いっぱいいっぱい泣いて、疑いの種を全て綺麗に洗い流し、ようやく少し落ち着いたところで。
司がそっと僕の肩を掴んで引き剥がしながら、『もう聞きたいことはないか?』 と顔を覗き込んで来た。
体を離されたのでぐしぐしと袖で涙を拭った後、鼻を啜り上げながらまた司のパーカーを掴んで、うん、と反射的に頷こうとしたんだけど、そこでふと思いとどまった。
どうしようかな……
……でも……やっぱりあと一つだけ……
「……ん…っと、あの、……僕に…何も…してくれなく……
なったのは……?」
自分で言ったクセに急に居たたまれなくなってカァ〜と顔が真っ赤になってしまい、司のパーカーを引っ張ったり摘んだりしながら視線を彷徨わせる。
すると司は一瞬驚いた様に僕を見た後、『気にしてたのか……』 と言いながらクスクス笑い始めた。
「俺が忍に 『何か』 をすれば、どうやっても忍の体に負担が
かかるだろう?
練習試合が続いていたし、体調は万全に整えておくべきだと
思っていたから 『何も』 しなかった。」
そういえば司と結ばれた後って、どうしても身体がだるかったりとかするんだっけ。
そっか〜、僕の為だったんだ……
あ、でも……
「ででででも、ね、……キ…キスも……なかった、でしょ……?」
顔が火照ったままなので、それを見られないよう下を向いたまま聞いてみると、司はクスッと笑ってから 『忍』 と声をかけて来る。
その声に思わず顔を上げると、司が片手を僕の後ろ頭にまわして唇を合わせて来た。
突然だったから驚いたけど、でもやっぱりすごく嬉しくて、目を瞑ってそのキスを受ける。
僕を宥める為にしてくれたさっきのキスとは違い、司の舌が歯列を割って入って来て、ゆっくりと口腔を這い回り始めた。
心臓はドキドキしっ放しだったけど、絡めてくる舌に自分の舌も積極的に絡め、掴んでいたパーカーを離して司の首に両腕を回す。
後ろ頭を支えていない方の手が緩々とトレーナーの上から上半身を撫で上げていく。
「……んっ…ぁ……」
司の指が胸の突起を掠め、思わず唇を離して声を漏らす。
すると司は耳に舌を這わせながら、ハスキーな低い声を更に低くして囁いた。
「……キスをすれば触れたくなる。
触れれば忍の声が聞きたくなる。
忍の声を聞けばその先に進みたくなる……」
「……ぁ……あッ……!」
耳元に響く声と、舌を這わされる鳥肌が立つような感覚と、司の指が掠める度にピクッと走る甘い快感に頭の中がぼんやりとし始める。
だけど司はそこでふいに全ての動きをやめて体を離してしまった。
なんで……?
僕はもっと先に進みたいのに……
呆然としたまま涙目で司の方を見ると、司は苦笑しながら僕の額に軽くキスをした。
「途中で止めるのはお互いかなりキツイだろう?
だから取りあえず試合が終わるまでは何もしない
つもりだった。」
「じゃ、じゃあ、今日…は……?」
赤くなったまま上目遣いで尋ねる僕に、司は小さく笑う。
「……忍次第だ」
「僕?」
「忍はどうしたい?」
半分からかうように、半分困ったように尋ね返してくる。
僕が…どうしたいのか……
僕はどうしたいんだろう……?
……そんなの……決まってる。
ドキドキする心臓を少しでも落ち着ける為に、一度大きく深呼吸する。
そしてグッと気合を入れて決意の籠もった目で透明な瞳を真っ直ぐ見詰め返し、勇気を振り絞って両手で司の頬を挟んだ。
「今日は……全部僕がするっ!」
迷いや恥ずかしさを振り切るようにそのまま勢い良く唇を合わせ、うっかりぶつかってしまった歯がカチリと鳴った。
目を閉じていても、司が笑いをこらえている事が合わせた唇から伝わって来る。
司が何で笑っているのかはわからないけど、でも僕だって男だから、いつもしてもらうばかりじゃなく自分からキスをしたり触れたりしたい。
それに司を疑ってしまった罪滅ぼしのためにも、今日は自分から何かをせずにはいられなかった。
司とは違ってすごく不器用だし下手だけど、それでも僕の思いは間違いなくわかってくれるはず。
舌先で下唇を辿り、少し開いている唇の間に挿し入れてみる。
司はちゃんと僕の思いに気付いてくれたようで、反応を返す代わりにゆっくりと優しく背中を擦ってくれていた。
バクバクいっている自分の心臓の音には気付かないフリをして、大きな手に励まされるようにもっと奥に舌を挿し入れると、ようやく届いた司の舌に無我夢中で絡めた。
心臓はうるさい位に鳴っているし、顔は自分でも火傷しそうなほど火照っているし、体は反応を示し始めて頭の中は真っ白になってくる。
それでももっと思いを伝えずにはいられなくて、唇を合わせたまま頬を挟んでいた手を司の首に回し、ギシッとソファの音を立てながら膝を一歩前に進めた。