放課後ヒビキとシノブを空手部の部室まで見送り、
俺と同じく帰宅部のサトルと帰ろうと下駄箱を開けた。
ヒラリ、と封筒のような物が落ちる。
何だろう?と思って拾い上げた。
ヒビキはしょっちゅうラブレターって貰ってるけど(俺が捨てちゃう
けどね)俺は高校に入ってからほとんど貰った事が無い。
何の模様も入っていない、真っ白な四角い封筒。裏返してみても
名前は無かった。
ビリビリと上の方を破って開けてみる。中には1枚の真っ白い紙。
『裏切り者!』と紙の真ん中に真っ赤な文字で書かれていた。
「お?ラブレターか?誰誰?オンナ?それともオトコ?」
と覗き込んできたサトルが
「……何だ、コレ?」
と言って俺の手から取り上げる。
俺が、さあ?と首を傾げていると、サトルはそれを破って近くに
あったゴミ箱に捨ててしまった。
「何だかわからんけど、こんな物に構う必要はないぞ。気にすんな。」
と俺の肩をポンポンと叩いて笑った。
まぁそれもそうだ、と俺も笑い返してその日は帰った。
でも、翌日からその手紙は毎日続いた。
最初は気にしなかった俺も、さすがに連日『嘘吐き』だの『人でなし』
だの書かれ続ければ、自分が何かしたのかと不安になる。
だけど、いくら振り返っても誰かに嘘をついた記憶も誰かを裏切った
記憶も無い。
ヒビキには心配かけたくないのでサトルに口止めしているけど、
サトルはいい加減タカナシには話せって言う。
でもヒビキは1ヵ月後に空手の試合が控えているので、こんな事で
煩わせず、自分で何とか解決したかった。
その日、今日も来ていた手紙を溜息をつきながら破ってゴミ箱に
捨て、いつも通りサトルと帰ろうと校門を出ると、星稜学園の女の子達
5人に行く手を阻まれた。
星稜学園とはうちの学校から歩いて5分の距離にある女子校だ。
前に立つ4人の後ろに隠れているのは、
以前俺が一緒に帰ったりしていた子だった。
「すいません、高梨さんにお話があるんですけど。」
女の子の内の気の強そうな1人が言う。
サトルは気を利かせてくれたのか、俺先帰ってるわ、と言って
行ってしまった。
俺は何だか怒ったように睨んでいる一番前の子に、何?と聞いた。
「ここじゃ人目が多いので、隣の図書館に行きましょう。」
と言って5人は踵を返して歩いていく。
俺は小さく溜息をついてその後ろについて行った。
図書館の中庭に連れて来られた俺は、ふとヒビキのいる道場を
眺めた。
ここからでもヒビキの姿が見える。
今はシノブと型の練習をしていようだ。
空手をしている最中のヒビキの目って、まるで獲物を狙っている豹
みたいですごくカッコいい。
まぁ全く同じつくりの筈なのに、俺にはあんな目は出来ないけど……
「……高梨さん、話、聞いてます?」
先程の気の強そうな女の子に言われ、あぁごめん、と言って
そちらを見た。
「だから、美鈴(ミスズ)の事をどう思ってるのかって聞いたんです。」
ミスズって言うのは俺が一緒に帰ってた子だけど、
どう思うかって言われたって、俺はとっくに断っているんだ。
何が何だかわからなくて、ミスズちゃんの方を見た。
すると周りより一歩下がって、申し訳なさそうに頭を下げている。
「……イキナリ言われても何の事かわからないけど、
これは俺とミスズちゃんの問題でしょ?
だったら二人で話をさせてよ。」
俺がそういうと、女の子同士で、どうする?どうする?と
話し合っている。
そして結論が出たのか、気の強そうな子が
ミスズちゃんを俺の方に押し出し、俺に向かって
「彼氏なんだから彼氏らしくちゃんとしてあげて下さい!」
と言って、4人で図書館の中に入っていった。
……彼氏?俺が?