9月13日火曜日
今日の昼休みも購買でおにぎり2個と牛乳を買った後、
真っ直ぐ屋上に向かった。
ヒビキ達には
『最近夜あまり眠れないから昼寝したいんだ』
と言い訳して。
何故そんな事を言ってまで屋上に行きたいのか自分でも
わかんないけど、どうしても行きたいと思ってた。
4時間目が終わると同時にツカサ君は教室を出て行ったから、
きっと今日も給水塔の所にいると思うんだけど……
そう思って鉄の扉の取っ手をまわすと、やっぱり鍵があいてる。
なんだか少し嬉しくなって、屋上に出てから給水塔の方を見上げると
やっぱりツカサ君がいた。
でも昨日と違って寝てなくて、給水塔に寄りかかりながら僕を見て
少し驚いていた。
昨日の今日で、よそよそと来てしまった自分が少し恥ずかしく
なってしまうけど、それでも僕はエヘヘと笑い返す。
そして梯子を上り、昨日と同じ、ツカサ君の足元の方に腰を下ろした。
「また来ちゃった。」
と笑う僕に、ツカサ君も昨日の様に少しだけ笑ってくれる。
それを見てホッとするのと一緒に胸がドキドキした。
……なんでこんなにドキドキするのかな?
でもツカサ君にそれがバレて変な奴だと思われても困るので、
少し赤くなってしまった顔を見られない様に下を向きながら、
おにぎりの包みをガサガサ開いて話題を探す。
「ツカサ君はいつもここでお昼を食べてたの?」
と聞く僕に、
「昼は食わないんだ。」
と答えた。
転校して来てから、それこそ数えるほどしか聞いた事がない
ツカサ君の声。
少しハスキーで、その上低くて男っぽい。
178pのヒビキの声も低いんだけど、背が高い人は声が
低いのかな?
背はちっちゃいし声も高めの僕は、とっても羨ましかった。
でも。
「ねぇツカサ君。
17歳の僕達はまだまだ成長期だよ?
だから朝・昼・晩はきちんとご飯食べなきゃ。」
そう言ってツカサ君を真っ直ぐ見ながら、自分の持っている
おにぎりを差し出した。
すると一瞬あっけに取られた様に僕を見た後
「……俺はこれ以上成長しなくていいから、その分
ハシモトが食えよ。」
と言いながらクスクスと笑った。
「あ〜っ!今僕が小さいのをバカにしたでしょっ!
でも僕はちゃんとご飯も食べてるし牛乳も飲んでるんだから、
すぐにツカサ君を追い越してみせるからねっ!」
そう言って持っていたおにぎりをパクつく僕を見て、
「楽しみにしてるよ。」
と小さく笑いながら言った。
その後遠慮するツカサ君に無理やりおにぎりを半分位食べさせた。
そして食べ終わって昨日の様に給水塔にもたれ掛かるツカサ君の
足元に、僕も昨日の様に寝転がって丸くなる。
今日はツカサ君といっぱい話せたし、何故だか嬉しさで胸も
いっぱいで、その上やっぱり安心出来るような心地いい雰囲気に
うとうととしてしまう。
するといきなり体毎ひょいと持ち上げられ、ツカサ君の
腿の部分に頭を置いて寝かされた。
……こここここれって、もしや膝枕なんじゃ……
ぶわっと顔に一気に血がのぼってしまうのを感じながら、そのまま
恐る恐る目を開ける。
すると真っ直ぐに僕を見下ろしている二つの瞳と目が合った。
それと同時に心臓が跳ね上がる。
「コンクリートよりはいいだろ?」
ツカサ君はそう言って、そのまままた給水塔に寄り掛かりながら
空を見上げた。
心臓が口から飛び出そうなほどドキドキしてはいるんだけど、
それでも僕はツカサ君の視線につられる様に空に目を向ける。
「「あ……」」
二人とも同時に声が漏れた。
そこには大きな大きな1個の雲に、小さな雲がその存在を示すかの
ようにかかっている。
まるで今の僕達みたいだ……
だけどそれ以上お互いに言葉を発する事は無かった。
ツカサ君がどう思ったのかはわからないけれど、何だか口を
開いてしまったら、今のこの大事な時間が壊れてしまう様な
気がしたから。
……大事な時間……?
何故ツカサ君と二人で過ごすこの時間が、僕にとって大事な時間
なんだろ……?
そっと空からツカサ君に視線を移すと、ツカサ君は空ではなく僕を
黙って見ていた。
その視線にまたドギマギしながらも、それに気が付かないふりを
しながらそのまま目を閉じる。
……けれど枕にしているツカサ君の脚から伝わる温もりに、心臓が
早鐘を打ち続けて眠る事など出来ず、結局ツカサ君の携帯の
アラームが鳴るまで、ずっと寝ているふりをしていた。