9月26日月曜日
ツカサ君はあれ以来2回だけ学校を休んだ。
翌日学校に出て来た時、両日とも指や顔に絆創膏をしていた
せいで、周りではやっぱり喧嘩したから休んだんだとか
相変わらず勝手な噂が立っていた。
でもそれが嘘だって僕にはすぐにわかった。
拳を鍛えている僕やヒビキだって、寸止めじゃなくリアルファイト
をすれば、5分で拳なんてズタズタだ。
だからツカサ君の手を見ただけで、殴った怪我じゃないとわかる。
怪我の原因が何なのかはわかんないけどね。
それにツカサ君は一見怖そうに見えるけど実際はとっても
優しく話してくれる人だし、ツカサ君の持っているあの安心
出来る空気は、決して喧嘩っ早い人の空気じゃない。
でも、みんな何も知らないで勝手な事ばっかり言って……と
腹立たしくなる反面、僕しか知らないツカサ君の顔を知って
いるような気がして、それが嬉しくて堪らなかったりもしている。
だから僕はツカサ君が休んだ時と雨の日以外、必ずお昼に
なる度にあの屋上に向かった。
ツカサ君もその度に小さく笑って僕を迎えてくれる。
相変わらず教室では笑ってもくれないし話もしてくれないんだ
けど、その分あの給水塔の所で二人で過ごす時間が、今の
僕にとって特別なひと時だった。
ほとんど喋ったりはしないんだけど、僕が買ったパンやおにぎりを
ツカサ君に無理やり半分ぐらい食べさせて、その後は毎日交代で
膝枕をしながら昼寝をする。
初めて膝枕をしてもらった翌日、給水塔とは反対側のコンクリートの
壁に寄りかかって座り、『今日は僕が膝枕をする!』と言い張ったんだ。
なんだか僕だけしてもらうのは不公平な感じがしたし、ツカサ君の
昼寝時間を邪魔している事は自覚してたから、少しぐらい僕も
何かしたかった。
ツカサ君は最初戸惑っていたけど、それでも頭を掴んで無理やり
僕の膝にのせると、そのまま観念したように目を閉じた。
こうやって僕達が二人で過ごすあの秘密の時間を、一体なんて
呼ぶのだろう?
そして僕達の関係は一体なんなのだろう?
ただのクラスメイト?
それとも友達?
だけど最近、一日中ツカサ君の事が頭から離れない。
後ろに座っている大きな存在感を意識して授業なんか耳に
入らないし、何かの度に目の前にあの透明な瞳がチラついて、
あの膝枕の温もりを思い出す度に胸がドキドキして。
なのに視線を逸らされたように感じるとすっごく悲しくなってしまい、
それを思い出す度に泣きそうになって胸が痛い。
誰かを好きになるのって、こういう気持ち?
誰か1人を特別だと思うのって、こういう事……?
今日は道場に電気工事が入るというので、自動的に部活も休み。
なので放課後ヒビキと一緒に2年C組に行き、サトルやカナデ達と
雑誌を見ながらお喋りしていた。
そして僕達以外に誰もいなくなった頃、C組の担任、ヨドカワ先生が
見まわりの為に教室に入ってくる。
最近ではこれが部活が休みの日のパターンだった。
「またお前達か。」
ヨドカワ先生が苦笑しながら近寄って来たので
「でも先生だってサトルと会えれば嬉しいでしょ?」
と言ったら、丸めた雑誌でパコーンとサトルに頭を叩かれた。
でも先生は
「べ、別に、お、オオトモとは毎日教室で会ってるし……」
と真っ赤になって照れながら答えたので、カナデと二人で
『先生、カワイイ〜!』とからかった。
「マサシ〜、シノブの台詞にイチイチ反応するなよ。」
とサトルが苦笑いしながら言うと、先生は赤くなったまま
口を少し尖らせて
「……お前こそ学校で名前を呼ぶなよ」
と返している。
その会話を聞きながら、溜息をつくサトル以外の3人で笑った。
この二人はいつもこんな調子なんだけど、それでも二人が
結ばれるまでの経緯を知っている僕達は、こういう場面でさえも
微笑ましいと思ってしまう。
サトルは口は悪いけど根はとってもいい人だし、先生もサトルに
憎まれ口ばかりきくわりには、サトルへの思いがわかりやすい
かわいい人だ。
この二人も、そしてヒビキとカナデの双子も、どちらも間違いなく
卒業後も続いていく関係なんだろう。
でも、僕の場合は……