「今日はわざわざ来て頂いてありがとうございました。」
先程より近付いたせいで、ミスズちゃんの声がよく聞こえる。
「……相談って何だ?」
ヒビキが静かに言った。
相談?ミスズちゃんがヒビキに相談って何だ?
「私、カナデさんの事でちょっと困っている事があるんです。
あ、これは絶対カナデさんに言わないでくださいね?
怒られちゃうから……」
なに?と返すヒビキ。
「実は……元々付き合おうと言って来たのはカナデさんの
方なんです。
図書館で見かけるうちに好きになったって。
私もカナデさんの事は良い方だと思っていましたし、
お付き合いをしている方もいなかったので、了承しました。
でもそのうち、最近ちょっと忙しいから少しだけ期間を置いて、
それからまた付き合おうって言われて。
それで今またお付き合いを始めたんですけど……」
…………はっ?!
「カナデさんももちろん私の事が好きなんだけど、
周りが色々うるさいしメンツもあるから、
最初は私が一方的に好きでいる事にしてくれって言われたんです。
そうしたらその内ちゃんと周りに話して、付き合ってる事に
するからって。」
……何の話だ?
「……それで?」
と聞くヒビキに、ミスズちゃんが更に話を続ける。
「でも、いつまでたってもちゃんとしてくれなくて、
私はそんなふりをするのはもう嫌だって言ったんです。
そしたら……」
そこまで話してミスズちゃんは泣き出した。
「……急にカナデさんに襲われたんです……」
……誰が誰を襲ったって?
俺が?ミスズちゃんを?
「……いつ?」
ヒビキの声がムッとしている。
「一昨日です。私もカナデさんの事が好きなので
嫌ではなかったんです。
でも、それならそれで、周りにちゃんと認めてもらいたくて。
だからヒビキさんからカナデさんに、きちんと付き合えって
言って欲しいんです。
でもこの話をした事がカナデさんにわかっちゃったら、
私怒られちゃうから……
だからそれとなく言ってもらえませんか?」
ヒビキは黙っている。
ヒビキ、そんな嘘を信じないで!
俺は、そんなのでたらめだ!と飛び出そうとした。
その瞬間後ろから口を抑えられる。
いきなりの事に驚いて俺がジタバタもがこうとすると、
今度は別の手が俺の足を抑える。
チラリと目だけで振り返ると、頭も性格も悪そうな、
空手着を着た男達3人が俺を抑えてニヤニヤしていた。
……こいつ等見た事がある。確かヒビキと同じ中学で、部活も
同じだった奴等だ。
一緒に暮らす前、ヒビキの様子を見に行ってた時に、
ヒビキにやられているのを何度か見た事がある……
ヒビキ!と叫びたいのに声にならない。
動こうにも男3人に体を羽交い絞めにされていて、全く動けない。
すぐそこにいるのに。
この壁を曲がった数メートルしか離れていない距離に
ヒビキがいるのに。
俺の口を抑えている奴が目だけをヒビキ達の方に向け、
さっきから面白そうな事やってるじゃねぇか、と呟いた。
そして
「お前タカナシの双子の片割れだろ?
こんな所で弟の逢引きを覗き見か?」
と小声で俺に囁いて、鼻でフンと笑った後
「まぁ丁度いい。この状況を利用させてもらうぞ。」
と言って他の二人と目で頷き合い、俺は一人に口を抑えられ、
残りの二人に片腕ずつを捕まえられたままヒビキのいる方に
連れて行かれた。