「カナデさんに何するのっ!」

ミスズちゃんがブルブル震えながら目に涙をいっぱい溜めている。
その場にいる全員が一瞬固まった。
さすがのヒビキと俺も目を見開いてミスズちゃんを見る。

「カナデさんを捕まえて来てとは佐藤さんに頼んだけど、
 それはあんたなんかに関係ないでしょ!
 早くその汚い手をカナデさんから放しなさい!」

呆然とするその3人組の手を俺から引き剥がす。
いきなり手を放されて、思わずよろけた俺をミスズちゃんが支えた。
そこでハッと我に返った3人組が、
てめぇ何すんだ!と言って再度俺を捕まえようと腕を伸ばしてくる。

とっさにヒビキが俺の前に立ちはだかり、その6本の腕を振り払う。
すると3人はヒビキに殴りかかった。
でもヒビキは一切自分から攻撃しない。
ただ相手の拳を受け止めるだけ。

すると、体育館の中から何人かの大人達が走り出て来た。
そしてその先頭にいて、大人達を引き連れて走ってくるのが
シノブだった。


俺達はみんなまとめて事務室みたいな所に呼ばれ、事情を聞かれた。
相手の3人は色々言い訳をしたが、ヒビキも俺もミスズちゃんも
黙っていた。
すると途中から様子を見ていたと言うシノブが状況を説明し
実際に3人を止めた大人達が証言した事もあって、
第一高は出場停止、ヒビキは正当防衛だと認められそのまま
お咎め無しになり、ミスズちゃんは後で親が引き取りに来る事に
なった。

同じ空手をやっている奴ら3人相手に一切攻撃する事がなかった
ヒビキは、いくら強いとは言っても所々に痣を作っていた。
すぐに医務室に移動して、治療してもらう事にする。

黙って治療を受けるヒビキと、同じく黙ってそれを横で見つめる俺。
そしてその後ろにミスズちゃんが下を向いて立っていた。


治療が終わり、3人とも廊下に出ると、そこにはシノブとサトルが
待っていた。
大丈夫か?と聞くサトルにヒビキは頷いて返す。
するとミスズちゃんが泣きながら謝ってきた。

「……ごめんなさい。
 私、本当に本当にカナデさんの事が好きだったの。
 だからどうしても私の方を見て欲しかった。
 その為ならどんな手を使っても構わないと思ったの。」

鼻をグスッと鳴らす。

「まずは周りに私達が付き合っていると思わせる事が大事だと
 思った。
 それで学校の友達に頼んでそうしむけるように協力してもらったの。
 同情してもらえるような話をすれば、
 優しいカナデさんはきっと付き合っている振りをしてくれると思った。
 だからその間に、ホントにカナデさんが私を好きになってくれれば
 良いと思ってた。
 だけど、全然振り向いてくれないし、
 何か話してくれてもいつも弟さんの話題だけだった。」

ヒビキがチラッと俺を見る。
俺は少し赤くなって下を見た。

「だからヒビキさんに応援をしてもらおうと思ったの。
 カナデさんはヒビキさんの言う事だったら聞いてくれそうだから。
 でも、ヒビキさんに応援してもらうには、それなりの話をしなきゃ
 ダメだと思った。
 ヒビキさんは曲がった事が嫌いだって聞いてたから、襲われたという
 話をすれば、カナデさんに責任とって付き合えって
 言ってくれるんじゃないかと……
 そして、応援してもらう約束を取り付けた後に無理やりにでも関係を
 持ってしまえばカナデさんはもう私から逃げられなくなる。」

……じゃあやっぱりあいつが言っていた通り、
あのままだったら俺は無理やり既成事実を作らされる
羽目になったんだ。

そう思って冷や汗をかく。
さすがにそうなったらいくらなんでもヒビキとの間はダメになるだろう。

「いつか私がヒビキさんに言った事が嘘だとわかっても、
 その時にはもう私のモノになってる筈。
 だから、カナデさんが手に入るなら何でもしようと思った……」

するとヒビキがパチンと軽くミスズちゃんの頬を打った。