それから日記を勝手に読んでしまった事を改めて謝った後、
何故あの給水塔の場所に日記を書いていたのかを聞いた。
最初は放課後、柔道部の練習を眺めながら手持ち無沙汰で
書き出した筈が、そのうち誰も知らなくても自分がいた証拠を
何かあの学園に残しておきたいと思うようになった、と言う。
ツカサはうちの学園が結構好きだったらしい。
じゃあ他の日記はシャープだったのに最後の日だけマジック
だったのはなんで?と聞くと、僕の頬を撫でながら
『あの時にはもう学園を早く辞める覚悟が出来ていたから、
自分の決意と思いを消えない形で残したかった』
と小さく笑った。
あの文字を発見した時を思い出して胸が切なくなる。
ツカサの心の移り変わりや様々な気持ちを、勝手にだけど
日記の中で見せてもらった。
だったら僕も自分の気持ちを最初からきちんと伝えよう……
跨っている膝を一歩進めて座りなおし、シャツを掴んで
いた手をソファにもたれて座っているツカサの肩に置いて、
何回か深呼吸をした。
そして『僕の話、聞いてくれる?』と尋ねる。
ツカサは少しだけ驚いたようだったけど、そのままうんと
頷いてくれた。
ちゃんと全部話そう。
ツカサは僕の無言の言葉をしっかり理解してはくれるけど、
それでも言葉に出して伝えることも大事だ。
そしてもう一度深呼吸した後、ツカサの目を真っ直ぐ見詰め
ながら口を開く。
「……僕ね、ツカサがいる屋上に通っている日々って、すごく
安心しながら毎日を過ごしてた。
何か不安な事があっても、ツカサと一緒にいるだけで全部
それが飛んじゃったんだ。
ツカサがいるだけで守って貰っている様な気分になって、
ツカサと一緒に過ごせる時間が何より嬉しくて、そのうち
ツカサ以外の事が考えられなくなってた。
ツカサが好きだって、屋上に通う日々が終わる前にそれを
伝えたいって思ってた。
……だけど……すごく怖かったの……
ツカサはこんなにカッコいいんだから、彼女がいるかも
しれない。
それに男同士なんて気持ち悪いと思われるって、男子校に
いる間だけだって、卒業したら忘れられるって……」
どうしても唇が震えてしまって、時々下唇を噛み締めながら話す
僕に、ツカサはうんうんと頷きながら聞いてくれている。
「……だけどあんな事があって僕のせいでツカサが
いなくなって、途端に不安や恐怖が襲い掛かってきた。
人の目が怖いって思ったの、初めてだった。
毎晩眠れなくて不安で心細くて……
その時になって、ようやくどれだけツカサの存在が
僕を守ってくれていたのか実感したんだ。
でもそれに気付いた時にはもうツカサはいなくて、
そしてそうさせてしまったのは僕で、謝る事も
お礼を言う事も出来なくて……」
いつの間にか勝手に涙が溢れ出ていて、ツカサは両手で
それを拭ってくれてから、嗚咽が漏れるのを必死で堪えて
いる僕の背中を優しく撫でてくれた。
「……だけど…だけど……ツカサが……大好きで……
会いたくて……好きだって言いたくて……」
肩に置いていた手を首にまわしてギュウっと抱きついた。
あの辛かった時を思い出して思わず溢れ出てしまった思いを
涙に託し、ツカサの肩に顔を埋めて泣き続ける。
ツカサは黙ったまま僕の背中を強く抱き締め返してくれていた。
****************
今までの自分の気持ちを全部話し、ツカサに強く抱き締められて、
安心出来る腕の中でいっぱい泣いて、今までの不安や恐怖が
綺麗に流れ去っていくのを感じた。
だけど、それと同時にツカサを好きだと思う気持ちが溢れ
出てきて止まらない。
「……ツカサが好き……ツカサが大好き……」
ギュウゥと抱きついて言うと、ツカサが僕の体を強引に離し、
大きな手で僕の両頬を挟んでキスをして来た。
だけどただ唇を合わせるだけじゃなく、ツカサの舌が僕の唇を
割って歯列をなぞり、そのまま口中に入って来る。
決して強引ではないのだけど、でも抗うことが出来ないその
動きを必死で受け止めていた。
少しの間そうやって舌先を触れ合ったりした後ゆっくり
唇を離されたので、それが急に寂しくなってしまう。
「……お願い……もっといっぱいツカサを感じたい……」
涙目のままその瞳を見詰めると、ツカサはすごく困った顔をした。
「……俺は決して出来た人間じゃない。
だから昨日から何度も言うように自分を抑えられなくなる。
シノブにそんな台詞を言われたら、自制心なんか簡単に
吹っ飛ぶんだ。
……頼むからこれ以上煽らないでくれ。」
……でも僕はまたさっきみたいなキスがしたい。
それにもっともっとツカサに触れたいし触れて欲しい。
ツカサとなら……きっと怖くない。
ツカサなら……あの気持ち悪い先輩の感触を忘れさせてくれる……
僕の両頬から手を離し、またソファにもたれかかるツカサの顔を
追う様にして、そっとその唇を舌で舐めた。
驚いた様にピクッとする様子に怯む事無く、そのままさっき
ツカサがやったように唇の間に舌を割り込ませる。
そしてその更に奥にいるツカサの舌に、自分から舌を絡ませた。
くちゅっという水音が響いて、自分でもすごく恥ずかしくて
顔に血が上ってくるけれど、それでも僕はそれを打ち消すように
がむしゃらに舌を絡める。
だけどあまり反応を返してくれないツカサにどんどん心配に
なって来るし、これ以上どうしたらいいんだかわかんない。
でも、もっともっとツカサに触れたい……
するといきなりソファにもたれていた背を起こして、
大きな右手で僕の後ろ頭を抑えながら舌を絡め始めた。
僕の舌を自分の舌で押し戻し、口中を激しく蹂躙する。
「……んんっ……」
突然返って来た激しい反応にどうしたら良いのかわからなく
なって、必死でそれに応えようとするのにうまくいかない。
ただツカサに翻弄されるまま合間に勝手に声が漏れて、
口端から飲み込みきれない唾液が零れる。
その上ツカサの左手がパーカーの上から何度も僕の胸を擦り、
突起を掠める度にビクッと甘い感覚が突き抜けた。
「……ぁ……あッ……!」
唇を離して仰け反りそうになるのに、後ろ頭を抑えている
大きな手がそれを許してくれない。
そしてそのまま僕の耳に舌を這わせる。
「……煽るなって言っただろう?
シノブ……もう止められない。
でも、出来るだけ優しくするから。
だから怖くなったらすぐに言ってくれ……」
ただでさえハスキーで低い声が更に低くなっている。
その声にゾクゾクして、思わず鳥肌が立った。
うんうん、と必死で頷き返し、『ベッドは?』と言うツカサに
自分の部屋を指差す。
するとツカサは首に僕を抱きつかせたまま立ち上がった。
首にギュッとしがみついて、両足を腰に絡ませる。
そして落ちないようにしっかり支えてくれながら僕の部屋に
向かうツカサの首に、何度も何度もキスをした。