10月24日月曜日


ツカサは土曜日あのまま泊まっていった。
ベッドで眠る時、『僕が腕枕をする!』と言って無理やり
ツカサの頭を腕に乗せてみたんだけど、腕枕があんなに
手が痺れるものだとは思ってもみなかった。
結局20分もしないうちにく〜っと身悶えはじめた僕を、
見るに見かねたツカサが笑いながら交代してくれたん
だけど、なんだかちょっと悔しかった。
まぁでもその分時々また膝枕をしてあげようと思う。

日曜日はご飯を食べる時とトイレに行く時以外、朝から
晩までツカサの膝の上で過ごした。
ちっとも離れない僕にツカサは苦笑していたけど、それでも
時々は頭を撫でてくれたりキスをしてくれたりして、僕の
顔の筋肉は緩みっぱなし。
そして夜ご飯を食べた後、また、あの、練習をして……
その後、明日仕事が終わったら来る、と言って帰るツカサに
自分からお休みのキスをした。
ツカサとするキスって、優しくて甘くて本当に大好き。
はぁ〜、幸せ……


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今日は早起きをして、学校の玄関で双子達とサトルを待っていた。
その間いろんな人の視線を感じたりはしたんだけど、この前まで
あんなに怖かった人目が、全くと言っていいほど気にならない。
学校にツカサはいないけれど、それでもツカサと心が繋がって
いるという安心感が僕を満たしていた。
それに学校にはヒビキもカナデもサトルも先生もいるっていう
事が、更に僕の不安を消してくれている。
だからもう一度ちゃんとお礼を言おうと思った。

「おっはよ〜っ!」

そろって玄関に入って来た3人に挨拶すると、3人もそれぞれ
挨拶を返してくれる。

「あ、ヒビキ、本当に色々ありがとう。
 それからツカサは日曜日の午前中に学祭に来るから、
 それをヒビキに伝えておいてくれって言ってたよ。」

この前の電話の時、ヒビキがツカサを学祭に誘ったらしい。
空手部での僕とヒビキの時間は日曜日の11時半。
だからツカサはそれに合わせて来るって言ってたし、きっと
ヒビキもそれを思い出して気を使ってくれたんだと思う。

「あぁわかった。」

と笑って言ってくれるヒビキにもう一度お礼を言うと、
サトルが苦笑しながら僕の頭を撫でた。

「やれやれ。
 まったく先週までは青白くて今にもぶっ倒れそうな
 顔をしていたクセに、休みが空けたらまたピンク色の
 ツヤツヤした肌で戻って来やがって。」

「……だだだだって、そ、それは、ツカサが……」

何か言葉を返そうと思ったんだけど、サトルが本当に
心配してくれていたのはわかっているから、何だか急に
恥ずかしくなってしまった。

思わず赤くなって下を向くと、カナデが笑いながら
ギュッと肩を抱き締めてくれる。

「いつものシノブに戻ってくれて良かったよ。
 ミナセは本当にシノブの精神安定剤なんだね。」

カナデの言葉に『うん!』と返したら、3人に苦笑されて
しまった。
でも本当にその通りなんだもん。
だけどもちろん親友である3人も、僕の大事な大事な存在。
『ずっと心配かけてごめんね。でも本当にありがとう。』と
もう一度言って、笑ってくれた3人と一緒に教室に向かった。


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10月30日日曜日


今日は龍門祭3日目の最終日。
一昨日と昨日、そして今日の10時半と、うちのクラスの
『白雪姫』は1回ずつ上演され、どれも大盛況だった。
実は僕が大道具に決まった後、白雪姫を誰がやるかですごく
もめたんだ。
その時ざわつく教室内で誰かが『タカナシ!』と声をあげ、
『賛成!』という声もいくつか聞こえたんだけど、ヒビキが
じろっとそちらの方角を睨んだだけでその選択肢は消えた。
さすがヒビキ……と妙に感心したんだよね。

で、結局白雪姫に決まったのはヒビキよりも少し背が低く、
でも体重は2倍近くあるだろうという柔道部の人。
安い貸衣装屋さんではサイズがなくて、結局シーツで作った
ドレスにしたらしい。
でも本人は結構ノリノリで、見ている僕達も大爆笑だった。


クラスの上演が終わって後片付けをしてからヒビキと一緒に
道場に向かった。
するとまだ開いていない道場の入り口には既に黒山の人だかりが
出来ていて、僕とヒビキが目を丸くしながらそちらに近付くと
何故か拍手が起こった。
そして『シノブちゃん頑張れよ〜!』とか
『タカナシ、カッコいい所見せてくれよ〜!』とか
本当に色んな言葉が飛び交っている。
その中を少し照れながら頭を下げて通り抜けた。
僕達を見る為にこんなに集まってくれるなんて。
人目が怖いなんて思って、みんなに申し訳なかったな。
こんなに純粋に応援してくれる人達ばかりなんだから、たまたま
先輩みたいな人に当たったからといって怖がる必要なんか
なかったんだ。
ふと視線を隣にいるヒビキに向けると、『ありがたい声援には
答えなくちゃな』と笑っている。
僕も『頑張ろうね!』と笑い返して、二人で部室に向かった。