膝を進めたのはいいものの、僕は司の首にしがみついたまま、ただがむしゃらに何度もキスを繰り返していた。
いつも司はどうやって動くんだっけ……?
この後どうすればいいんだったっけ……?
緊張や焦りやドキドキや色んなもので頭の中がぐるぐるで、次にどうしたらいいのかが思い浮かばない。
すると司が唇を離しながら首に回していた僕の右手を外させ、自分のパーカーのファスナーを掴ませる。
「……脱がさないと先に進めないだろう?」
「んん…っ……」
耳元で囁く低い声が腰に響いて思わず甘い声が漏れ、ゾクゾクと全身に鳥肌が立つ。
だけど、今日は僕が全部するって決めたんだから、と必死で自分を励ました。
震える手には鞭を打って、ギュッと目を瞑りながら一気にファスナーを下ろす。
そして袖口を両手で掴んでグイッと引っ張り、協力してくれる司に合わせてそのままパーカーとTシャツを脱がせ、ソファの脇に放り投げた。
そこで少し迷ったんだけど、やっぱりここじゃなくて僕の部屋に連れて行こうと司の膝から降り、両手を引いて立ち上がらせた所で思わずゴクリと息を呑む。
普段ズボンを低い位置で穿いてるからわかり辛いけれど、司は190cmの身長から考えても足が長くて日本人離れしたスタイルをしているので、モデルを頼まれたというのが全く不思議じゃない。
司と同じ様にやっぱり背が高いというお父さんがクォーターだそうで、元々彫りが深い顔立ちもあってそれにはうんうんと納得がいっていた。
でもスタイルだけじゃなく、柔道をやっていた事や今は毎日力仕事をしている事も幸いしているのか、浅黒い肌に包まれている引き締まった筋肉が、決してゴツイというのではなくすごく綺麗なんだ。
同じ男としても武道を学ぶ者としても、司の体は僕の憧れだった。
だけど、憧れる体をしている人なら響もそうだし司以外にも沢山いる。
ただ、僕がこんなにドキドキするのは司だけ。
こんなに触れたいのは司だけ。
こんなに突き動かされるように結ばれたいのは……司だけ……
温かい素肌の胸に顔を埋めながらギュウゥと抱き付いた。
こんなに誰かを好きになるなんて……
広い腕の中に囲い入れてくれる司の硬い胸に何度もキスをしている内に、恒例にしている、大好きなイヤーカフにキスするのを忘れていた事に気が付いた。
でもこのままだと耳まで届かないので、背中にまわしていた腕を解いて一旦ソファにのぼり、力強い線を描いている肩に両手を置く。
司は苦笑していたけれど、それでも僕がしたい事に気が付いたようで、黙って待っててくれていた。
下手は下手なりに思いだけは沢山込めて、幾何学模様が彫られたシルバーのイヤーカフにそっとキスをする。
そしてそのまま唇で首筋に触れていくと、司の手がトレーナーの裾から入って来て、その時になって初めて僕も脱がなくちゃ、と気が付いた。
慌ててトレーナーを脱ぎ、司の服のそばに放り投げるのと同時にするりと両脇腹を撫で上げられる。
「や…あっ……」
ピクンと体が勝手に跳ねた。
だけどそれが何だか悔しかったので、お返しに、鎖骨の上に強く唇を押し当てて吸い付く。
そして手を止めた司を得意げに見ながら唇を離した。
あれ?薄っすらと色が付いたかな?位で、司が僕に付けるようには綺麗に出来てない……
その部分を人差し指で何度も押してみながら首を傾げていると、司が 『力が弱いからだ』 とクスッと笑った。
「……キスマークはこうやって付けるんだ」
言うなり片腕で力強く抱き寄せられ、首筋を舐め下ろされながら鎖骨の上や喉元やあちこちを吸い上げられて、その度にピリッとした微かな痛みが走る。
でも痛みだけじゃない、大きな腕の中にいる安心感や温かさや、この先を期待するドキドキやワクワクや、胸がキュッと締め付けられる甘酸っぱさが全身を取り巻いていった。
「んん…あっ…ぁっ…」
もう片方の手が胸の突起を直接刺激し始め、司の動きに合わせて急速に下半身に血が集中していくのが自分でもわかる。
すると更に体を引き寄せられて、僕と同じ反応を示している司の熱くて硬い塊が押し当てられた。
ちゃんと僕を求めていてくれるとわかるその反応が嬉しくて、ギュッと首に抱きつきながらそのまま抱っこをしてもらう。
さっきから足が震えっぱなしで、自分で歩ける自信なんて全然無かったから。
「……部屋に連れてって?」
自分がきっとそんなにもたないとわかっていたので、先を急がなければと、司のように精一杯声を低くして囁きながらもう一度イヤーカフに口付けた。
だけど何故か司は吹き出してしまい、僕を抱っこしたままクックと笑っている。
……何でかな?
僕だったら司の低い声ですごくドキドキするのに。
これでも無い知識を総動員して、一生懸命誘っているつもりだったんだけど……
でも笑いながらも額にキスをしてくれて、軽々と僕を抱えたまま部屋に向かい始めたので、しっかりと足を腰に絡ませながら唇が届く範囲の全部にキスをしていく。
もっと。
もっともっと。
もっと深く、司と結ばれたい。
もう二度と、僕の中で疑惑の種が芽生える事のないように……