先生の『終わり!』の声にあわせて、ホッと息を吐きながら
シャープを置いた。
それと同時に大きな手で肩をポンポンと叩かれて、ツカサ君が自分の
テストを下向きにしてまわして来る。一瞬その手をジッと見た後、
僕も自分のテストをその上に重ねて前へまわした。

前から思っていたんだけど、ツカサ君はきっと柔道をやっているか
過去にやっていたのだと思う。
体型はそんなにごついわけじゃないからパッと見はあまりわからない
けど、手の第一関節の部分がつぶれた様に大きく腫れているから。
空手をやっている僕やヒビキの場合、拳たこがあるのが特徴だったり
するんだけど、ツカサ君の手は柔道をやっていた人の特徴だ。
ツカサ君があの大きい体で戦っている姿は、きっとほれぼれする位
カッコいいんだろうな〜……
そんな事を考えていた時授業終了の鐘がなる。

今は4時間目の授業だったので、これから昼休み。
『お腹減った〜』と両手を上にあげながら伸びをしてふと後ろを見ると、
一瞬ツカサ君と目が合ったものの、そのまま立ち上がってどこかへ
行ってしまう。
ツカサ君は昼休み、いつも一人で教室を出て行ってしまい、5時間目の
始業時間ギリギリに戻って来るんだ。
転校して来たばかりの頃一緒にお昼を食べようと誘ったんだけど、
『昼寝するから』と断られ、結局はそのまま。


「シノブ〜、誰に見惚れてるんだよ?」

声をかけて来たのはいつもここで一緒にお昼を食べる、C組のサトル。
同じくC組の高梨奏(タカナシカナデ)もサトルの隣で僕を見ていた。

「えっ?!ううん、別に誰にも見惚れてなんか……」

いつの間にか、教室を出て行くツカサ君の大きな背中を見て
いた事に自分で気が付き、慌てて赤くなりながら否定する。

「いよいよお子ちゃまシノブにも春が到来か〜?」

「ちょっとサトル!僕はお子ちゃまじゃないもん!
 何だよ、自分に恋人が出来たからって偉そうに!」

「悔しかったらシノブも恋人作れば良いだろ?
 ……まぁ無理か。あんなに色んな奴に連日告白されても
 『今は空手にしか興味ないです』って断るお子ちゃまじゃあな〜」

「だってしょうがないでしょ?!
 本当に空手以外に興味ないんだから!」

「それはどうだかな〜」

「ちょっとちょっと。サトルもシノブもいい加減にしなよ。
 みんな見てるよ?」

言い合いをする僕達を苦笑しながら止めたのはカナデ。
僕の親友でありカナデの双子の弟でもある高梨響(タカナシヒビキ)も
飽きれた様に笑いながら僕達を見ていて、ついでにクラスのみんなも
遠巻きに見て笑っている。
急激に恥ずかしくなって真っ赤になりながら勢い良く立ち上がると、
『パン買ってくるっ!』と言いながら教室を飛び出した。


サトルのばか〜〜〜っ!!
おかげでクラスのみんなの前で恥をかいたじゃないかっ!!

ずんずん歩いて人ごみを掻き分けながら購買でいつものパン2つと
牛乳を買うと、またずんずん歩きながら教室に向かう。
そこではたと立ち止まった。

今教室に戻ったら、またみんなの注目を浴びちゃう……

がっくりと肩を落としながら、やっぱりそれは嫌だと思ったので
どこかいい場所がないかと考える。

……こういう時はやっぱり屋上でしょ。

屋上は元々出入り禁止なんだけど、英語準備室の脇にある階段から
あがった先にある扉は、結構簡単に鍵をあけられると前にサトルから
聞いた事があった。

よし。
今日はそこに行ってみよう。

そう思ってパンの入った袋を持ち直し、僕は真っ直ぐ屋上に向かった。