
「ほら、雅史。
コンタクト外さないと後が大変だぞ?」
雅史の腕を肩に担いで無理やり起こし、腰を抱えながらそのまま
ズルズルと洗面所に連れて行く。
眠そうに目を擦りながらもノロノロとコンタクトを外し始めたのを
確認し、『着替え、ベッドの上だからな』と声をかけてから居間の
片付けに行った。
あいつらがほとんど片付けてくれたから、後はテーブルを拭いて
食器を洗う位なんだが。
手早くキッチンで洗い物を終え、手を拭き終わって廊下に出ると、
真っ暗な廊下に着替えもしないままの雅史が膝を抱えて座り
込んでいる。
酔っ払い過ぎて立てなくなったのか?
真っ直ぐそちらに近付くと、気配に気付いた雅史がゆっくりと
俺の方を見上げて『暁(サトル)……』と涙を浮かべながら
俺の名を呼ぶ。
何だかわからないまま雅史の前にしゃがみ、『どうした?』と
聞くと、自分の膝に顔を埋めて『悪いな……』と言った。
何だ?と思ったものの、どちらにしろこんなところじゃ
話にならない。
一旦立ち上がってキッチンも居間も電気を消し、寝室の
ダウンライトだけを点けてから雅史のところに戻った。
そして両腕を掴んで立ち上がらせ、下を向いて立っている雅史の
腰を支えながら寝室に行き、ベッドに座らせる。
俺もその左隣に座ると、相変わらず下を向いたままの雅史の顔を
覗き込みながらもう一度『どうした?』と尋ねた。
雅史は小さい声で話し出す。
「俺が教師なんかやっているせいで、俺達の関係は
誰にも言えないんだとつくづく感じたんだ。」
「……そんなの当たり前だろ?何を今更?」
俺が首を傾げながら答えると、雅史は深い溜息を吐く。
そしてギシッとスプリングの音をさせながら後ろに両手をつき、
顔を上に向けてブラインド越しの月を見上げた。
「……今日のハシモトを見て思ったんだ。
俺はあんなふうに暁に答えてやれない。
それに人目に触れるからそうそう一緒に出かけられないし、
学校でもバレないように気をつけなくちゃいけない。
俺が教師である為に、お前にはすごく負担かけてるなって。
やっぱり暁には俺なんてふさわしくないのかなって……」
そう言った雅史の目から、涙がポロリと零れてベッドに落ちる。
……まったく何を言い出すのかと思えば……
右手をベッドについて左手を雅史の首にまわしながら、
仰け反らせているその喉元を舌で舐め上げる。
「んッ……」
声を漏らしてビクッと震える体を右腕で抱き寄せ、そのまま
舌を這わせて何度も吸い上げた。
そして後ろ頭にまわした左手で顔を引き寄せて、チュッと
わざと音を立ててキスをする。
「……バ〜カ。
なに変な事気にしてんだ、この酔っ払いが。
言っておくけどな、俺はどの瞬間もわざわざその雅史を
選んで来てるんだ。
年上のクセに子供っぽくて、気が強いクセに寂しがりやで、
意地っ張りなクセに、時々滅茶苦茶素直な自分の担任をな。」
雅史が驚いた様に俺を見ながら一気に耳まで赤くなった。
「ちなみに俺は公開告白なんてゴメンだぜ?
学校一の人気教師と付き合ってるなんてバレたら、それこそ
どんな仕打ちを受けるかわからないし、ヨドカワ先生には
オオトモなんかふさわしくないと言われるのがオチだ。
だから周りにバレないようにするのは、雅史の『せい』じゃなく
俺の『為』だって考えろよ?
それにわざわざどこかに行かなくたってこうやって二人で
過ごす事はいくらでも出来るんだし、第一雅史が教師に
なってなければ、俺がお前に気付いてやれなかっただろ?
だから雅史が教師でいてくれた事を、俺は負担じゃなくて
ラッキーだと思ってるけどな?」
そこまで言うと、雅史は真っ赤になったまま震える唇を噛み
締めて、ようやく俺に抱きついてきた。
……やれやれ、相変わらず手がかかるんだから。
抱き心地のいい薄い体を右腕で抱き締めながら、左手で
後ろ頭を撫でてやる。
「……今日のステージで言ってくれた台詞、
どれもマジで嬉しかった。
ありがとな。」
抱き締めている体が小さく震え、雅史が顔を埋めている俺の
左肩が涙で濡れていく。
……まったくそんな事で不安になるなんてバカだよな〜
一日も早く雅史にふさわしい男になれるよう、俺の方が
必死なのに……
普段は強がりなクセに、実は心配性で怖がりな愛しい恋人を
強く抱き締めて、その柔らかい髪に何度も何度も口付ける。
そして肩から顔を離して潤んだ瞳で俺を見上げながら、暗に
キスを強請ってくるコイツの唇に優しくキスを落とした。
……何でこうやってたまに滅茶苦茶素直で可愛くなるかな〜
こんなんだからどんどんのめり込んで行っちまうんだよ……
明日酔いが醒めて今日の事を思い出せば、きっと照れ隠しで
いつも以上にとんでもない憎まれ口をきくんだろう。
だけどそれさえも実は楽しみにしている俺がいて、すっかり
雅史に溺れきっている自分自身に内心苦笑しつつ、その体を
そっと押し倒しながら雅史のベルトを外していった。