「ごめんなさいっ!」

女の子達がいなくなると同時にミスズちゃんは泣きながら俺に頭を
下げた。

「あの、以前高梨さんと一緒に帰っていた所を友達に見られてて、
 彼氏なの?って聞かれて、思わず、うんって言っちゃったんです。」

頭を下げたまま話すミスズちゃんがちょっと気の毒になって、
取りあえず座ろう、と中庭のベンチまで連れて行って座らせた。
ミスズちゃんはハンカチで涙を拭きながら話を続ける。

「すぐに嘘だって言おうと思ったんですけど、
 もうその時にはみんなに広まってて……」

引くに引けなくなったって訳か。
まあさっきみたいに気の強い子が相手なら、
なかなか言い出せないのもわからないでもない。
でも。

「ミスズちゃんと俺が付き合ってる事になっているのはわかった。
 でも何であの子達が俺の所に来なきゃいけないの?」

ミスズちゃんは更に背中を丸めて小さい声で話し出す。

「……最近一緒にいるのを見かけないからどうしたのか?って
 聞かれたんです。
 だからケンカしたって言っちゃって」

そこで止まってしまった。
でも恋人同士(あくまでも話上だけど)のケンカに、
そこまで友人がしゃしゃり出て来るものだろうか?
そう聞くと

「ケンカの原因は何って問い詰められて、
 あの、高梨さんが、えっと、浮気したって…………
 ホントにホントにごめんなさい!」

俺はさすがに開いた口が塞がらなかった。


その後ミスズちゃんから聞いた話によると、
その話に怒った友人達が、少し俺を懲らしめる為に
毎日手紙を俺の下駄箱に入れていたのだそうだ。
何度も止めさせようとしたのだがうまくいかず、
結局今日こうやって話をしに来るまでになってしまったらしい。

まぁあの手紙が何だったのかはわかったから、それはそれで
良かったけど。
それにしてもさすがに今のままじゃまずいだろ?
はぁ〜、と思い切り溜息をついた。

するとミスズちゃんが

「本当にすいませんでした!
 でも必ずみんなにちゃんと話をしますから!約束します!
 だから、もう少しの間だけ付き合ってる事にしてもらえませんか?
 仲直りしたって言えば手紙も止めてくれると思いますし……」

と必死でお願いしてくる。
確かに浮気話までしちゃった後では、
今更付き合ってた事自体が嘘だと言っても信じてもらえないんだろう。

「わかったよ。でもその代わりちゃんと別れたって言うんだよ?」

ミスズちゃんは何度も何度も俺に頭を下げて、図書館に
入って行った。
元々嘘をつくような子には見えないし、
きっとしょうがなかったんだろう。
でもこんな事ヒビキにバレたら大変だな。


やれやれ、と思いながらベンチから腰をあげてふと道場を見ると、
そこには怒ったようにこちらを睨んでいるヒビキの目があった。

…………ヤバイ…………