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「昨日言ってた話なんだが」

司の言葉に思わず首を竦めてギュッと目を瞑る。

……どうしよう……聞きたくない……っ
聞きたくないっ……!


「ダ、ダメっ!それ以上言ったらダメっ!」

気付いた時には身を乗り出して両手で司の口を塞いでいた。

「やだっ!聞きたくないもんっ!
 ……ツ、司が、か、彼女が出来たとか、やややっぱり
 女の人の方がいいとか、そんなの……絶対…絶対っ……
 聞きたくないっ!」

司は突然叫んだ僕に驚いて目を丸くしていた。
だけどもう止まらなくて、昨日から溜まっていた涙が勝手にボロボロと溢れ出して行く。

「僕が……子供っぽいのは…わかってる……っ
 だから…司が一緒に、いた女の人には…敵わないかも
 しれない…けど……でもっ…もっと大人っぽくなれる
 ように頑張るからっ!
 男なのは…どうしようもないけど……っ
 だけ、ど……その分司を好きだっていう…気持ちだけはっ…
 せ、世界中の誰にも負けないもんっ!」

こんなつもりじゃなかったのに、もっと大人になって落ち着いて話をしなきゃって思ってたのに、司がどこか違う人の所に行っちゃうかもしれないと思うだけで苦しくて苦しくて胸が潰れそうだった。


司は泣きじゃくっている僕を少しの間黙って見た後、おもむろに口を塞いでいた僕の両手首を掴んで少し強引に外させる。

……もう…そんなに僕に触られたくないのかな……

辛くて悲しくて、後から後から止め処なく涙と嗚咽が溢れ出していく。

「忍」

ハスキーで低い、大好きな声で優しく名前を呼ばれて胸がギュッと締め付けられる。

みっともないのはわかってるし、こんな我が侭を言ったらもっと嫌われるかもしれない。
でも、それがわかっていても、司が他の人の所に行っちゃうなんて絶対嫌だった。

「……やだっ……
 絶対絶対っ!司と別れないっ!」

好きだもん……
こんなに司だけが好きだもん……

「忍」

司がまた優しく名前を呼ぶ。
だけどそれが余計涙を止まらなくさせて、手首を掴まれたまま半ば暴れながら 『やだっ!やだっ!』 とブンブン首を横に振る。


すると司が急に掴んでいた手首を放し、僕の頭をスッポリと包み込んでしまうほど大きな両手で顔を挟んで上を向かせた。

……大好きな大好きな、何の曇りもない透明な瞳が真っ直ぐに僕を見下ろしている。

「……少しだけ黙ってろ」

そう言って突然唇を合わせられたキスに驚き、ヒクッと喉を鳴らして目を見開いた。


しばらくの間強く唇を押し付けたあと、興奮していた僕を宥めるようにそっと唇に舌を這わせ、啄ばむような軽いキスを何度も落として行く。
目を開けたまま久し振りのキスの感触にフルッと体が震えると、司は柔らかく下唇を吸い上げてから静かに唇を離した。

「少しは落ち着いたか?」

目を細めながら僕を見下ろしている透明な瞳には、ちょっとだけ困ったような影が見える。
それでも、ちゃんと僕を好きだと思ってくれている気持ちが見えているような気がした。

それが僕の気のせいじゃないといいのに……

どうしようもなく胸が痛くなって切なくなって、声にならない熱い塊が涙に変わり、瞬きと一緒に目尻からポロポロと零れ落ちていく。

「忍の様子がおかしかった理由は、さっきの台詞で何となく
 想像が付いた。
 だから、まずは俺の話を聞いてくれるか?」

零れた涙を親指で拭ってくれながら小さく笑う司に、ヒックヒックとしゃくり上げながらコクンと頷いた。