試合当日。
取りあえず3人には試合に行かないと言った。
でも本当に行かないつもりなんかない。
俺は試合をしているヒビキが何よりも好きだった。
だから、理由もわからないままただ来るなと言われても、
やっぱり納得なんか出来ない。
バレたら怒られるかもしれない。
でも、それでも俺はヒビキの姿を少しでも見たかった。


朝ヒビキが出かける準備をしている音をベットの中で聞く。
ヒビキが出るのと同時に俺も準備をしようと思ったから。
するとしばらくして音が止まり、あれ?と思っていたら俺の部屋の
戸が開いた。

……どうしよ。

別におはようと挨拶すればいいんだけど、
あれ以来ヒビキと口をきいてなかったので何となく気まずい。
だから俺は慌てて寝たふりをした。
ヒビキが枕元まで近付いて来る。
俺はドキドキしながら目を閉じていた。

サラッとヒビキが俺の髪を梳くように撫でる。
何度も何度も。
久々のその温かい手の感触に、心臓がドキドキし始める。

「……カナデ、愛してる……」

と小さく言って、横向きに寝ていた俺の耳にそっとキスをした。
ヒビキが部屋を出て行く音を聞きながら、
瞼の裏が熱くなるのを止められなかった。

玄関が閉まる音がすると同時に飛び起きた。
母さんはいつも通り週末は父さんの所に行っているので、
今は俺一人。
バタバタとシャワーに入って準備をする。
今は9時だから試合までまだ時間がある。
だから急ぐ必要はないんだけど、出来るだけ早く行って、
誰にも見つからずに見学できる場所を見つけておきたかった。

俺はVネックの黒いTシャツに細身のジーンズを穿く。
それに黒のキャップを被ってラバーのブレスレットをした。
アバ○ロのこのブレスレットは、
ヒビキと俺が付き合い始めた記念にお揃いで買った物。

母さんには、この歳で双子がお揃いにしなくても、と笑われたけど、
俺はそれだけでもヒビキと繋がっている様で嬉しかったんだ。

ポケットに財布と鍵を突っ込み、携帯を取り出した俺は
『試合頑張れ!』とヒビキにメールを送った。
本当は直接『アイシテル』と言いたかったのに……


駅に着き、ホームのベンチに座って次の電車を待つ。
日曜という事もあって周りにはカップルが結構いた。
なんとなくそれを眺めていると、見た事がある人物がいる。
2、3人の男達と楽しそうに話をしているのは、ミスズちゃんだった。

顔が見えないようにキャップで顔を隠しながら、そちらを
チラッと覗いて見る。
真っ赤な口紅を塗り、襟刳りが思い切り開いたレースの
キャミソールを着て、今にもパンツが見えそうな位短いデニムの
ミニスカートを穿いている。

まぁ別にどんな服を着ていようがいいんだけど、
俺の前ではいつも恥ずかしそうに下を向いていて、
何かっていうとすぐ涙ぐんじゃう様な純情なイメージだったから、
ちょっと意外だった。
その上一緒にいる男達にしな垂れかかったりしている。
あまりにもイメージと違うその行動に、俺は目をパチクリするだけ
だった。