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「あ、んじゃさぁ、迷惑ついでにもう1個聞いてもいいか?
 前のガッコ、共学だったよな?
 お前だったら、どんなオンナでも選び放題だっただろ?
 ならこっちに転校して来た時だって、彼女ぐらいいたんじゃ
 ねぇのか?」

二人でひとしきり笑った後、俺はここぞとばかりに質問を重ねた。
普段は話さないような、バカ正直な気持ちを語り合ったせいか、互いに少しだけ照れ臭くなっちまった雰囲気も解消したかったしな。

それにどう考えても疑問だったこと。
俺でさえそれなりにオンナと付き合ってたことだってあるのに、ましてや 皆瀬の様なヤツに、オンナの一人や二人、いなかった筈はない。
だから一度聞いてみたいとは思っていたんだが、かと言って忍の 前で聞くような内容じゃないし。
という事で、この機会を無駄にする手はないと、尋ねてみた。
すると皆瀬も、いつも通りに笑いながら返してくる。

「選び放題って訳じゃないが……まぁ、色々と。
 こっちに来た時も、いたかと聞かれれば、一応、いたんだろう。」

「【一応】 って何だよ?!
 他人事みたいに誤魔化すな〜!」

モテない男のひがみと言われればそれまでだが、モテる男の 余裕な発言に聞こえるその言葉達に、俺は思わず苦笑いする。

「別にこだわりとかも無かったし、基本、面倒臭かったから。
 放って置いたらいつの間にか 『彼女』 と名乗るオンナ達が
 かわるがわる出来てた。
 今考えれば相手の奴らに悪かったと思うが、当時は何かの度に
 都合良く利用させてもらってたんだ。
 そんな感じだったから、やっぱりそのうち 『冷たい!』 だの
 『私って何なの?!』 だのとキマリ文句を言われて、大抵
 最後は振られて終わりだ。
 言っておくが変な噂になってたらしい、妊娠させた、とかそういう
 のは全くないから。
 さすがにそれは無責任過ぎるからな。」

最後らへんの言葉に、自分の数少ない過去を思い描いて、同感同感、と うんうん頷いて話を聞いた後、もう一度皆瀬の台詞を振り返り、思わず ポカンと口を開ける。


……あんなに忍を甘やかして、優しい事この上ない程の皆瀬が、 キマリ文句と言えるほど 『冷たい』 ってか?
その上、振られた……?


まさか、と思うほど意外だった話に、『マジで  【冷たい】 って言われたのか?』 と 目を丸くしながら確認せずにはいられない。
そして皆瀬は 『毎回言われてた』 と笑いながら頷いた。

「こう言っちゃ悪いが、元々、興味ないものはどうでも良い性分
 だからな。
 それに家の方もゴタついていたし。
 そんなんだったから、龍門学園に転校して、学祭の準備が
 始まった頃に 『これ以上構ってくれないなら別れたい』 
 とかいうメールをもらって、『コイツ、誰だっけ?』 って
 一瞬思ったぐらいだ。
 勝手な噂っていうのも時にはありがたいモノで、前の学校
 では 【しつこいオンナは嫌いらしい】 とか流れていたから、
 ソイツは律儀に俺からの連絡を待っていたんだろう。
 だがその時はもう忍に興味があって他はどうでも良かったから、
 そのまま放って置いたんだ。
 そうしたらやっぱり 『冷たい』 だのなんだのと、ずらずら
 恨み言が書かれたお別れメールが来たから、『了解』 って
 送り返しておいた。
 だから 【一応】 だ。」

「……うっわ〜!マジかよっ?!
 それってかなりな 『人でなし』 じゃん?!
 振られて当たり前じゃねぇ?」

とは言いつつも、元カノ達には悪いがクックと笑いが漏れた。
皆瀬も俺の台詞に頷きながら、

「自分でもつくづく最低だと思ってるから、忍には言えないけどな」

と一緒に笑っている。
確かに忍のあの性格だから、その話を聞けば自分の立場も一瞬忘れちまって、
『彼女達が可哀想でしょ!』
とか言って怒り出しそうだもんな。

だがそれはそれとして、忍との付き合い方を見ている分には、皆瀬が自分の オンナ達に冷たい図なんか全く想像がつかない。
というより、どちらかと言えばとことん手をかけて甘やかして大切に 守るタイプだと思っていた。

「聞いてみなきゃわかんねぇもんだな〜。
 それにしても、今のお前と全く別人じゃね?
 あ。興味ねぇヤツはどうでもいいからか。
 んじゃ、それだけ忍に惚れてるって……事、だな。」

さっきまでの話も思い出して、うんうん頷きながら勝手に自己完結してしまった俺に、 チラリとこちらを見ながら苦笑して返して来る皆瀬を見て、 一瞬で後悔した。

やれやれ、ヤブヘビだったぜ……

だが、そんな皆瀬の意外な一面を聞いて、前よりも更に親近感が 増した気がする。
背は高いし顔はイイし、頭も良ければ性格もイイ。その上大人だ。
と来れば、同じ歳の男としてかなり悔しい反面、コイツすげぇ…、と 尊敬の眼差しを向ける一方だったから。
……今の今までは。


「『皆瀬は黒いぞ』 と高梨が言ってたが、こういう事だったのか〜。
 いやぁ〜、俺の想像をはるかに超えてたぜ。
 お前の裏の顔を知ったら忍もビックリじゃねぇ?」

俺はクククと笑った。
今日は皆瀬も俺と同じ、悩めるただの17歳だったと わかった嬉しさなのか何なのか、どうしてもニヤニヤ笑いが止まらない。

「だろうな。
 だがお前達は口を割らないだろう?」

「そんなの当たり前じゃねぇか。
 ……や?ん?
 だが……って事は……
 やりぃっ!
 お前の弱み、1個握ったぞっ!」

そう言って得意げに笑ってみたものの、そんな俺とは対照的に、皆瀬はまるでなんでもないことのように、

「甘いな。
 忍は最初から本能で俺って人間を嗅ぎ分けているんだろうから、
 バレたところで忍の気持ちが変わるとは心配していない。」

と、前髪をいじりながら平然とそう言い放つ。

自分が 『黒い』 事を全く否定しない上に、忍を信じきったこの態度。
俺は呆れるのを通り越して、思わず腹を抱えてギャハハと笑い転げた。

皆瀬ってこんなヤツだったっけ……?
コイツ、面白れぇ〜……


その後、それほど経たずにやって来た奏を迎えに出た皆瀬が、勢い良く 天井の梁に頭をぶつけて痛がっているのを見てまた笑い転げ ながら、背が高いのも結構大変なんだと思ったり、既に部屋にいる俺と奏や、 忍と一緒に来た高梨の存在などには目もくれず、『遅くなって ゴメンね〜♪』 と早速飛びついて来る忍を大切そうに 抱き締め返している皆瀬に、奏と一緒に笑ってツッこんだり しながら、妙にハイテンションで、そして、物凄く充実した 気分で仲間達との時間を送った。