俺はミスズちゃんから見えないよう、二つ後ろの車両に乗った。

……一体何なんだ?!

だんだん腹が立ってきた。
気が弱いから、なかなか俺の事を友達に言い出せないと思って
俺は我慢してたんだ。
だけど今の様子を見たら全然違うじゃないか。
両脇の男と腕を組んで、一見して女物だとわかるカバンを
もう一人に持たせている。
あのおとなしくて気が弱そうな様子は何だったんだろう?
そのおかげで俺はヒビキと気まずくなったって言うのに……


体育館のある駅に電車が着き、扉が開くと同時に降りる。
するとミスズちゃん達も降りるのが見えた。
この駅の周辺には最近新しく出来たお店とかが結構あって、
俺達みたいな若い奴等がよく利用する。
だからきっとそっちの方に行くんだろう。

もし明日また朝来たら、はっきり言ってやる。
ミスズちゃんが言えないなら、俺が友達に全部嘘だったって言うって。
ホントはもっと早くにそうするべきだったんだ。
ごめんな、ヒビキ……


体育館に向かって歩いていると、何故かミスズちゃん達も
同じ方向を歩いている。
俺はそれより100m位後ろを歩きながら、体育館を目指した。

体育館の近くに来ると、続々と人が入っていくのが見えた。
とは言っても今日はあくまでも練習試合。
近隣の7校が集まって、トーナメント式に団体組手と個人戦を行う。
シノブは団体に、ヒビキは両方に出場する。
1年部員だけで26人もいるのに、その中で出場できるのはヒビキと
シノブの二人だけ。
それってホントにすごい事だと思う。

前を歩いていたミスズちゃんが体育館の手前で自分のカバンを
受け取ると、男達と手を振って別れた。
男達はそのまま体育館に入って行ったが、ミスズちゃんは体育館の
裏に向かって行った。
そんな所に何の用なんだろう?
俺はなんとなく興味を引かれて、見つからないようにそっと
後をつけてみる事にした。

ミスズちゃんは体育館の西口を越し、角を曲がって裏口も越すと、
設置してある公衆トイレの前で左右を見渡してから中に入った。

……何だ、トイレか。

阿呆臭くなって体育館に行こうとした時、トイレからミスズちゃんが
出てくる。
その時俺は本気で驚いた。

先程とは全然違う、フリルのついた淡いピンクのカーディガンを着て、
その下に白い膝下のスカートを穿いている。
真っ赤に塗られていた口紅も、ラメの入ったつやつやの
グロスに変わっている。
確かにこっちの方がミスズちゃんのイメージだったけど……
でもこんな所で着替えなんかして何か意味があるんだろうか?

何だか良くわからないまま首を傾げていると、
ミスズちゃんはトイレよりも俺の方に近い、体育館の裏口の前に
立った。
俺は見つからないように壁にピッタリと張り付いて、少しだけ
顔を覗かせる。

すると俺とは反対側から近付いて来た奴に、
俺の前にいる時と同じ様な態度で、恥ずかしげに手を振っている。
そしてそいつは俺が見間違うはずがない、俺と同じ顔のヒビキだった。

何で?
何でヒビキがミスズちゃんとこんな所で会ってるんだ?
もしかしてヒビキは俺に隠れてミスズちゃんと会う為に、
今日俺に来るなって行ったのか?

ホントに何が何だかわからない。
俺は目の前の光景を、ただ呆然と見ているしか出来なかった。