その日からヒビキの帰りはいつもよりずっと遅くなった。
夜ご飯はシノブと食べてきたからと言って食べないし、
帰ってきたら風呂に入って自分の部屋に戻ってしまう。
話しかけても、疲れてるから、と言われれば俺はそれ以上何も
言えなかった。
確かに試合まで後1週間だし、沢山練習しなきゃいけないんだろう。
体壊さなきゃいいけど……
あれ以来全くヒビキと会話する事が出来なかった。
昼休みもシノブとサトルの馬鹿話をただ聞いているだけ。
話したくて話したくて仕方がなかったけど、試合前にこれ以上
無理させられない。
だから、せめて体だけは壊さないように、
栄養のバランスを考えて毎日弁当を作った。
相変わらず朝はミスズちゃんが玄関前に立っている。
遠まわしに迷惑だと言っても、ちゃんと友達に話せるまで
お願いします、と言われるし、じゃあいつになったら話すの?と
聞けば、涙を浮かべて、ごめんなさい、と言う。
学校では、毎日校門まで来るミスズちゃんと俺が
すっかり付き合っているという噂になってるし
ミスズちゃんは周りの奴らにからかわれて顔を赤くしながらも
付き合っている事を否定しない。
この前なんて、映画のチケットがあるから今度の日曜一緒に
行きませんか?と聞かれ、ヒビキの試合を見に行くから、と断った。
俺が迷惑がっている事に気が付いているだろうに、
何故いつまでも付き合っていない事をはっきりさせずに、
その上休みの日に誘ったりするのだろう。
俺はもうどうしたらいいかわからなかった。
ヒビキ達の試合まで後3日。
昼休みに弁当を食べながら、俺とサトルは何時に待ち合わせを
するか打ち合わせをしていた。
試合は今度の日曜に、電車で2駅行った市の体育館で行われる。
俺はもちろんヒビキを見に行く為だけど、
サトルはシノブが試合に勝つかどうかで購買のパンをかけたらしい。
ヒビキとシノブは準備があるので朝から行くそうだけど、試合自体は
13時からなので、11時半に駅前で待ち合わせしようという事に
なった。
するとそれまで黙っていたヒビキが
「……カナデは来るな。」
と言った。一瞬何を言われたかわからなくて、え?と聞き返す。
「今回の試合に、カナデは絶対来たらだめだ。」
「え?何でっ?何で俺は行ったらダメなのっ?!」
そう聞く俺の言葉を無視して、ヒビキは教室を出て行ってしまった。
どうして?今まで試合を見に行かなかった事なんて
一度もなかったのに。
ヒビキはそんなに俺の事が嫌いになったの?
呆然としている俺にシノブが言う。
「カナデ、あのさ、今回は僕も行かない方がいいと思う。」
「何で二人してそんな事言うんだよっ!」
するとシノブは言い辛そうに言った。
「……今は言えないけど、ちょっと理由があるんだ。
だからヒビキの言う事聞いてあげて?」
「何で言えないんだよっ?!
理由も聞かないで納得できる訳ないだろっ?!」
すっかり困ってしまったシノブを見て、サトルが助け舟を出した。
「おいカナデ、ちょっと落ち着けって。
タカナシやシノブが言っているのにも訳があるっていうんだからさ。」
……訳なんてどうでもいい。俺はヒビキに拒否された事が
何より辛かった……