9月29日木曜日


今は午後の授業を潰してLHR(ロングホームルーム)が開かれている。
来月28〜30日の金・土・日曜日で開かれる『龍門祭』という学園祭の
為に、出し物の内容や担当を決めているんだ。
大学受験を控えた3年生達は大変だと思うんだけど、それでも
毎年すごい盛り上がりを見せていた。
近くに住む人達や学園を卒業した人達など、本当に沢山の人が訪れる。
近所の星稜学園という女子校の子達も遊びに来るから、みんなの
気合の入り方も全然違うしね。


それぞれのクラスの出し物は、各クラスの学園祭実行委員が
集まってあらかじめくじ引きで決めてきていた。
うちのクラスは去年同様演劇。
それも先程のクラスの多数決で『白雪姫』に決まった。
その瞬間、僕の中に嫌な予感が走る。

去年は『シンデレラ』のシンデレラ役を、足が小さいからという
理由でやらされて、化粧をされ、金髪で巻き毛のカツラをかぶせ
られた上に、フリフリの沢山ついた白いドレスを無理やり着せられた。
そして野次や口笛が飛び交う中で散々恥ずかしい思いをしたんだ。
だから今年も演劇がクラスに当たってしまったら、絶対に
裏方にまわろうと決めていたので、最初に決める事になった
大道具に『はいっ!はいっ!僕、大道具やりたいっ!』と真っ先に
立候補する。

実行委員が黒板の【大道具】と書かれた下に僕の名前を書いた。
その中『ハシモトが劇に出なくてどうするんだよ〜!』とか
『ハシモト以外の白雪姫なんて気持ち悪いだろ〜!』とか色々
ブーイングが飛びかっている。
実行委員が僕に目を向けて来るのがわかって、涙目になりながら
下を向いてふるふると首を横に振り続けた。

でも相変わらずブーイングは止まず、実行委員が先に進まない為に
困っている。
やっぱりクラスの為にはやらなきゃいけないのかな……と思い
始めた時、突然ヒビキが口を開いた。

「シノブは去年も主役をやったんだし、今年はもういいだろ?
 それにどうせ男子校なんだし、気持ち悪いのも一興だと
 俺は思うが。
 賛成する奴は?」

そう言ってヒビキは僕の後ろをチラリと見た。
その視線を追うように後ろを振り返ると、ツカサ君が手を
あげている。

それと同時に一気にブーイングが止む。
そして陰で『A組の2強』と言われているこの二人のおかげで、
しぶしぶヒビキの意見に賛同する手があがり始めた。

……良かった……

胸を撫で下ろしながら、一瞬目が合ったヒビキに『ありがと』と
小さい声で言い、ヒビキが頷き返してくれたのを見てから後ろを
振り向いてツカサ君にも『ありがと』とお礼を言う。
教室だから絶対反応が返ってこないだろうと思っていたのに、
ツカサ君はあの屋上でしか見た事がない小さな笑顔を見せてくれた。

その途端、ドキンと心臓が音をたてる。
そしてあっという間に顔に血が上って真っ赤になり、両手で
口を押さえながら、慌てて前を向き直した。
するとその僕を宥めるように、ポンポンと優しく肩を叩かれる。
だけど恥ずかしさのあまり、僕はそのまま下を向いてしまった。
その後僕の希望した大道具にヒビキもツカサ君も立候補して
くれて、その事に心から感謝しつつも、火照ったままの頬を
どうやったら抑えられるだろうかと必死で考えていた。