僕を見上げていたのは、見慣れた学ランではなく見慣れない
厚手のジップアップジャージを着て、ポケットに手を突っ込み、
チェーンや何かをいっぱい下げた大き目のジーンズを腰の低い
位置で穿いている人。
でもやっぱりあちこちに立ち上がっている髪で、あの透明な瞳……

「……ホントに……?
 ホントにツカサ……君?」

あまりにも突然の事で頭がついていかない。
ツカサ君は僕の目を見上げながら小さく笑って頷いた。
そして両手をポケットから出し、そのまま僕に向かって
大きな両腕を広げる。

「来い、シノブ」

その言葉を聞いた瞬間、僕はこぼれる涙を振り払いながら
駆け出し、コンクリートの台座の上からツカサ君に向かって
飛んだ。

ドサッという音と共に首にしがみついた僕をツカサ君は
しっかりと抱きとめて、宙に浮いている僕の体を落ちない
ようにギュッと抱き締めてくれている。
そして『不安にさせてごめんな。』と優しく言ってくれた。
その言葉に必死で首を横に振りながら、声をあげて泣いた。


ずっとずっと求めていた温もり……
あんなに僕にまとわりついていた恐怖や不安が、やっぱりこの
大きな腕の中ではあっという間に消えていく……


ツカサ君に会ったら絶対『好き』って言おうと思ってた。
ツカサ君が好きで好きで堪らなかった事を伝えたかった。
だから何度も口にしようとするんだけど、それを言おうと
する度に嗚咽に代わってしまって言葉にならない。
たった『好き』っていう2文字を伝える事が、こんなに
大変だったなんて……

……でも、今言わなくちゃ。
自分の気持ちを伝えなかった事で後悔するのはもうたくさん。


ツカサ君がゆっくり僕の体を地面に下ろしてくれたんだけど、
それでも僕は首にしがみついていた腕を放さずに、途切れ
途切れになりながらも懸命に言葉を伝えた。

「……好…き……ツ…カサ…く…ん……が…好……き……っ!」

言い終わった途端少し体を離され、右手の人差し指で顔を上に
向けさせられる。
僕はひっくひっくとしゃくりあげながら、その透明な瞳を真っ直ぐに
見上げた。
ツカサ君は僕を見下ろしながら小さく笑い、『わかってたよ』と
囁いてゆっくり顔を近付けて来る。
その言葉に目を丸くしながらも、ちゃんと僕の気持ちを理解して
くれていた事にすごく感動して胸が熱くなった。
そして僕はそのまま震えるまぶたを閉じる。
涙がポロポロと目尻から零れ落ちて行った。
僕の……生まれて初めてのキス。

息を止めていた僕が途中苦しくなってしまうと、ツカサ君は
少しだけ唇を離し『鼻で息をしろ』と囁いて、また口付けてきた。
今度は強く長く唇を合わせるキス。
僕の全部を受けとめてくれるキス……


ようやく唇を離したツカサ君は、額同士を合わせながら
僕の目を覗き込み、

「シノブ、俺の名前から『君』は取れないのか?」

と聞いてくる。
その透明な瞳の奥にはからかいも願いも浮かんでいる。
恥ずかしがらずに、ちゃんとこうやって見ていればわかったんだ。
ちゃんとこうやって見ていれば、無言の言葉も全て伝わって
来たんだ。
そしてこの透明な瞳は、僕が無言で伝えていた『好き』という
言葉を、ちゃんと読み取ってくれていたんだ……

首に抱き付いたままの腕に更に力を込めてしがみつく。
すると背中にまわされた両腕に少し力がこめられた。
僕はその温かい腕の中で、心の底からの安心感に浸りながら

「大好き……ツカサ」

と囁いた。