朝玄関を出た瞬間、俺は思い切り溜息をついた。
門の所に昨日の女の子達5人が立っていたから。
でも、悪いけど今誰とも話をしたい気分じゃない。
だから何も言わず、一番端をすり抜けようとした。すると

「仲直りしたならやっぱり一緒に登校ですよね〜。」

とあの気の強そうな子が言った。

……何が仲直りだ。おかげで俺はヒビキと気まずいのに……

「じゃ、私達は先に行くからね。ミスズ、頑張って。」

と無責任に言い放って、4人は先に歩いて行った。
残されたのは一人下を向くミスズちゃん。
俺は溜息をつきながら

「どうせ同じ方向でしょ?」

と言って歩き始めた。
するとミスズちゃんは嬉しそうに頷いて俺の後をついて来る。
校門まで来た時

「……悪いけど一日も早くちゃんとみんなに言ってね?
 俺も困るからさ。」

と言うと、うん、と頷きながら目に涙をいっぱい溜めた。
それを見ていた周りの奴らから

「高梨兄が朝っぱらから女の子泣かしてるぞ〜」

可哀想だろ〜、とか周りから勝手に野次が飛んでいる。
その中、真っ赤になって恥ずかしそうにするミスズちゃんに、
じゃあね、と言って、野次は無視して校舎に向かう。
その光景を、ヒビキとシノブが教室の窓から見ていた事も
知らずに……


「カナデ、お前女の子と噂になってるぞ?」

2時間目の授業後、サトルが俺の所に来た。
さすがにそういう噂は広まるのが早い。
この噂をヒビキが聞いたらどう思うんだろう?
俺はそう思いながら、サトルに事の次第とヒビキとの間にあった事を
全て話した。

「……だからタカナシには早く話せって言ったんだよ。」

と言うサトルに、俺は下を向いた。

「まぁなんにせよ、
 その子が早く友達とやらに言ってくれない事には
 どうにもならないな。
 それからタカナシの方は家で一緒にいる時間もあるんだし、
 なんとか仲直りするしかないだろ?
 俺で協力出来るならするし、きっとシノブもそう言うよ。」

俺は黙って頷く。ホントにヒビキと仲直りしなきゃ。
サトルにありがとう、と言った時、次の授業が始まる鐘が鳴った。


昼休み、いつも通りに作った二人分の弁当を持ってサトルとA組に
行った。
無言で俺から弁当箱を受け取ったヒビキは、一切俺の方を見ようとも
しない。
いつもは元気なシノブも、何やら考え込んでいる。
俺達4人は黙々と弁当を食べ続けた。
丁度みんな食べ終わる時になって、何か考え事をしていた
シノブが口を開く。

「ねぇカナデ、カナデと噂になってる女の子、何ていう名前?」

やっぱりシノブにまで伝わっていたんだ……

「何だ?何かあるのか?」

と聞くサトルにシノブは誤魔化すように、ちょっとね、と言った。
俺は一瞬ヒビキの顔を見たが、機嫌悪そうに前を見ているだけだ。

「確か紫野井美鈴(シノイミスズ)だと思う。」

「珍しい苗字だな。」

と言うサトルに、だから一度しか聞いてない俺も覚えてるんだ、と
返した。

「シノイって、ムラサキに野原のノに井戸のイ?」

うん、と頷く俺に

「……そっか……ま、気にしないで♪」

とシノブが言い、丁度昼休み終了時刻になったので俺とサトルは
教室に戻った。